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これが「異世界料理人が日本の料理を作ってみましたって」やつですか!?

俺たちはそれぞれ座布団の上に座るのを確認したあと、レイナさんは右肩の上で、「パン、パン」と手を叩き、ふすまがスーッと開かれた。聖職者が着るような法衣をまとった女性2人が並んで正座をして待っており、彼女らの両端にはそれぞれグラスコップが乗せられたお盆が置かれていた。異世界人側のお盆の上には超特大ビールジョッキのようなものがひときわ異彩を放っていたのだが、そんなのが気にもならなかったくらい、目の前の料理に釘づけになっていた。


 まず、並べられていた料理が、「一般の日本人にとって「ご馳走」の部類に入る見慣れた料理」だったのである。俺ら男性陣3人が座る目の前の料理は肉料理中心で、左側から順に、厚切りにされたローストビーフのようなものが重なるように山盛りに盛られており、続けて食べやすいようにカットされた厚切りとんかつ、鶏の唐揚げに近いものがいずれもてんこ盛りに盛られていた(違う肉かもしれないがあくまでも外見の判断で)。あまりにもの量の多さにも驚愕したのだが、さらに驚愕すべきだったのは女性陣3人のテーブルの上の置かれている2枚の丸い大ざらに並べられた刺身の盛り合わせだった。


 便宜上、まずは一番奥の華澄さんの前に置かれてる大皿から説明していこう。白身系の刺身の盛り合わせが、白鳥が大きく両翼を広げているような絵画を描くように並べられており、そのまわりには、大根の千切りを丸めたものと人参の千切りを丸めたようなものが皿の外側を縁取るように交互に並べられていた。なお、これらの下には紫蘇の葉が敷かれており、大皿は透明な青のガラスのような素材の中に銀色の粉末が均等に散りばめられていた。これだけでも十分驚愕すべき一皿なのではあるが、美華の前に置かれている赤身の刺身の盛り合わせと2皿で1組の「作品」という視点からみた場合、また別の意味合いが出てくるのである。真理さんから見て右斜め前、美華から見て左斜め前の大皿には、先ほどの一皿と対極をなすかように、赤身系の刺身が優雅な鳳凰が今にも飛び立つような絵画を描くように並べられていた。さらに刺身の上にはイクラのようなものが宝石の如く散りばめられており、外側には先ほどと似たような感じで大根の細切りを丸めたものとウニのようなものと思わしきものの下に紫蘇の葉が敷かれ交互に並べられていた。大皿は暗めの土色の和風の皿で、2枚の大皿の真ん中には河豚しゃぶ用の鍋と思わしき物が置かれていた。ちなみに長テーブル全体の中央には縁が高めの大きな木皿の上にシザーサラダが盛られていた。


 美華は西欧風の芸術嗜好でジャンルは幅広く、料理や食器類、デザートのデザインなどに芸術性にも興味を持っている。華澄さんは食べ物に関しては和風嗜好なので、大皿に関しては2人は嗜好的には逆なのだが、それぞれの刺身の盛り合わせを一組の作品ととらえれば、「赤い刺身と白い刺身」、「和風の皿と洋風の皿」、「鳳凰と白鳥」という、対極を成すそれぞれのシナジー効果を意識することによって、一つの完璧な作品へと昇華させている。また、中央に河豚しゃぶ用の鍋のようなものを置くことによって、「冷と暖」の対極も意識しているようである。ぬかりはない。


 肉料理系の大皿は3枚共シンプルな白い大皿で、「食に集中できるよう気を使わせない心配り」を踏まえていると思う。さらには、左端からから右端にかけて、暗い色から明るい色へのグラデーション(とんかつのようなものの衣を省いて考える)、濃厚な料理から淡白な料理のへのグラデーションも意識しているようである。赤身系の刺身の盛り合わせは優しげな鳳凰の盛り合わせのコンセプトは、美華をイメージした「土くれの中から蘇るフェニックス」、白身系の刺身の盛り合わせは華澄さんを意識した「バレエ組曲の「白鳥の湖」の白鳥」を意識したものであると思われる。でなければ、あえて湖を思わせるような透明な青いガラス皿を使ったりはしない。男性陣は置いといて、食に関して比較的関心の薄い真理さんの趣向も忘れていないというメッセージを込めて、俺らの箸置きを可愛らしい動物で表現しているようである。箸は全員同じもので統一されているが、箸置きは左から順に、礼央のは明るめの黄金色のライオン、奏風のは明るい緑色の鷲、俺のは青い魚が下に向けて弧を描いてるもの、真理さんのは真珠色のウサギ、美華のはロゼ系のピンクに近いフェニックス、華澄さんのは明るい紫の白鳥で、箸置きはすべて陶器のようなものでできたものであった。表面の色のベースは日本で人気のスマホによく見られる柔らかい反射色をベースにしたような感じであったよ。陶芸や金属に造詣が深い奏風はその材質が気になっているかもしれないが。無論、異世界転移で戸惑っている俺たちのために、まずはなじみ深い日本料理で心身ともに満たしてもらいたいというねぎらいが込めらているのがもっとも重要なポイントであるのはいうまでもない。


