42.対峙
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ずしりと肩を持っていかれそうな重さに、美沙緒は顔を顰めた。
(思った以上に重い!無理!)
いくら小柄な子供でも、右手にかかる永夜の体重は美沙緒一人で支えるには重すぎた。
ただでさえ不安定な足場で、不安定な場所。
おまけに永夜が手を怪我しているらしく、ぬるりとした血で滑りそうになる。少しでも揺れるたびに、掌から永夜の手が抜け落ちてしまいそうで、心臓が跳ねて嫌な汗が浮く。
それでも。
---助けて、お姉ちゃん。
永夜の差し出してきたこの手を、離すことは死んでも出来ない。
「お姉ちゃん、後ろ!」
「え?」
焦る永夜の声に、背後を振り向く。
いつの間にか、小山ほどの大きさになった化け物が、その背後にそびえていた。
「---ッ!」
ぞくりとした恐怖に思わず身が竦む。
怖い、怖い、怖い---…!
全身が発する警鐘を、必死に宥める。
どうしようもなく大きく膨れあがって、恐ろしくて、でも、はっきりとした形にならなくて。
ふと思い出す。
美沙緒はこんな恐怖と、以前も対峙したことがある。
飲み込まれそうな不安と未来の見えない絶望から、何とか逃げ出そうと必死だったあの頃。心臓をぎゅっと握りつぶされるような、息苦しさと、ただ無力感だけに支配されていたあの頃。
視界が狭まり、とにかく逃げることしか考えられなくなって、あの時は結局、押しつぶされて、飲み込まれてしまった。そうして知希を捨ててしまった。
怖いのは、嫌いだ。不安も、抱きたくなんかない。
けれど、何も考えずに逃げた先で、美沙緒は多くのものを失ってしまった。傷付けてしまった。そうして、多くの後悔が残った。
唇を噛み締める。逃げそうになる心を、押しとどめるように。
必要以上に大きく作り出す不安や恐怖に、飲み込まれてはいけない。立ち向かう前に、諦めてはいけない。それを、散々知希を傷付けたことによって学んだはずだ。
ぐっと、永夜を掴む手に力が入る。
もう、逃げない。
逃げるわけにはいかない。だって、守らなければいけない永夜がいるから。知希との約束があるから。
(もう少しで、引き上げられる…!)
諦めない。死んだりなんかしない。少しでも可能性を考えなくては。道を、探さなくては。
ふわり、とヒダネムシが舞う。小さな光が集まり、大きな光となって化け物のーーーいや、化け物の腹から覗く華奢な腕に集っていた。花の焼失したこの世界で、ヒダネムシが集うのはーーー…。
(まさか)
ぴくり、と腕が動く。
確信だった。生きている。
彼女はまだ、あそこにいる。
「―――紗綾!助けて!」




