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26.マシロと花喰い

**********

“ーーーお姉ちゃんって、厄介者だよねぇ”


半分しか血の繋がらない妹の、くすくす笑う声がする。

その言葉が、どれだけ残酷か知りもせずに。

ただ、本当の事を言って、真白の反応が見たいだけの言葉。


“結城ってさ、視界に入るだけで不愉快なんだけど”


対して関わりもしていないのに、ターゲットになったと言うだけで向けられる悪意。

だから、どうしろというのだろう。

ノートやカバンをゴミ箱に捨てるのと同じくらい、簡単に投げつけられる言葉。

私は、ここにいるのに。消えることなんて、出来ないのに。


ーーー“捨てて来て”


そう言った、先程の女の目。

あれには見覚えがあった。何度も見てきた。何度も向けられてきた。

そこにあるのは、真白に対するハッキリとした拒絶。


いらない。いらない。

どこに行っても、真白は”いらない”。


(悔しい、悔しい、悔しいーーー…!)


いつだって、選ばれる側なのが。いつだって、それをどうすることもできないのが。


(私だって、”いらない”。あんた達みんな…全部、何もかも、もう、いらない!)


だから、壊したかった。終わりにしたかった。

今まで感じていた恨みを、最後にぶつけてやりたかった。


---”一緒に呪いましょう、恨みましょう”


そう言って、狂ったように笑う女の顔が、声が、感情が蘇る。


許さない。許さない。

私を軽んじてきた全てを。

許さない。許さない。

私の感情を、無視したことを。

呪って、恨んで。

そうして刻み付けることで、この苦しさが”無かった”事にだけはしたくないと、そう叫んでいるようだった。


気付けば、大きな岩山があちこちに転がっている場所にいた。

力任せに目の前の岩をたたく。手が痛い。じんじんと痺れる。骨が軋む。

でも、それよりなにより、心の方が痛かった。

腕なんかどうなってもいい。壊れてしまっても、血が出ても、骨が折れても。

それよりなにより、この、胸の中に渦巻く感情をぶつけてしまわなければどうにかなってしまいそうだった。


「嫌い、きらい、キライ、嫌い…!」


勝手に離婚して、勝手に再婚した母親も。

真白の態度が気に入らないと、機嫌が悪ければすぐ手を上げる母が連れてきた男も。

母や父から向けられる愛情が、当たり前に自分だけのものであると知っている妹も。

真白を視界に入れることさえ嫌と言いながら、わざわざ嫌がらせをしてくるクラスメイトも。


全部嫌いだ。周りの人も、世の中も、今あるこの世界全て。何もかも無くなってしまえばいい。消えてしまえばいい。そうすれば、そうすればーーー…。

---私は、独りじゃなくなるのに。


ずるりと、岩に寄り掛かるようにして崩れ落ちる。

誰にも必要とされない。どこに行っても邪魔者扱い。存在することが、許されない。

溜め込んでいた悔しさが嗚咽となって口から洩れる。

一度溢れ出すと、もう止められなかった。

その時、それまで硬く、冷たく真白を受け止めていた岩がかすかに動いた。


「…イタイ…」

声が、聞こえた。

ズルリと皮膚が剥がれるように、岩の様に硬かったはずの表面がめくれ、中から生き物の様な“何か”が現れた。広がる悪臭に、爛れたような、腐ったような醜い容姿。ギョロリと、その肉塊の中から現れた目が真白を捉えた。


「イタイ…」


真白が叩いたからだろうか。

化け物は同じ言葉を繰り返し、ゆっくりとこちらに近付いてくる。明らかに真白に向かって、手が伸ばされた。

驚き過ぎたのだろうか。不思議と恐怖は感じなかった。もう、どうでもよかったのかもしれない。

ここで化け物に殺されようと、どうでも。

けれども、化け物の手はそのまま真白の頬に延ばされて、そっと涙を拭うようにその歪な指が頬を滑った。


「イタイ…」


気遣われているように感じるのは、真白がおかしいのだろうか。


「うん、痛い。すごく、苦しい」


「…クルシイ…」


真白の側にいただけの、沢山の人達ではなく。

目を背けたくなるような、この化け物が、真白の苦しみに気付いてくれた。

そう感じるのは、おかしいのだろうか。


酷い姿だ。

醜い。気持ち悪い。目を逸らしたい。

その姿はまるで、自分のようだと。

そう、安堵する自分は…ーーーやっぱり、おかしいのかもしれない。



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