先人の知恵、現地人の知恵②
「明さん、いらっしゃいますか。迎えに来ました」
仮眠から1時間半後には目が覚めたのでアスタさんにメールしたのだが、キリがいい16時に待ち合わせをしましょうということで1階のラウンジで待ち合わせをし、場所を変えましょうということで、アスタさんのスマホに乗せられて軽く空中散歩をしながら別の宿泊棟の3階のラウンジへと向かった。やべぇ、エリス界のスマホ超面白れぇ。早く俺も自分用のがほしい。3階のラウンジはすでに窓が開いており、直接足を踏み入れることができた。アスタさんの下準備に感謝。しかもティーカップにクッキー、紅茶用ポットも置いてあるし。もしかして執事のスキルでも持ってるのかというくらい準備がよすぎて逆に怖いです。
「執事のスキルはこの世界にはないですよ明さん」
「え、アスタさん、もしかして相手の心を読めたりします?」
「お、図星でしたか。読めませんよ。ヤマをかけただけです。明さんの思考力、観察力を考慮すれば、こんな風に考えるんじゃないかなと思っただけです。今お茶を入れますね」
やばい。すでにアスタさんの掌の上だわ。昨日の華澄さんの【GR】大聖女のスキルの件といい、相談を持ちかけた時点でおおよその内容は見当がついてるんじゃないのか。歓迎会での素振りから推測されたり、あるいは俺たちのステータス情報、いや、華澄さんの異常な数値を見ただけでも逆算して俺にたどり着くのは難しくはないだろう。
俺は幼少の頃の環境や美華、華澄さん、礼央、奏風、真理さんとの出会いやいきさつを説明し、現在、美香、もしくは華澄さんとどう向き合っていくかを求められてる旨を説明した(なお、明は奏風の初恋の女性が華澄さんの亡き母親であることはこの時点では知らない)。
「ここがガイア界だろうがエリス界だろうが関係なく、普通に2人同時につき合ってみればいいんじゃないですか。あとは明君の覚悟の問題だけであって」
渾身の突撃を闘牛士に軽くかわされたかのように一瞬拍子抜けしたのだが、「覚悟の問題」というワードに対し返せる言葉が思い浮かばなく、黙りこくってしまった。
「まず、私を含め、レイナさん、他講師陣は、みなさんのデータを受け取った時点で大方予想はついてました。まず第1に、華澄さんと奏風さんは長い付き合いであるのにもかかわらず恋人同士になったことがない。第2に華澄さんは明君とほぼ同じ時期からスイミングスクールに通い始めた。第3に、5人と仲がいいのにもかかわらず、5人を避けるように別の女子高に進学した。第4に、突然といってもいいほどに、高3のときに華澄さんが5人のいる高校に転入してきた。これほどの材料があれば、ガイア界のそれぞれの高校の校長とか、みなさんのクラスの担任とか、果てはクラスメイトの何人かは華澄さんが突然転入してきた理由の答えにたどり着けていると思いますが、どう思いますか、明君」
「ええ、その通りだと思います」
そう口にするのがやっとだった。普段は可能な限り思考を巡らすのに。なぜ当事者の俺がその可能性にたどり着けなかったのか、その答えにたどり着けそうになる前に立て続けにアスタさんが口を開いた。
「一言でいえば、明君の自己評価が低すぎるんです。今回の件は明君自身が渦中の人物となってしまったがために何も見えなかったんだと思います。己を過信よりは遥かにマシかもしれませんが。人生の選択に完璧な回答がない場合もあるんです。ガイア界由来の童話に『ロバを売りに行く親子』というのがあるのですが、子供だけロバに乗っても、父親だけ乗っても、2人で乗っても、誰も乗らなくても後ろ指を指す人が必ずいるんです。であれば、自分自身の心や感情にとって一番いいと思う選択をしたほうが得じゃないですか。どこぞやの空に浮かぶ城の花嫁選びのように二者択一ではないのですから」
「わかりました。ありがとうございます」
とりあえず「俺自身の覚悟の問題」という言葉だけは絶対に忘れぬよう自身の心に誓った。あのときの花嫁選びは幼馴染が一人だけだったので即決だったのにな。攻撃魔法が強いキャラが好きだったのもあったし。と思いつつ、アスタさんの魔法の絨毯のようなスマホで部屋まで送ってもらうのだった。




