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12.ごめんなさい

暗い森の中を一抹の時支配した静寂に、けれど紗綾は怯むこともなく声を落とす。


「ーーーそう」


それからくるりと踵を返した。


「じゃあ私は神社に戻るわ。後は勝手にしなさいな」


そう言うと、本当にスタスタと先に行ってしまう。


「えっ、ちょっと…!」

慌てて追いかけようとするも、ギュッと永夜に手を握られて引き留められてしまった。こちらはこちらで完全に意固地モードに入ってしまったらしい。


(んもう!紗綾が大人げないから!)

渾身の勇気を振り絞った「大嫌い」を、こんなにあっさりスルーされたのでは永夜も報われない。

永夜に嫌われようがなんともないと突きつけられたようで、余計に傷付いただろう。120%くらい紗綾が悪いと思うのだが、いかんせんこんな森の中に取り残されたら迷子になる気しかしない。


「永夜、とりあえず一回神社に戻ろう?このままここにいたら、花喰いが来るから」

「…嫌」


ね?と宥めるように言っても、永夜は横に首を振るばかりで弱り果ててしまった。

永夜が動かないのであれば、置いていくわけにもいかない。

ふと気付くと、紗綾が去った方向の茂みがいつまで経っても明るかった。不思議に思って近付くと、ヒダネムシを閉じ込めたランタンだけがポツリと置いてある。

どうやらせめてもの情けで、ランタンだけは置いていってくれたらしい。


(…しょうがないか)


腹を決めて、その場に永夜と共に座り込む。

花喰いが現れないかだけが心配だが、それ以外は夜の森とは言っても辺りを飛び交うヒダネムシでボンヤリと明るいので、そんなに怖さは感じない。

最悪、ここで一晩過ごしてしまうのも有りかもしれない。

結局野宿することになったが、それでも良いかと思う程にはこの場所の光景は美しかった。

ぐずぐずと隣で鼻を鳴らす永夜も、幾分落ち着いてきたようだった。


「…ごめんなさい」


小さく、謝られる。


「永夜は、いつからここにいるの?」


「…わかんない。気付いたらここにいて、それからずっとここにいる」


もう、時間の流れを忘れるほどいるのだろうか。


「ずっと一人で?」

「ううん、サーヤがいた。駅を出たら、サーヤが立ってた。…だから、僕…」


思った以上に、二人は一緒に過ごしてきたらしい。

何かを思い出したのか、落ち着いていたはずの永夜がまた肩を震わせ始めた。


「…ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。嫌わないで。嫌いなんて嘘だから、嫌いにならないで…」


再びしゃくりあげて、ひたすらにこの場にいない紗綾に謝り続ける。まるで嫌われたら世界が終わるとでも言うように。


「大丈夫、大丈夫だから」


慌てて抱きしめれば、腕の中で小さな体をさらに小さくして本格的に泣き始めた。

ごめんなさい、ごめんなさい。

ひたすらそう繰り返す言葉に、戸惑いを隠せない。

どうしてそんなに謝るのだろう。

確かに幼い永夜にとって、紗綾は唯一の頼れる大人なのだろうけれど。それにしても、こんなにも嫌われることを恐れるような、縋るような嗚咽はあまりにも痛々しかった。


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