【~プロローグ~】 とある酒場にて
真夜中に差し迫った時間帯、とある商業エリアを白いスーツを着こなし、白い帽子を深くかぶった男性が淡々と歩いていた。暗くなった時間帯とはいえ通行人はそこそこいるたのだが、これだけ目立つ格好をしているのに誰が気にもかけないない様子だった。
一軒のショットBARの入り口の前に立ち止まると「付与魔法解除」「広範囲遅延」と小声で唱え扉を開いた。
店内はそこそこ賑わっており、客たちは会話に花を咲かたりしていたのだが、さすがにほとんどの客は強烈な違和感と、空気が変わったと同時に扉を開けた白いスーツと帽子を決め込んだ彼から発せられる強烈な雰囲気に目を向けた。
彼は胸ポケットに刺さっていた一輪の赤いバラの花を取り出し、アンダースローウでダーツのを投げるようにそれをなげると、(客の視点からは)ゆっくりと空中で弧を描きつつ、まるで吸い込まれるように店の奥に座っていた緋色のドレスを着た女性の胸の谷間に見事にささった。そして男は店の中央にで立ち止まり、「エリアディスペル(広範囲魔法解除)」と唱えて聴衆に語りかけた。
「ハローエブリバーディ。みんな聞いてよプリーズ。ここに始まるはガイア界からやってきた6人の若者の旅のダンシングアンドソング。偉大なるアルカナ帝国とはるかなるエレナ大陸のダンシングアンドソング。Aoh!」
彼がそう高らかに宣言すると同時に、カウンターの内側にいたマスターらしき壮年の男性が「いい加減にしろや、ラインハルト(金沢 礼央のアバター名)」と叫んだ直後に(無詠唱で)ファイアーボールを彼の股間に放ち、見事に的中した。
「アオオォォォォォゥウッ!!」
彼は悶絶しその場で激しく転げまわり、何とかリカバリーしたあとでマスターに噛みつくかのように抗議した。
「店に入ってすぐにオレの正体をばらすなよ!こう見えてもエレナ歴の中でもかなり上位にくい込む有名人なんだ!!オレが踊り歌い終わって客がみんな帰ったあとに、二人でしみじみと思い出話をするのが様式美ってもんだろうがぁあ!」
「平和なご時世になってかはロクな事しかしてないおまえが何いってるんだ!初めてオマエとダンサー達のガイア界由来のダンシングアンドソングショーの再現動画を見たときには「こいつはスゲエや」と感動したが、こんなチンケな店で再現されたら客が強制的にマリオネット化されたりとか、店をメチャクチャにするに決まってるだろうがぁあ!!第一にダンスは必要ないし、オマエらが歩んできた冒険をどう短くまとめても1日以内におさめられる長さじゃないだろうがぁあ!客を殺すつもりかっ!??」
「ジョークだよジョーク。そう青筋たてんなって。とりあえずいつものやつを1杯くれ」
「おぅ。最初から普通にやってりゃいいんだよ。全く(ちぃっ。いつも辛気臭い俺に気ぃ使いやがって)」
店内は呆れつつも笑っている客たちの笑い声で満たされ、ラインハルトは出されたグラスに唇をつけると意外にも普通に舌の上でロックを味わいながら喉を潤しはじめた。
陽気で満たされたショットBARを月夜が優しく照らし、時間がゆっくりと流れるかように過ぎていくのだった。