 中々やるな異世界人め。俺はここまでのレベルのコンセプトを盛り込んで組み立てられるのに『何時間』かかるか分からないが、俺も料理人のはしくれ、これくらいの込められたコンセプトは瞬時に理解できる。だが美華たち5人は異次元のチート地球人、コンセプトの大まかなところは把握しているだろう。俺が見落としている何かに気づいているかもしれない。少なくとも異世界人が日本人と価値観を共有できる面を持ち合わせており、外国の文化や芸術などの情報も持ち合わせていることも分かった。大きな収穫である。

 


 「あ、みなさん、料理とにらめっこしているところ申し訳ないのですが、待機していただいている女給の方が慣れない正座で立てなくなっちゃうので先進めちゃっていいですか?殿方がお姫様抱っこで待機室まで運んでくれるならこのまま放置プレーしちゃいますけどね。彼女らもそのほうが大喜びしますし、うっかりスケベであんなところこんなところそんなところ触ったり揉んだり入れちゃってもいいですよw一応お肉系が好きな方にはウーロン茶、お刺身系が好きな方には100%オレンジジュースがいいかなぁ~って乾杯用に用意しておきました。他にも用意がありますし、ごはんやネギと豆腐が入ったお味噌汁、おかわりなどもあります。とりあえずドリンク選んでもらっていいですか~?」


 --う、日本人の痛いところをついてきた。自分本位の言動で無関係な人達を巻き込むのを忌み嫌い、条件反射で集団を優先してしまうという日本人の民族性をも把握されている可能性もでてきた。ただ、主導権を取りにきつつ、肉の脂っこさを解消するためのウーロン茶や、刺身料理に用いられる柚子、レモン等の刺身の油や臭みを解消するための柑橘類がない状況を補うため、100%オレンジジュースという甘みが強く癖がない柑橘系ジュースの選択もほぼベストに近い。ま、待て!、100%だと!?日本の食文化、民族性をかなり把握しているのはほぼ確実、あえて100%という言葉を盛り込むことによって、日本の一般的な宴会で出される身体にとって害でしかない人工甘味料満載のオレンジジュースが普通であるという悪しき慣習をも把握しているのか!?それと同時にオレンジの酸味を想起させ唾液の分泌を促し食欲を増進させ、100%オレンジジュースが持ち合わせている自然由来の濃厚な甘さを想起させることによって女性陣の心をつかもうとしている。『100%』という単語は非常に重い。それと同時に俺らが食事を口にするという前提での目的地点への誘導という目標を達成している。さらにはドリンクの種類の選択権や、ごはんの要不要、量の選択権を俺たちに委ねるという細やかな配慮ぶりを見せてくれている。これではおかずにご飯は欠かせない肉好きににとっては「牛、豚、鶏肉の超特盛りUltimate Trinity(究極の三位一体)丼」、魚好きにとっては求めて止まない「超特盛りマグロ、ブリ(のようなもの)、サーモン、イクラ、ウニの究極の盛り合わせ丼(海老と蟹と貝類はないが)」が完成してしまうではないか!?海底のウニを取ることができるのに何故海老や蟹や貝類がないんだ(俺らの中には甲殻アレルギー持ちはいない)、この考察はいったん棚上げしておく。肉系に関しては、ニンニクや生姜、醤油などの味付けを強調し、ごはんへの食欲を増進させる『ごはんとの併食型(逆はコンビニによく置いてある単食タイプ)』か否かは、奏風の力―――大豆を由来とした素材(豆腐、味噌、納豆、醬油など)や熟成・燻製、香辛料(ハム、ソーセージ、スモーク系の肉、ジビエ、熟成カレー、キムチなど)、熟成系に欠かせない世界各国の塩の種類や特性に関する造詣の深さ―――を借りたいところだが、今の状況では極めて困難だろう。最後のネギと豆腐の味噌汁に関しては、まず『ワカメ』というワードが入っていなかったのが気にかかる。この世界には存在しないのか、もしや日本人が味噌汁にはワカメが入っているものだということが前提であるということさえも把握しているということを示唆して話をすすめているのか!?豆腐抜きという選択が可能であるうえ、豆腐と共に良くも悪くも味噌汁本来の味を変化させず、純粋にネギと味噌汁のハーモニーというのはもちろん、異世界風味噌汁をその下で確かめてみよということか!?また、日本人の第2の主食ともいうべき大豆食品のと米のクオリティーを示すことによって、和食に対するリスペクト、信頼関係の構築、諸刃のの剣ではあるがこの異世界の食文化レベルの開示、日本と異世界の味噌の発酵環境の相違点の提示、そして重要なのは日本人と異世界人の味覚の相違点を確認してみろということか。もしそれが同じだとしたら、ここは異世界ではなく並行世界パラレルワールド、過去に日本人がやってきて味噌の作り方を伝えたか、その場合には味噌の作り方を知るステレオタイプの人間はしぼられるが、あるいはこの異世界から日本へ己の能力で転移し味噌の制作方法(最低でも夏は4か月、冬は6か月以上必要し難しいらしい)や味の確認、そして使用用途を学んでからこの世界に戻ってきたということか!?しかもそれらの示唆が含んだ内容を即興で非常に砕けた内容で相手の警戒心を解こうろ試みるこのレイナという女性、しかも今いる異世界人の中でもっとも若く見えるのに、俺たちに関するこの場の最高責任者とは一体・・・


