15.消えた夢
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「お姉ちゃん」
永夜の声に、目を覚ます。
いつの間にか眠ってしまっていたみたいだった。
目が覚めてなお、鮮明に感じる恐怖に、美沙緒は意識を取り戻したあともしばらく頭の整理が追いつかなかった。
夢の中で花喰いの姿をして目の前に現れたのは、知希じゃなかった。
醜悪な姿で、歪に曲がりくねって、狂ったように笑う女の顔。
ーーーそれは、自分の顔だった。
責めるように、糾弾するように、嘲笑うように、醜く顔を歪めて。笑いながら、怒りながら、責める目でこちらを見ていた。
(…なんで)
答えが知りたくて手を伸ばしてみても、目覚めと共にスッと引いていく記憶と恐怖。反対に戻って来た現実に、ホッと息をつく。
そうすれば、夢の中でも未だ逃げ続ける自分に、なんだか乾いた笑いが漏れた。
ようやく体を起こすと、こちらを心配そうに覗き込む永夜に気付く。
そういえば、彼が夢から引き上げてくれたのだった。美沙緒がよほどうなされていたのか、随分不安げな顔をしていて、なんだか申し訳なくなる。
「ごめん、寝てた…。起こしてくれてありがとう」
笑いかければ、明らかにホッとした顔をした。
ふと、枕元に目をやれば、まるでお供え物みたいに果物が山積みに置いてある。
昨日も食べたザクロやイチジク、何やら赤い小さな実。もぎたてのようで、意識すれば甘い匂いがふんわり漂っている。
「永夜が取ってきてくれたの?」
尋ねれば、こくんと頷く。
「うん。お姉ちゃん、お腹空いてると思って」
言われれば、確かにひどい空腹を感じた。昨日の夜も果物だけだったし、一晩眠ってすっかり消化してしまったらしい。意識した途端、ぐぅーと活発に腸が動き出す。
「…ほんと、すごく空いてる」
言うと、腹の虫に驚いた顔をしていた永夜がパッと笑った。つられて、美沙緒も気恥ずかしさも手伝い笑う。先程までの夢の名残は、すっかりどこかへ消えていた。
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「…太陽が真上にある…」
朝食だと思って食べた果物は、実は昼食だったらしい。
寝たのが朝方神社に戻ってきてからになるので、平均睡眠時間を考えれば妥当な時間なのだろうが、布団もないボロボロの神社だろうがいつも通り爆睡出来る自分に少々呆れる。繊細さとは無縁のようだ。
強張った体とは裏腹に、よほどぐっすり眠れたらしく、気分はスッキリしていた。
紗綾はどこかに行ってしまったらしく、姿が見えない。美沙緒が食べ終わるのを見届けた永夜は、安心したように神社を出て外に向かった。
「永夜、また駅に行くの?」
尋ねれば、コクリと頷く。
わざわざ美紗緒が起きるのを待っていてくれたのだろうか。それならと、美沙緒も永夜についていこうと慌てて後を追った。




