表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/52

27.夜の訪れ

今にも雨粒が落ちてきそうな雲が、空を覆いだしていた。


日が暮れてきているせいで暗くなってきたのかと思っていたが、どうもそれだけではないらしい。

ずっとこれまで快晴だったこの場所で、不吉を運んで来るような雲行きに、言いようのない不安を覚えて美沙緒は足を止めた。


永夜と二人でマシロの痕跡を追いかけながら、過ぎてゆく時間に焦りも募る。


(早く、秋人を探さないと…)


ただでさえ暗いのに、これ以上は周りが見えなくなる。

そうしてなにより、花喰いが活動を始めてしまう。


「お姉ちゃん?」


急に立ち止まった美沙緒を不思議そうに永夜が見上げる。


「ごめん、急がないとだね」


急速に視界の悪くなる森。リミットは刻一刻と近づいてくる。

出来ることなら人手はあるにこしたことはないが、ここに紗綾はいなかった。


「見つけるまで、帰ってこないでね」


ひらひらと手を振り送り出す彼女に、瞬間的に噛みついたのは仕方ないと思う。


「手伝ってくれないの!?」


「厄介なものを持ち込んだのは貴女達なんだから、貴女達で何とかすべきでしょう」


「勝手に連れてきたのはそりゃ悪かったけど!

紗綾があんなこと言わなきゃ、あの子は森になんて入らなかったじゃない!」


---”そんな厄介なもの、捨てて来て”


そんな、言葉を。

もし自分に言われていたら。

もし、言われたのが自分だったら。

考えるだけで、胸が痛くなる。


「…秋人じゃないけど、さすがにあの言い方は酷いと思う」


けれど、紗綾には届かない。

美沙緒が感じるような胸の痛みを、彼女は感じることがないのだろうか。

批難を込めて睨んでみても、彼女はケロリとしている。


「全ての人間が自分と同じだと当たり前に思っている人に、なんて思われようと、どうでもいいわ」


(だから!言い方!)


伝わらない。響かない。理解してもらえない。

相手も理解を求めていない。


(…それが)


こうして彼女から離れ、苛立ちが落ち着くと、また、別の感情が姿を見せる。


(どうしてこんなに悲しいんだろう)


「お姉ちゃん、紗綾を嫌いにならないで」


憮然とした美沙緒の様子に、何を思ったのか必死に後ろから着いてくる永夜が言った。

そんな永夜の控えめな願いに、少し困る。


「…嫌いというか」


好きとか嫌いではなく、彼女とは根本的に考えが合わない。苛立ちは感じるけれど、嫌う程には感情は波立たない。好きかと言われたら、イエスとは言えないけれど。


「永夜は紗綾が好き?」


尋ねれば、うんと笑った。

…永夜が懐いているのなら、やっぱり多少、ほんの少し、ちょっとぐらいは良いところがあるのかもしれない。あんな性格だけど。


**********


「げっ…」


枯れた道を追ってきた先、目の前に広がった光景に美沙緒は思わずぎょっとした。

幾つも転がる大岩。一見ただの岩に見えるそれが、今一番関わりたくないものの塊であることは、一目瞭然だった。


「あの子、こんな所に来たの…」


もうだいぶ日が落ちている。

いつ動き出すかわからない花喰いを前に、近付く事も、やたらと声をあげることも憚られた。


「秋人ー?」


こわごわ岩の転がる方向へ呼びかけてみるが、ウンともスンとも返事がない。マシロの姿も見当たらなかった。

マシロが残した枯れた道筋が、もうほとんど闇に侵食され判別出来なくなっていた。

これ以上は追いかけるのはどう考えても無理だ。


「いったいどこにいったの…?」


困り果てて、空を仰ぐ。

木々に阻まれた先の空には、確実な夜の気配。

ヒダネムシがちらちらとその姿を現していた。


マシロだけでなく、秋人も見つからない。

そうしてーーー…。


「…お姉ちゃん」


永夜が硬い声で手を握る。

その視線の先で、岩山が不自然に動き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