【閑話】全国高校サッカー選手権(後編)ー御国大付属イレブン、君たちはよく頑張った
対ヒャッハー高戦のあと、準決勝まで不戦勝で勝ち上がったので時間的に余裕ができたといえば確かにそうではあったのだが、明、奏風をはじめ、北辰尊星高校の生徒(今回応援に来れなかった生徒を含む)までも行く先々でマスコミにインタビュー攻めにあい、明たちはTOKYOグルメ紀行で思うように動けない状況となってしまった。一般人は距離を置いて見守ってくれる人が多かったものの、訪れた店舗や飲食店などで店員さんらが卒倒して気をつかう羽目となってしまった。丹波大納言小豆をふんだんに使った和菓子店や、小豆好きには静かなブームとなっている『レアチーズ入りあずきホイップどら焼き』を販売する洋菓子店が共に築地にあったので、明と同行できるのを楽しみにしていた華澄はマスコミにたいし相当おかんむりであった。奏風は常にマイペース、礼央と美華はそれぞれサッカー部とチアガール部のスケジュールががあったために明たちと共に行動できなかったが、今回最も大変だったのは真理であった。不戦勝が決まったということで急遽、銀狼さんと共に他校の試合に解説者としてゲスト出演することになったり、その後も民放のテレビ局にもひっぱりだこであった。おまけに大納会(東京証券取引所の年末最終営業日。この年は予定通りに12/30、対ヒャッハー高戦の翌日)に金沢グループ傘下の上場企業が軒並みストップ高となったため、大発会(東京証券取引所の年始めの営業開始日。通常は1/4の早朝)のゲストとして礼央の父と共に『鐘』を鳴らす役として出席したり、見えないところでは、年末にもかかわらず新規出店をはじめ多くの商談が国内外から殺到し、金沢グループの海外部門のサポートにまわったりとまさに八面六臂の活躍であった。
不戦勝が続く中、同じく決勝に進出した御国大付属高校サッカー部は集団インフルエンザに見舞われることなく、日本一をかけてピッチ上で決着をつけることとなった。北辰高の決勝の相手が大会3連覇がかかっている御国高に決まった直後のテレビ特番で、真理が同じくゲスト出演した御国高出身の日本サッカー代表メンバーのひとり、浅倉選手の前で『最後くらいはピッチ上で戦って、勝敗を問わずに御国イレブンと健闘を分かち合いたい、とわたしたちの部員がいってました(意訳:サツ人級のシュートやパスは使わないであげるから棄権しないでね)』といったのが功を奏したのか、見えないところで各方面から御国高の理事や校長らに『インフルには十分に気をつけろ』とのお達しがあったらしい。やれ御国高OB達のメンツだとか視聴率だとか海外からのサッカー関係者や元プロサッカー選手も大勢来日して観光特需で潤ってるから『おもてなし』の国、日本としては『手ぶらで』帰国させるわけにはいかないだの、今年の御国大学、付属高校の志願者数に影響するだとかね。大人の世界って怖いね。おまけに決勝の前売り券もネットオークションで数倍の高値がついたらしいし。
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「・・話はすでにいきわたっていると思うが、対北辰戦の結果は君たちの進路や将来には全く影響しないと理事長や校長がおっしゃっていたので、せめて御国高の意地だけでも見せれるよう頑張ってくれ」
御国高のスタメン、サブメン達は無言でうなずいた。北辰はチート持ち3人がいる上に、御国高が出場した試合の生中継にゲスト出演した白川真理に完全に分析されているし。しかもうちらが認識していなかった弱点をも含めてダメ出しとかしているし。しかも向こうは不戦勝続きで体力が有り余ってるだろうし。『試合になるんだろうか?』というよりも『一体うちらは何と戦いに行くのか?』という疑念が控室に渦巻く中、死地へ赴く時間を待つのだった。
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「ってなわけで、決勝の相手は最有力候補にして全国三連覇がかかっている御国大付属高校となります。説明はいらないとは思いますが、今大会の最多優勝校でJリーグや海外に最も多くのプロ選手を輩出しています。御国大学の偏差値ランクはもとより、全国から文武両道の生徒が集結した超エリート校です。今年の御国高は前、前々回の優勝を経験した2、3年生だけでなく、すでにプロサッカーチームや有名な大学に進路が決まっている3年生も3連覇のために参戦しており、あちらも『高校設立以来、歴代最強のチーム』と謳われています。相手に不足はありませんね。試合運びは昨日説明したとおりです。それではみなさん、ご武運を」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
