20.大岩
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巨大な岩があちこちに転がっていた。
いびつな形、血が固まったような、どす黒い色。
それが薄暗い森の中に、幾つも転がっている。
「…これが、花喰い?」
自身の身長をゆうに越す巨岩に、思わず身がすくむ。
「ただの岩じゃん。ウンともスンとも言わねーし」
そう言いながら怖い物知らずな秋人が、手近な岩の一つをペシペシと叩いていてぎょっとした。
「ちょっ…!?起きたらどうするの!?」
一瞬で血の気を引かせてくれる。
やっぱり彼は駅に置いてくるべきだったのかもしれない。今にも彼の叩く岩にギョロリと目が開き、動き出すのではないかと気が気ではない。
足元には幾つものゴミもまた、転がっている。
ギターやピアノ、バイクや本など、まるで山の中に不法投棄でもされたみたいな有様だった。
ーーー”花喰いの、居場所?”
森に入った花喰いはどこに行くんだろうとなんとはなしに尋ねた美沙緒の問いを、永夜が首を傾げて繰り返したのは数刻前のこと。
ーーー“知ってるよ。昼間は花喰いは、森の中で眠ってるから”
呆気ない程簡単に出てきた情報に、耳を疑った。
ーーー“さっきみたいにお腹を空かせたやつ以外は、だいたい同じ場所で眠ってる”
子供だという先入観からむしろ美沙緒が守ってあげなければと気を張っていたが、さすがに長くこの場所にいるだけはあってその情報量を馬鹿にしてはいけなかった。
知希を探す手がかりが難なく見つかり、そこから森に入って見つけたのがこの場所だった。
「ひーふーみー…っと、30体くらいか?」
そう言いながら、ひょいひょいと大岩の上に登って辺りを見渡している秋人は、スタントマン志望というだけあって、さすがに身のこなしが軽い。
しかし感心したくても彼が登っているのは花喰いだ。
ちょっといい加減にして欲しい。
「なんで登ってるの!?お願いだから刺激しないで!」
「だーいじょうぶだって。ただの岩だから」
「花喰いなんだってば!」
全く危機感のない秋人に心臓がいくつあっても足りない心地で叫ぶ。普段あまり人に叫ぶ事なんてしない美沙緒にこれだけ素を出させているのだから、ある意味では凄い人間だとも言える。
しかし、関われば関わるほど心臓に悪そうなので、極力関わりたくないタイプだ。
よく警戒もなく触れるなと感心しながら、美沙緒も恐る恐るそばの巨岩に出を伸ばす。
ツルリとした手触りは、確かに岩のそれだった。
花喰いは、もう花には戻れない。
だからこんなに、硬い硬い岩となって身を守る様に眠るんだろうか。
ひんやりとした手触りに、なんとなくそう思う。
花に戻れないなら、希望に戻せないなら、後は花喰いを救う方法とはなんだろう。
ーーー最初からなかったように、消してしまう事だろうか。
ぷるぷると頭を振る。
考えても、今はまだわからない。
とにかく知希を見つけようと周囲の岩に目を走らせた。
「あったか?」
相変わらず巨岩の上で落ち着いている秋人が、上から声をかけてくる。もう何も言う気にもなれず、一旦秋人の状況は置いておいて「まだ」と返した。
確かに岩だ。
これが花喰であるとは信じられないほどに、そこに生物の気配は感じられない、無機質の塊。
(知希は、他より一回り小さかった)
昨日の夜に出会った花喰い。
そういえば、神社に向かう際に追いかけられた花喰いーーーあれも、知希ではなかったか。
(知希はもしかして、私の事に気付いてる?)
だって、名前を呼ばれたのだ。
美紗緒を待って花喰いになったのなら、真っ先に出てきても良いはずなのだ。なのに、出て来ない。
他よりも小さめの岩を探すも、どれもそれが知希だと確信出来るものは何もなかった。違う。
いない、と確信した。
(知希はここには居ない)
そうしてもう一つ。
(…多分私を、避けている)




