47.得たもの
「---美沙緒!」
鋭い声に、顔を上げる。
強い衝撃と共に、体が宙に浮く感覚。化け物の長い手に掴まれ、そのまま体ごと持ち上げられていた。眼下に、美沙緒など一飲み出来そうな化け物の口が開く。掴み上げられた衝撃で、上着のポケットからペットボトルが転がるのが見えた。
(花、が---…!)
慌てて手を伸ばして、かろうじて掴み取る。
そうして、ふと、気付く。
降り続いた雨の中を走り回っていたせいで、いつの間にか雨がペットボトルの中に入り込んで水滴が溜まっていた。
その水に、彼岸花の切り口から白い液体が広がっている。
ーーー賢く使ってちょうだい。
突然思い出された紗綾の言葉に、冷や汗が浮かぶ。
(え、まさか、あれってそういう…!?)
化け物が、美沙緒を掴む手を放す。
そうして美沙緒は、重力のままに真っ逆さまに口の中へと落ちていき---…。
(嘘でしょう!?)
大量にヒダネムシの閉じ込められたペットボトルに、着火剤の準備の出来た水。
美沙緒の掌の中で、ちゃぽんと水が揺れた。
---その次の瞬間、ペットボトルが急速に熱を持ち、その熱が膨れ上がるようにして巨大な炎を生み出した。
**********
温かな、繭の中にいるようだった。
全く一ミリも覚えてはいないけれど、母親の胎内にいた時もこうだったのだろうか。守られていると、何の不安もなく思える幸せ。自分を包むものに、そっと触れる。
「…知希?」
時に、美沙緒を追い詰める存在になるけれど。美沙緒が彼を信じられれば、何よりも強く守ってくれる。
「…さすがに死んだと思ったわ」
でも、終わらなかった。
どんな状況にあっても、諦めさえしなければ、奇跡のような打開策がどこかにあるのだ。
未来が続くことの幸せ。また彼との約束を果たすために頑張れることの幸せ。これからを変えていける可能性を持つことの幸せ。そんなことを実感しながら、美沙緒はふっと笑う。
「もう、なんだって出来るわね」
クスリと笑う声が聞こえる。
美沙緒も笑う。こんな目にあったのだ。
ちょっとやそっとじゃ、逃げ出さない自信が、もう、ここにある。
そうしていると、パリパリと、卵の殻が割れるように繭が壊れて空が覗いた。
「お姉ちゃん!」
その割れ目を広げるように、小さな手が覗く。
「さすがにしぶといわね」
次いで覗いた紗綾が、大きく割れ目を広げてくれた。ひんやりと冷たく澄んだ空気が、肌を撫でていく。
体を起こせば、すっかり火の手の落ち着いた草原が広がっていた。夜が終わり、雨は上がり、次第に顔を出す太陽で光が広がっていく。
(ーーー終わった…)
安堵に泣き出す永夜の頭を撫でながら、美沙緒はじろりと側に立つ紗綾を睨んだ。
「…私を殺す気?」
けれど相変わらず彼女は悪びれる様子もなく、「雨が降るなんて思わなかったもの。不可抗力よ」とケロリと言って、そうして笑った。




