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8.知希との再会1

危ないと、止められるだろうか。

そんな風に内心ドギマギしていると、紗綾は真っ直ぐに美沙緒を見つめ、それからフッと笑った。


「そう。ちゃんと連れて帰るのね?」

「それは、もちろん…!」


答えると、紗綾は軒先から腰を上げた。

途端に周りにいたヒダネムシが、一斉に舞い上がり、ちょうど吹き抜けた一陣の風に、いくら光が流される。そんな様子を興味もなさげに見送って、紗綾はこちらに向き直った。

光が減っても、やっぱり彼女は綺麗だと、しみじみ思う。


「それなら、手伝ってもいいわ。アレを残していかれると、厄介なのよ」


「厄介って…?」


てっきり反対されるかと思っていたので、まさか手伝ってくれるなんて思ってもみなかった。首を傾げる美沙緒に、紗綾は特に答えること無く手近にあった水入りのペットボトルを引き寄せる。

そうして中身の水を捨ててしまうと、今度は彼岸花の花弁を千切って入れていく。

細くて長い彼岸花の花弁は、難なくペットボトルの細い口から入っていった。


「これ、便利よね。もっと欲しいわ」


花弁入りのペットボトルを置いておけば、自然に寄ってきたヒダネムシが次々と入っていった。狭いペットボトルの中が発光するヒダネムシでいっぱいになると、紗綾はその口を容赦なく閉める。

あっという間にペットボトルでランタンが完成してしまった。


(便利なのはヒダネムシでは…?)

便利なのは間違いないが、火付け方法といい、密閉容器にぎゅうぎゅうに押し込むのといい、かなりヒダネムシの扱いがひどい気がしなくもない。

まぁ、便利なのはたしかだけれど。

なんとなく、使うだけ使って、使えなくなったらポイ捨てされる様が、自分と重なってなんとも言えない気持ちになるのだ。


(とりあえずランタンのヒダネムシは、後で解放してあげよう…)

こっそり決意しつつ、さっさと森の中に入っていく紗綾を追った。


**********

日中の光があまり入らないような不気味な森から一転、夜の森はあちこちで浮遊するヒダネムシの灯りと、空に浮かぶ満月の月明かりで幻想的な雰囲気へとその姿を変えていた。

花喰いへの恐怖が無ければ、時間も忘れて見惚れていただろう。

足を一歩進めるたびに、その足元からふわりとヒダネムシが舞う。

そんな様子に、踏まぬようにと慎重になる美沙緒と違い、紗綾は慣れた様子で足場の悪い獣道を進んでいく。足元の虫など気にもとめない。

夜の森にも、いつ現れるかもしれない花喰いの存在にも全く動じる事なくこちらに背を向け進む彼女に、美沙緒は置いていかれまいと必死にその後を追う。

これは美沙緒一人では、方向もわからずに迷子になるのがオチだった。


「…ねぇ、どうしてついてきてくれたの?」


「さっさと帰って欲しいから」


「…」

相変わらず彼女とは仲良くなれる気がしない。

けれど、美沙緒のために今、彼女が動いてくれているのは事実なのだ。


「それは、さっき言った“厄介”な事になるから?」


「そういうこと」


「それって、なに…」


そう尋ねようとした矢先、紗綾が急に足を止めた。

真っ直ぐこちらを見つめて、問う。


「あなたの花は、駅前には見当たらなかった?」

「…多分」


そもそも見分けがつくようなものなのだろうか。

美沙緒には全部同じような彼岸花に見えて、どれが美沙緒の花なのかわからない。


「…どれが自分の花か、わかるものなの?」

「わかるわ。花自身が、待っているから」


その言葉に、永夜の存在を思い出す。


「駅前に花が多い理由は、見つけて欲しいから」

「え?」

「迎えに来た相手にすぐに気付いてもらえるように。自分が気付けるように」

「じゃあ、いない理由は…?」


美沙緒の問いかけに、紗綾はしばし黙りーーーそれからちらりとこちらを見た。


「花が見つけてほしくない。帰りたくない。花喰いに食べられた、…あるいは」


次々と上がる可能性。

そのどれもが、美沙緒の心を抉る。

見つけてほしくない、帰りたくない。そうだとしたら、やっぱり知希はーーー。


俯いた美沙緒に、けれど紗綾は何かに気付いたように言葉を止め、それから美沙緒の手を引き近くの木の側へと身を寄せた。

驚いて顔を上げた瞬間、ふわりと鼻先に嫌な匂いがかすめる。ぞわりと背中に泡肌が立って、冷や汗が浮かぶ。


「静かに」


思わずあげそうになった悲鳴は喉の奥で掻き消えた。

紗綾の視線の先、数メートル離れた場所で、ユラリと黒い影が動いた。

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