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うなぎで食育

 華澄ちゃんとアスタさんにメールを送り食堂で待っていると美華がやってきたので鰻料理の件を伝えると、『もちろんOKよ。でもまさか、異世界に来て早々、一緒に鰻を焼くとは思わなかったね。実は明が家にいないとき、こっそり明のおじいちゃん達に教えてもらってたの。鰻の捌き方やタレの作り方とかもそこそこうまくなったんだから』と息巻いていた。俺のためにそんなことまで努力してくれたなんて。美華や華澄ちゃんのためにもっとしっかりしなきゃな。華澄ちゃんとアスタさんもやってきたので予め用意された割烹着をそれぞれ羽織りキッチン内に向かおうとしたとき、ちょうど礼央と真理さんがお互いの脇腹に後ろから手をまわしながら密着した状態で食堂にやってきた。もっと細かく表現すると、真理さんはもう片方の手を礼央の腹部の前からも手を回し、ユーカリの木を抱きかかえたコアラのように、礼央は真理さんに寄っかかって倒れないようにバランスをとっている状態なのだが。



 「おはよう礼央に真理さん。礼央、かなり精気が抜けたような感じだけど大丈夫か?」


 「だ、大丈夫だ・・問題ない・・・」


 「少しまずそうなのでヒールをかけておきましょう。『ヒール』」



 アスタさんが礼央に掌を向け『ヒール』と唱えると礼央の身体の周りが一瞬白く輝いた。



 「おぉ、だいぶ調子がよくなった。ありがとうございます」


 「いえいえ。今の礼央くんの状態だとヒールは気休めにしかならないので、ちょっとだけ調理の予定を変更しましょう。今から礼央くん専用の鰻を調理しますので明君たちはわたしのそばで見ててください」


 「はい」



 アスタさんがそう指示をだし、俺たちはアスタさんに率いられ鰻がいる容器の場所へと移動した。するとそこには大量の小さい氷の中に敷きつめられた色とりどりのうなぎが仮死状態になっていた。ちょっと気持ち悪い。



 「詳しいことは追々説明しますが、礼央くんは雷属性との親和性が非常に高いのでこの黄色いうなぎ、サンダーイールまたはイエロイールを調理します」



 所々で説明をしながらアスタさんは『さばき、串打ち、焼き』などの調理を進めていく。日本の鰻とは大きさや外観が全く同じでないとはいえ、鰻のさばきは正直俺よりうまい。元々高級食材のうなぎを扱う機会が少なかったので経験の差が大きいのだが。機会があれば一般的な魚をさばいているところもみせてもらいたいな。



 「ねぇ美華、アスタさんの串打ちや焼きとか、美華の目で見てどう?」


 「かなりすごいと思う。明のおじいちゃんやおばあちゃんのほうがうまいけど、彼らは異次元なだけで引き合いにだすのはアスタさんに申し訳ないんだけどね。アスタさんの腕はうな重の有名店での一連の調理を任せてもいいレベルだと思う。あくまでも嗅覚と焼いているときの音での印象だけど、焼くときの微調整とかもほぼ完璧っぽいし、タレもかなりいいのを使ってる。でも、串打ちや焼きのみであれば、いくらか練習すればわたしもそこそこイケると思う」


 「さすがだね美華」


 「明さんたちの師匠、かなりすごいお方々ですよね。明さんたちのステータスをみる限り只者ではないとは思っていたのですが。できることなら明さんのおじいさん達に教えを乞いたいものです」


 「会話のレベルが高すぎてついていけないです」


 「いやいや、華澄さんもすごい才能を持っていますよ。今日は出番はなくて申し訳ないのですが。まずはできあがったサンダーイールの蒲焼きを礼央くんに食べてもらいましょう」



 俺たちは礼央の座る席へと移動し、礼央は恐る恐るサンダーイールの蒲焼きを口にしてみた。



 「んん、うまい、うますぎる。何だこれ。体中に電流が流れこんだような感じだ。ちょっと変わった味だけどメチャクチャ俺好みだ。うまく言えないけど、ビールにつけこんだような刺激的な味だ」