北辰サッカー部員一同、控室で円陣を組み雄たけびを上げたのち、控室から決戦の地へと赴くのだった。ただし明と奏風は『今夜の祝賀会のご馳走の前の腹ごなし』ぐらいとしか思っていないのだが。
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何のトラブルもなく前半戦終了のホィッスルが鳴り響いた。スコアは『北辰2-0御国』。前半戦を要約すると、キックオフ早々礼央選手がわずか1分で2点先取。その後は空野選手、星野選手と共に防衛最終ラインまで下がって完全に裏方にまわってしまったために主にフィールド中盤で一進一退の攻防が繰り広げられるという状況となった。さすがに大会前までは優勝候補筆頭にあげられていただけあって御国イレブンのファインプレーが随所に見られて観客席を沸かせていたが、チート3人組とキーパーを除く北辰7選手も御国高相手にも勝るとも劣らない個人技や組織力を見せ危なげもなく対応し、逆に何度も御国ゴールをおびやかしスタンドやサッカー関係者らを驚かせた。前半と後半のインターバルで控室に戻っている御国サッカー部や監督らは皆、『あのチート3人組がいなくても俺たちに勝ち筋なんてなかったということなのか・・』とショックを受け、無言で首をうな垂れる状況となってしまった。
一方、試合のインターバル中に北辰高の観客席で前代未聞の事件が発生した。北辰高のチアガールの天音美華がスタンドの応援エリアの階段のところでバク転や空中三回ひねりなどのパフォーマンスをはじめたのである。しかもスタンドの最前列に着地したあと、JASF(日本水泳連盟。水泳だけでなくアーティスティックスイミングや水球などの水中競技の普及、発展に寄与する公益財団法人)の至宝である聖マリアージュ女学園の清川華澄が、先端が球状になっている巨大な銀色の柱をたった一人で持ち上げ、北辰尊星高の校旗の縦の角の部分を『右手、右足』に取り付けた天音美華がその柱に登り、校旗をはためかせながらポールダンスをはじめたのである。最後には校旗の右下と左下の角をそれぞれ両足の先に付け替えて、先端の球状のところで逆立ちして180度開脚して回転して校旗を燃え上がる聖炎のようにはためかせ始めたのである。
北辰サッカー部のスタメンおよびサブメンは真理の指示で控え室には戻らず美華のパフォーマンスを見て笑い転げていた。・・・一体どんな原理なんだろうね。生まれる時代が中世のフランスだったら『オルレアンの乙女』として持ち上げられてたかな。いやないな、速攻で魔女認定されて火あぶりの刑だろうアレは。しかも改めて見ると、太ももの筋肉の量と締まり具合が・・(実は本人には超バレバレで、だからこそ美華はこのパフォーマンスを決行したのだが)隠れお尻、太もも筋肉フェチの星野明は美華の雄姿を魂に焼き付けて再度ピッチへと赴くのだった。
後半戦は『前半戦の戯れは終わりじゃ!』とでも言わんとばかりにチート3人組を軸に北辰の怒涛の攻めが始まった。しかも初戦のときとは違い某少年サッカー漫画の必殺シュートや合体技といったお遊びなしの、効率重視の戦術、布陣であった。御国イレブンは泥臭いプレーで食らいつくも試合結果は『北辰 53-0 御国大付属』。北辰イレブンにとっての後半戦は『1人も怪我で退場させてはいけない』という縛りプレイのなか本気で戦い、御国高のスタメンや監督らも後半戦途中でそれに気づいた。試合終了のホイッスルが鳴り響いたあとになっても御国高イレブンはその場でうずくまり誰も立ち上がれず、誰もかもが膝と両手を地面につけ泣き崩れていた。北辰イレブンは、そんな彼らひとりひとりに寄り添い肩を貸し、共にセンターラインまで移動した際には会場から惜しみない拍手が送られた。
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「ここは北辰尊星高校の祝賀会場、北辰高の生徒および関係者らが貸し切りで宿泊している金沢ロイヤルホテルのビュッフェルームになります。多くの視聴者はすでに知ってらっしゃると思いますが、今年は会長の御曹司でもある金沢礼央選手がキャプテンとして出場するということで、彼らの宿泊費、食費などはすべて無料で提供されています。しかも夕食は元旦をのぞき、金沢グループの粋を集めて取り寄せられた食材がふんだんに使われた、予約さえもなかなか取れない『金沢ロイヤルディナービュッフェ』が連日提供されていたのですが、今夜はさらに、わたくしを含めたマスコミ関係者、しかもADさんも含めてですよ!その他サッカー関係者たちにも無料で提供するので仕事終わりにでも楽しんでください、とおっしゃってくださったので関係者は皆驚いています。元旦は金沢グループのデパートやネットで販売されている超高級おせちセットが提供されたのですが、金沢礼央選手をはじめ空野奏風選手、星野明選手、サッカー部のブレインにして金沢選手の許嫁でもある白川真理さん、クラシック界のジュニア部門のホープである天音美華さん、日本水泳連盟の至宝で、風野選手の幼馴染でもある清川華澄さんがそれぞれ、たった1人で平らげた各種のおせちセットは各テレビ局でも取り上げられ、年初めにもかかわらず来年分の予約、問い合わせが殺到してるそうです。さすが金沢会長、超太っ腹なうえに商機にもぬかりはないです」
