第四話
二九三九五〇日目
目が覚める。鏡を見る。僕は二十歳くらいの青年だ。昨日はとても痛かった。あんなのは二度とごめんだ。
僕の側には女の人と、小さな男の子がいた。二人ともまだ眠っている。起きるまで待つ。男の子は、僕と、女の人に顔立ちが似ている。僕ら三人は家族なのだろう。
やがて二人の目が覚めた。僕達は自己紹介をする。
女の人は男の人だった。男の子は女の子だった。
一緒にいる理由は特にない。だけど、離れる理由も特にない。僕らは三人で過ごした。
窓辺から見える海が綺麗だった。
二九三九五一日目
目が覚める。鏡を見る。僕は年老いた老人だ。男だった。
傍に小さな女の子がいた。
僕達は自己紹介をした。喋り方が女の子っぽかったから、女の子かと思ったら、性別は決めていないらしい。喋り方と振舞いはその日の器で決めるのだと語った。
試しに別の口調をやってと頼んでみた。突然ぶっきらぼうな男口調になった。かと思えばお上品な令嬢っぽい挨拶と一緒に綺麗な礼をして見せてくれた。面白かった。
僕も今度そういう遊びをやって出会った人を驚かせてみようかと思った。
二九三九五二日目
目が覚める。鏡を探す前に気付いた。お腹が異様に膨らんでいる。動こうとすると気分が悪い。傍に置いてあるメモを読んだ。
どうやら僕は妊婦らしい。メモによると出産までにはまだもう少し日がある。安心した。一日安静に過ごした。
夜は窓の外に三日月が見えた。
寝る前にペンを執る。メモに記されていた妊娠後の日数を更新した。
出産の日にこの器で過ごす魂は気の毒だと思った。
二九三九五三日目
目が覚める。僕は砂漠にいた。砂漠で目覚めるのは初めてだった。鏡の類はない。服の中に手を入れると僕は男のようだった。
傍には数頭のラクダがいる。それから、頭にターバンを巻いた人達がいる。
聞いてみると、僕は四十代くらいで彫の深い顔立ちらしい。
ラクダに乗って砂漠を横断した。果ての見えない砂の海は壮麗だった。
お昼ごろのことだった。突然くらくらして、なんだか眠くなってきた。意識が遠くなって、そのまま倒れてしまった。
一日目
目が覚める。鏡を見る。僕は十五歳くらいの少年だった。二階建ての家に一人でいた。
昨日は何故倒れてしまったのだろう? あの器は病気だったのだろうか。
外に出ると、石造りの住宅が並んでいた。なんとなく辺りの人に話しかけてみる。
彼らは口を揃えて同じことを言った。昨日のお昼ごろに気が遠くなって倒れてしまったという。
不思議だった。もっと沢山の人に尋ねてみた。皆が僕と同じ経験をしていた。
それから、もう一つ不思議なことがあった。
今日は出会った人のほとんどが見た目通りの自己紹介をした。魂の年齢と性別が見かけと変わらなかった。
僕の器は毎日荷運びをしていたようなので、僕は家を作る為の石材を運んだ。
隣の家に住んでいた女の子と仲良くなった。子作りをした。
僕達はベッドの上で「さようなら」と言い合って眠りについた。