 「じゃ、まずはわたしたちらのほうからビールついでいって。わたしのはこの特大ジョッキにできるだけ満タンでお願いね。」



 「じゃあ、オレはウーロン茶で。奏風と明は何にする?」


 明に続いて奏風も「オレもウーロンで。明は何にする?」


 「じゃぁ俺もウーロン茶で」


 「オレンジジュースをお願いします」


 「あたしもオレンジ。華澄は?」


 「わたしはウーロン茶でお願いします」


 礼央がアクションを起こすと堰を切ったかのように飲み物を頼み始めた。さすが勇者特性を持つ礼央である。普段は行動力や勢いが空回りして残念な黒歴史のページを増やし続けているが、緊急時の際の決断力や判断力、行動力は他の追従を許さない。黒歴史に新たなる1ページが追加されることによって、彼の不屈の魂の資質はより輝きを増し、それに惹きつけられる者達が増えるのだから(もっと礼央の黒歴史のページが増えないかなw)。



 

 「さて、みんなにドリンクがいきわたったところで、カンパーーイ!」


 レイナさんがあぐらをかいている状態で、泡が溢れんばかりのビールの特大ジョッキを軽々と持ち上げ、乾杯の直後に一気飲みし始めると、一同全員が「えっ」と思った一瞬の戸惑いのあとに、彼女を追いかけるようにそそくさとコップを掲げて「カンパーイ」といってそれぞれドリンクなどを飲み始めた。


 俺たちだけでなく、対面の人たちも同じような反応を見せたので、(おいおいおい、他の同僚も困惑してるじゃないか。レイナさん以外の現地の方達がまともな反応をしてて逆に安心したぞ。普通、「~~を祝して」とか「~~を祝って」とか、前置きが入るのが常識なんじゃないのか?あぁ~この人、もうすでにビールを飲み干して、もう特大ジョッキが空にしてるわ)。



 

 「ぷっふぁ~~あ、人生、このときのために生きてるようなもんよねぇ~。あ、○○さん、宴会が終わったら泳ぐから、まずはわたし用のご飯大盛2杯、あと大きめのスプーンと味噌汁大盛2杯分ぐらい持ってきて。ご飯とか味噌汁とかいる人いたら、どんどん言ってね~」


 とオーダーすると、さっきまで纏っていたローブを脱ぎ始めた。対面の方たちも脱ぎ始めてはいるのだが、半ば呆れた様子でリラックスムードに入り、各自ビールを飲んだりご飯や目の前にない薬味やパンとかを注文し始めた。真理さん、美華、真華澄さんが刺身の盛り合わせに見入っているためか、対面の女性人らはさすがに刺身に手をつけないでいた。よかった、美華たち女性陣の今後の講師役になるであろう人たちがそこんとこの礼節をわきまえていて。冷静に考えてみると、俺たちの歓迎会なのに宴会みたいな雰囲気になってないか?未成年なので違いがよく分からないけど。ってか、日本人の視点だと、教師が生徒の目の前でだらけた格好で酒を飲みながら談笑してる状況って。この中でレイナさんがトップなのに、最年少でかつ言動がアレって・・・理解が追い付かない。とりあえずご飯と味噌汁を。それと海老と蟹とワカメと貝類の確認を・・・



 そう思い給仕役の方に注文しようとしたのだが、ふすまに目を向けると礼央も奏風がフリーズしており、俺も目を向けるとそこには予想だにしない・・日本人の誰もが想像しえない風景がそこには広がっていた・・・(ああ・・・俺の精神力が削られて灰になってしまう・・・・・)





 

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