表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/52

36.電車

生きたいと、願ったからだろうか。

ここへ来て、初めておとずれた現世行きの電車。

信じられない思いで目を見張る美沙緒の視界に、草原の闇を切り裂くように、強力な道筋を照らして走ってくる電車が見えた。


「電車がーーー!」

助かった。

帰れるのだ。

全身から力がぬける程に安堵が広がる。


けれど、思った直後ーーー…。

背後から、叫びとも咆哮ともつかない、空気を震わせる鳴き声がした。

振り返れば、闇に沈んだ草原の中を更に深い黒で塗りつぶし、蠢くものがいる。


(花喰い…!)


慌てて体勢を整え、秋人を担ぎ直す。


「ごめん、永夜。あと少し、頑張って…!」


永夜と二人で秋人を抱え、駅へと向かう。

ほとんど力の入らない秋人を支えるのは、美沙緒と永夜では力が足りなすぎた。


あと500メートル。

あと300メートル。

あと1メートル。

あと…!


祈るような気持ちで足を進め、息を切らして無人駅へと駆け込む。

ユラユラと揺れる、今にも消えてしまいそうな、白熱電球の心許ない明かり。けれど、この暖かな光が、何よりもこの光の元に辿り着けたことに、心に深く大きな安堵をもたらす。


また、花喰いの声が聞こえた。

先程よりも近くなったその声。身を竦めた瞬間、電車がホームへと滑り込んだ。

誰も乗っていない、空っぽの電車。

美沙緒達のための、帰るための、電車。

息を呑む美沙緒の目の前で、ドアが開かれ、その口を開けた。


安堵に泣きそうになりながら、最後の力を振り絞って秋人を連れ、電車に乗り込む。

けれどその時、ーーー…ぐっ、と肩にかかる秋人の重さが増し、バランスを崩しそうになった。


「ーーー永夜?」


反対側で秋人を支えていてくれたはずの永夜が、駅のホームに立ったまま、こちらを見ている。


「僕は、いかない」


「どうしてーーー!化け物がいるのよ!?」


「…紗綾を、助けないと」


思いがけない発言に、耳を疑った。


こんな場所に残る?

化け物が目と鼻の先まで来ているのに?


「大丈夫だから。お姉ちゃんだけ、行って」

「ダメ!」


信じられない思いで、けれど言い合っている時間も惜しくて、力尽くで引き寄せようと再び腕を伸ばすが、永夜はするりと交わしてしまった。

次の瞬間、美沙緒と永夜の目の前で、二人を隔てる扉が閉まる。


「え…?」


呆然としている間に、電車が動き出す。


「嘘…」


呆然とする美沙緒の目の前から、永夜が消える。

ガタガタと揺れる電車の車内で、美沙緒はその場にへたりと座り込んだ。


ーーー…そんな。


永夜を、置いてきてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