11.出来ない約束
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「紗綾、お姉ちゃん!」
呼ぶ声に、顔を上げると永夜が暗い森の中から飛び出してきた。二人を認めると、一瞬、今にも泣き出しそうな、ひどく安堵したような複雑な表情を浮かべた。
そういえば永夜はあの廃神社に一人置いてきていたのだった。
目が覚めてあんな所に一人だったら、美沙緒でも泣くだろう。
「わざわざ、追いかけてきたの?」
それなのに、子供相手であっても紗綾は手心というものがないらしい。腕を組んで呆れたように尋ねる彼女に、押し黙る永夜の姿を目にした美沙緒の方が焦ってしまう。
「一人にしてごめんね、怖かったよね」
屈んで視線を合わせれば、永夜は押し黙ったまま小さく頷いた。相当怖い思いをしたようで、ギュッと美沙緒の服の裾を掴んでくる。
「あらあら。随分懐かれたようね」
よしよしと頭を撫でていると、紗綾が言葉を重ねる。
彼女はちょっと…いや、だいぶ無神経なんじゃないだろうか。いちいち人の神経を逆撫でるような物言いをする。
「紗綾…もう知希の事は大丈夫だから、神社に戻ろう」
「え?」
この場を早く切り上げようとした美沙緒の言葉に、永夜が反応した。
「お姉ちゃんの花、見つかったの?」
「…」
見たかったと言うか、見つからなかったと言うか。
答えあぐねた美沙緒の代わりに紗綾が口を開いた。
「見つかったわよ。一番面倒な状態で」
…だから!言い方!
思わず非難めいた視線を紗綾に寄越すが、彼女はどこ吹く風だ。
「だいたい何が大丈夫なのよ。あんなモノを森に野放しにしておいて、大丈夫なわけがないでしょう。さっさと回収してきなさいよ」
「今!?」
冗談でしょ!?と声を上げれば、冷たい視線が寄越された。どうやら冗談ではないらしい。
「さすがにもう今日は…どうして良いかもわからないし…」
モゴモゴと反論する美沙緒の手を、それまで黙って聞いていた永夜がギュッと掴んだ。その手が微かに震えているような気がして、永夜を見やる。
「…帰らないで」
懇願するような呟きに、確かに感じる手の震えに、永夜の孤独をひしひしと感じる。
そもそも現時点では帰れるのかもわからないが、出来もしない約束は安易に出来ない。
答えの代わりに頭を撫でようとした美沙緒の手を、紗綾が止めた。
「馬鹿言わないで。美沙緒は花をもう見つけたわ。それを連れて、帰るの」
(…あの、知希を連れて…)
果たして出来るのだろうか。
自信はない。
紗綾に断言されながらも、内心怖じ気づくが、そんな美沙緒の胸中など紗綾は知ったことではないのだろう。子供相手にも容赦ない。
「自分の寂しさに人を巻き込むのは止めなさい」
(…だから、言い方が…)
さすがに口を挟まないと永夜が可哀想だ。
けれど美沙緒が口を開くよりも先に、絞り出すような嗚咽が聞こえた。
「…嫌い」
美沙緒の手を強く握りしめたまま、永夜が叫ぶ。
「ーーーサーヤなんか、嫌い!」