 「元気になってくれて何よりです。お昼にはうなぎとご飯を一緒にお出しする予定ですが、何人分というか何匹くらいいけそうですか」


 「フランクフルトドックでおなか一杯だから、昼はごはんなしのタレ味の蒲焼き1匹分お願いします。できれば夕食はうな重ふたり分でお願いします」


 「了解しました。あと、一日三食に縛られず、おやつとか間食が必要だったらいつでも誰かに頼んでくださいね」


 「よかったね礼央。今夜もいっぱい愛し合えるね」


 「頼むから毎日は勘弁してくれ。さすがに日々の生活に支障がでる。一日おき、週3のペースでお願いします」


 「もぅしょうがないわね。わかった」



  よかったな礼央、命拾いしたね。速攻でアスタさんの意味深な発言の意味がわかったわ。奏風は必要ないと思うけど俺はどうなんだろう。自分自身の体調管理を失念していた。土日は授業は休みと聞いているから金曜の夜に華澄ちゃんにお誘いをかけてみるつもりだし。



 「それじでは6人分のうなぎも調理していきましょうか。礼央くんはさっきと同じやつ、明くんのは緑色のプラントイール、美華さんのは赤いファイアーイール、華澄さんのは青いアクアイール、真理さんのは白いウィンドイール、奏風くんのは黒いグランドイールで、あとはアシスタントさんたちが別のキッチンで大量に調理しているピンク色のエナマー(魅惑する)イールにもチャレンジしてみましょう。捌くのは明くん、串打ちとタレ塗りと焼きは美華さん担当で。今回は華澄さんはそれぞれのうなぎをつかんで明にわたしてもらいながら、折をみてうなぎの感触や形、捌かれたうなぎの切断面の感触を覚えてみてくださいね。うなぎの心臓のそばには魔石がありますので捌くときにはご注意を。まな板の前には3つの容器がありますが、右から順に、魔石、内臓の食べられるところ、骨などの捨てる部分と分けて入れてください。今回はのうなぎのお吸い物はわたしが調理しますので。お昼まで時間の余裕がありますし、仕上がった蒲焼きはマジックボックスで出きたての状態をキープできるので自分のペースでトライしてみてください。あと、分からないことがあったらどんどん聞いてくださいね。それでは調理をお願いします」


 「「「はい!!」」」



  礼央や真理さんも興味が湧いたのか、割烹着を羽織りキッチン内へとやってきた。



 「アスタさん、うなぎさんたちは厳選されたものを用意してくださっているのはわかるんですが、ファイアーイールが元気がなくて、ウィンドイール、サンダーイール、アクアイールは体を動かしたくても動かせないだけのように思うのですが、気のせいなのでしょうか?」


 「華澄さん、大正解です。ファイアーイールは氷水の耐性が低いので弱ってて、アクアイールは耐性が高く、ウィンド、サンダーイールはさらに元気になってしまうのでパラライズ(麻痺)の魔法で動きを封じているんです。ですので明くん、捌く順番はファイアー、ウィンド、サンダー、アクアの順でお願いします」


 「はい」


 「華澄ちゃんの食材の目利き、話には聞いてたけど実際見るとすごいね」


 「そんな褒められることでもないです。昔から触っただけで人や動植物の調子が何となく分かるだけです。みんなも普通にできることだと思ってたのに買い物に早い時間に行かなくても状態がかなりいい野菜やおさかなさんが売れ残ってて不思議に思ってたんです、明くんのおじいちゃんに指摘されるまで全く気付かなかったんです」


 「華澄ちゃんの無自覚チートは仕方が許せる範囲だって。明の無自覚チートは『マジかよこいつ』って何度も思ったけどな」


  「だよね~」「ですよね」「激しく同意」「明くんは特に数が多いですからね」



 美香、華澄ちゃん、真理さん、アスタさんがそう答えた。俺なんかとくらべたらじっちゃんばっちゃんのほうがはるかにチートなのに何で俺にだけこんなにも風当たりが強いんだ?その点だけはいまだに理解できない。しかしこのカラフルなうなぎ達、ほんと個性がバラバラだな。美華なんかは『何なのこれ~、うなぎによって匂いも火の通り具合も全然ちが~う!』と軽くパニック状態になっているし。初体験でしかも『全然ちがう』と表現できる美華も十分チートだろ。



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 昼の12時近くになり、奏風やレイナさん、別のキッチンで調理を終えた講師陣、アシスタントさんたちが食堂に集まり、みんなで楽しみながら食べれるようにテーブルを寄せ集めて一つの大テーブルを作った。


