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10.知希との再会3

知希は、やっぱりここに居た。

ここで美沙緒を待っていた。

彼を切捨てた美沙緒を、待っていた。

美沙緒の様子に紗綾は何かに気付いたように、花喰いにちらりと目をやる。

相変わらずこちらには気付いていない様子で、しばらくするとその姿を森の中に消していった。


しばらくは、何も言えなかった。

真っ青になったまま動かない美沙緒を、真っ直ぐに見てくる紗綾の視線が痛い。


「…厄介なことって…」

「なに?」


ようやく絞り出せた声はひどくかすれた情けないものだった。それでも、血の気の引いた顔で呟く。


「厄介な事って、こういう事…?」


花が、花喰いになる。

化け物になって、脅威になってしまう。


「そうね」


彼岸花を荒らす花喰がいなくなったことで、またポツリポツリとヒダネムシが舞い戻ってくる。


「どうして…知希は花喰いになってるの?アレは一体なに?」


てっきり、美沙緒は知希も花になっていると思っていた。あのたくさんの彼岸花のどこかに混じって、美沙緒を待っていると思っていたのに。


「花喰いは、執着の過ぎる希望だわ。

捨てられたのに、それでも未練がましく迎えを待ち続ける花の成れの果て」


「そんな…」


「貴女は、希望を持ち続けるのが怖くなったのでしょう」


唐突な紗綾の問いかけに、言葉が詰まる。

そう。怖くなった。

ずっと変わらずにある彼が。

そこに追いつけない自分自身の未熟さが。


「それでも、貴女が望むと望まないとに関わらず、捨てられた彼らはここで待ち続ける。

でも、ここでは感情は花以外では形を保てない。花はいずれ枯れるけれど、ーーー枯れないために、迎えを待つために、花喰い達は他者の花を食べて存在し続ける」


「え?」


「他者の希望を食い散らかしてでも、消えることを拒む希望ーーーそれが、花喰いよ」


醜くて、醜悪で、おぞましい。吐き捨てる様に言う紗綾の言葉に、美沙緒は、円らな瞳で見上げる永夜の顔を思い出した。

彼もいずれ花喰いになってしまうのだろうか。


「永夜も…花喰いになるの?」


美沙緒の問に、紗綾は黙る。

その沈黙が答えとなった。

永夜が待ってるのは迎えだ。他の誰にも替えることの出来ない、たった一人の迎え。それが来るまで、待ち続ける。


「…救えるのは、捨てた人間だけ」


「救える、の?」

あんな化け物になってしまった知希を。

探して、見つけて、そうすれば何の疑いもなくまた以前のように元通りになると思い込んでいた。

だって、知希は美沙緒自身でもあるのだ。

常に美沙緒と共にあり、美沙緒と生きてきた。それなのに。

先程の花喰いが思い出される。

醜悪で歪な体躯、顔を背けたくなる悪臭。知希だと分かるのに、知希じゃない枯れた声。

喜びや楽しみを共有して、一緒にいるだけで心地よかったあの頃の彼とはもう、何もかもが全然違う。

あの知希と、向き合う術を美沙緒は知らない。


「花喰いは、貴女の感情なの」

紗綾が言う。


「見つけてあげなかった。見て、向き合って、大事にしてあげなかった。その成れの果てが、あれ」


美沙緒の感情。

美沙緒が押し込めて、蔑ろにして、結果捨ててしまおうとした、自分の一部。


「醜く変容させてしまったのは貴女自身。いい加減、腹を決めて向き合うしかないのではないの?」


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