「キャプテンの金沢選手の身内ではすでに恒例となっている『乾杯!プロージット!』が終わったあと、会場に巨大なクロマグロが運ばれてきました。どうやら捌くのは星野明くんのようです。祖父母が食堂を経営し、明くんもかなりの腕前で築地に入り浸っていたということなのでしょうが高校生があの巨大マグロを捌けるものなのでしょうか」
「素人目線ではうまく捌けているように思いますが。続いて肉料理のブースでは天音美華さんがステーキ、焼き鳥、うなぎを同時に焼きはじめ、ステーキを焼いている鉄板の前では赤ワインに着火した炎が立ち上り、美香さんは踊るような動きをしながら焼いています。さながら『炎の魔術師、ないし炎の踊り子』とでも言いましょうか。また、寿司のブースでは明くんの祖父母がカットした寿司ネタを華澄さんが握っていっており、普段ビュッフェを作っているコックさんたちはサポートにまわっています。事前に真理さんから『うちの祝賀会に取材に来るときには料理人の重鎮であり、獄激辛口の評論家でもある道場九六さんをお呼びしたほうがいいですよ』とアドバイスをもらっていたので急遽依頼したのですがその意味がわかりました。のちほど感想を伺いたいと思います」
「九六さん、それぞれ試食してみてお味のほうはいかがですか?」
「金沢ロイヤルディナービュッフェは何度も食べたことがあるのですが、彼らが調理した料理の味はそれを遥かに超えてます。控えめにいってもあの有名な世界料理ガイドブックで星1つは固いでしょう。星3つもらってもおかしくはないです。実は今まで公にできなかったのですが、明君くんの祖父母に頭を下げて修行させてもらった時期があるんです。あのときの明くんはまだ幼かったのでわたしのことは覚えてはいないでしょうけれども、かなりダメ出しをもらって当時はへこみましたよ。クロマグロの捌き方から刺身や寿司のネタに小さく切り分けられるまで、文句のつけようがないくらい完璧です。しかも赤身の間にある『筋の膜』をも除去するという超絶技を超高速でやってのけていまるので内心では『開いた口が塞がらない状態』です(笑)。また美華さんの焼き調理や焼き鳥やうなぎの串打ち、華澄さんのそれぞれ個性のある寿司ネタに対する握りも、このふたつのシャリの断面を見てください。それぞれの表面の固さや内部のシャリと空気の比率や米の並びも違ってるんでしょ。わたしがいくら努力しても到達できない領域に達しています。明くんの祖父母が現在、美華さんにノーっタッチで華澄さんに寿司の握りを任せているのは、つまりそういうことです。美華さんと真理さんが監修したケーキ類は専門外で未だ試食していないのですが、デザインだけ見てもこれほど高い芸術性の高いものは滅多にお目にかかれません。いずれ金沢グループの店舗で販売されるんでしょうね。リポーターの小池さん、今夜の料理は上司に逆らってテレビ局を首になることになっても存分に味わったほうがいいと思いますよ」
「そ、それほどのレベルだなんて・・・獄激辛口の九六さんにそこまで言わしめるのも驚きなのですが、しかも頭を下げて弟子入りを・・それが星野選手の祖父母だなんて・・・年中多忙にもかかわらず、スタッフがダメモトで九六さんに依頼したそうなのですが、すんなり受けてくださった理由がわかりました」
「実はこの件については前々から真理さんから打診があったんですよ。ここだけの話、小池さんは真理さんに1番気にいられてたんじゃないですか(笑)。あと、今までこの経歴を秘密にしていたのは、公にすると彼らに迷惑がかかってしまいますからね。でも、小池さん経由でわたしを招いてくださって、明くんの祖父母も駆けつけて料理を手伝っているので、もう打ち明けてもいいかなと思ったんです」
「わ、わかりました。このあと、時間を作って上司に掛け合ってみます!」
彼らリポーターの達の許可は以外にもすんなり降りた。ただし、可能な限りカメラを回し続けることと道場九六さんのアドバイスや食レポを仰ぐことを条件にではあるが。テレビ局側でも道場九六さんにここまで言わしめる料理のデータを可能な限りアーカイヴとして保存すべきとの判断があったのはもとより、ここで小池レポーターを粗雑に扱えばSNSで炎上して火消しに追われるだろうし、しかも真理さんに気に入られている可能性が大であり、かつ『あの九六』とほぼため口で食レポできる彼女を手元に置いておくのが得策だという上司の瞬時の高度な状況判断があったためである。
こうしてチート6人組は年末年始を騒がせつつ帰路へとつくのだった。