  「準備が整ったのでいただきましょう。うなぎが足りなくなったらアシスタントさんや講師陣らで交代で調理をお願いします。それでは『いただきまーす』」


  「「「「「「「いただきまーーーーーす!!!」」」」」」



 俺たちそれぞれに用意されたのは重箱タイプではなくうな丼タイプであり、テーブルの中央にはいくつかのピンク色のエナマーイールの蒲焼きがたくさん盛られた大皿とタレが入った容器がそれぞれ置かれていた。ごはん抜きで鰻の素焼きやタレ味の鰻を食べてもOKなんて何と贅沢な食べ方であろうか。まずは俺を含め、6人それぞれに用意された専用のうなぎを口に含んだ、案の定ではあるが礼央を除く5人は先ほど礼央が見せた衝撃的な反応をしてフリーズし、我に返った直後は夢中になってうな丼を喰らった。『また自分専用の鰻を食べたいな』、俺以外の5人もそう思っていることだろう。感覚的に自分との相性が最もいいうなぎだと感じるからである。ただし、そんな気持ちをいったん抑え、先ほどアスタさんが改めて6人全員に説明してくれた『相性がいい食材の属性』のうち、唯一当てはまらなかったエナマーイールの素焼きを試食してみた。あぁ、これは万人受けする安定感があり、かつ甘美な味わいだ。しかも局部的な精力がみなぎってくるという点ではこっちのほうが上かな。



 「今回は明くんたちがエリス界に来たばかりということで、最も小さいサイズのうなぎを使用しました。そのうなぎは大きいものだと2,3メートルのものまで出現します。もちろん大きい、というか、強い分だけ味がよく、含まれる魔素の量も多くなります。また、うなぎの種類は明くんたちにお出しした6種類のうなぎにエナマーイールを加えた7種類になるのですが、今現在もっとも美味しいといわれるモンスターイールは、7種類の味が一体となった通常ボスの『レインボーイール』というモンスターで、その次が、それぞれ違う属性の7つの頭をもち、頭を切り落としても何度も生えてくるレアボスの『八岐の大うなぎ』というモンスターになります。『八岐の大うなぎ』に関しては生け捕り、家畜化に成功しており、専属の冒険者たちが毎日大量に頭を切り落としているので、強さのわりには比較的安い値段で入手することができます」


 「アスタ先生、質問です。どうやって『八岐の大うなぎ』を生け捕りにしたんでしょうか?」


 「美華さん、いい質問ですねぇ~。エリス界最高位のSSSランクの冒険者が5,6時間にわたり、実験をかねて数百本もの頭を切り落としたのですが、『八岐の大うなぎ』が戦意喪失したときにボス部屋の扉を開けるよう命令し、扉が開いた直後にそれを扉の外に引きずり出して拷問を開始し、強引にテイムしたそうです。そのあと、ダンジョンコアと共に持ち帰られたあと、別の場所に『素材が調達しやすい構造のダンジョン』として復元されました。精のつくうなぎの美味しい調理法を残してくれた日本からの異世界転移者には感謝ですね。彼らについては今後の授業で説明します」



 『八岐の大うなぎ』か・・・そんなモンスターがいることも驚きだが、これ以上にない有効活用の仕方だね。この有効活用の仕方が予想のななめ上をいく発想ではないと思ってしまうのは、エリス界自体が予想のななめ上をいく世界である故なのではあるが。


 その後は、エリス界に来るまでハマっていた動画の『野食料理道』という動画の話題で盛り上がった。その内容は、古今東西の料理に精通している料理人が、増殖しすぎて生態系を破壊する外来生物や、食材として評価されない動植物やその部位、果ては毒がある動植物をあらゆる技法を駆使して毒物を除去しながら調理し、自らそれを食すというものであった。講師陣らの反応は『キュアポイズン(解毒)の魔法が使えない世界でそんな狂ったことをするなんて信じられない』とか『食べれるモンスターや動植物が数多く存在するエリス界ではそこまで突き詰める人はいないと思う』という反応が多かった。ただ、日本の食の歴史を振り返れば、見た目が気持ち悪い部類に入るうなぎをはじめ、焼き鳥に使われる鶏の内臓とか、山菜のアク抜きやふぐ刺しとかこんにゃくなどなど、食材が乏しかったかもしれない環境がこのような手の込んだ料理法を生むきっかけになったのかもしれない、そう話したら講師陣やアシスタントさんたちにかなり褒められちゃいました。



 


 



 



 


 



 




 





 

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