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蕎麦うどんの作品

読まなくていい小話

作者: SSの会

 お前らがどんなに意見しようが何も参考にはならないし、耳も傾けない。黙って読んでクソでもして寝――。

 ここまで書いたところで『ゴン!』と衝撃が脳に響いた。

「またそんなこと書いてんのか! いい加減にしないとそろそろ担当外されるぞ!」

 俺が外される時はアンタも外されるんだよなぁ。と思いながら、ゴツいスマホでぶっ叩かれた俺の才能溢れる頭を撫でた。企画に沿って書いてただけなのにかわいそうな俺。

「お前今『企画通りに書いてるだけなのにぶん殴るぞアフロ頭』とか考えてただろ。お前のその乾ききった目とクソッタレな顔面見りゃわかるぞ」

 さすが千葉源、二十八歳。だてに中堅出版社に新卒入社して六年間勤めているわけじゃなさそうだ。

「声に出てるぞ井草コウタ二十四歳。俺はお前のそういう『気づいたら声に出てました』とか言いそうなところが大嫌いだ」

「まあ落ち着きましょうよ千葉さん。今はこんなところで言い争ってる場合じゃないんですよ」

 そう、争っている場合じゃない。なんせ今日は−−。

「校了日ですよ」

 そう校了日。雑誌を作る上でやっとこさ報われる日とも言っていい校了日。できれば何も起きて欲しくない校了日。

 しかしここで問題だ。校了日とは言っても当日二十三時五十九分五十九秒に終わればいいわけじゃない。校了の先に待っているのは『入稿』。そう印刷所に入稿データを渡さなければいけない。一秒であんな膨大なデータは送れない。大体ギガファイル便とかにお世話になる。すなわち渡し終えてからが真の校了とも言えるのだ。

 だが、しかし、だがしかしだぞ、目の前で小洒落たメガネと絵に描いたような黒アフロを引っさげた男は、すでに時計が二十二時五十分を回ったというのに何を思ったのか、後輩編集者の頭をわけのわからんケースに包んだスマートフォンでぶってきたのだ。今のご時世、少しでも叱ればすぐにでもパワハラになるというのに、体罰まで加えてくるのだから、ある意味肝が座っていると言える。

「待て待て井草。いくらポンコツ編集長が『あえて読まなくてもいい小話を雑誌に入れよう』って言ったからって本当にどうでもいい話を書いていいとは言ってないぞ? てか、誰が絵に描いたようなアフロだ。今すぐ消せ」

「えー。文句が多いですね千葉さん。時間もないし文字数重ねるには思ったこと書くしかないですよ」

「じゃあ思うな! とにかく消して違う話書け! 教育係の俺が叱られるんだぞ」

「仕方ないですね……。どこからですか?」

「『お前らがどんなに意見しようが〜』ってところから全部だ!」

 うるさいな……。しかし時間もないし今日は指示に従ってやるか。

 ……という部分も書きそうになったが書くのをやめた。ここからは心の声として留めておこう。

 ひとまず校了間近なのは事実で、実際に校閲作業と入れ込みを考えれば二十三時三十五分までには仕上げたい。中堅週刊誌だし、多少は融通も効くが、アフロのためにちゃんとやってやろう。

 そんなことを考えていると、アフロもとい千葉先輩がソワソワしながら部屋の掛け時計を見上げた

「お前は書くのは早いしこの企画でもたまに面白い話書くとはとはいえ、さっきみたいな載せられない話を書くからな。かといって本当にどうでもいい『近所のスーパーの特価情報』とか『アボガドスイーツの作り方』とか書くから一苦労だ。たまにはこう、社会に物申すものとか書けないのか?」

「いいですけど、そうなると前に拒否された『共産主義者はゴミクズ』とか『何においても感想を送るやつにロクなやつはいない』とかでもいいですか?」

「個人的には気になるがダメだな。俺が怒られるから」

『保身に走るやつにロクなやつはいない』。改めて胸に刻んだ言葉だ。ひとまず書こう。二十三時五分だ。

 しかしこれは困った何を書いていいやら。

 俺が眉間に手を当て悩んでいる姿が珍しいのか、千葉先輩は「やれやれ」といった表情を浮かべた。

「まあ今回は『間に合わせの文章』でいい。元々、編集長御用達の会社が広告吹っ飛ばしたのがキッカケでできたページだ。基本火の粉がかからない内容ならなんでもオーケーが出る。あの人は興味のないページは見出ししか読まないから」

「まあそうですよね。現に僕のページ以外は順調に終わったから帰っちゃいましたし。案外ああいう長もいるんだなって勉強になりました」

 千葉先輩は相槌を打ちながら三度時計を見た。なんだかんだ言って、一番責任感があるのはこの人なのかもしれない。もしくは、自分で言うのもおかしいが直属の後輩である俺の面倒に手を焼いているとも見える。

 ぶっちゃけて言えば、雑誌のメインコンテンツに力を注いでいるとこういうハナからどうでもいいと言われているものに手を付けるのがバカらしくなる。それでいて自称評論家の社会的ステータスが低い奴らには『多種多様なご意見』とやらをぶつけられるから余計腹が立つ。黙って読んで買い続けろと言いたい。

「できればあと二十分くらいで書いてもらいたいが、何を書く? 今話題の現金給付される、されない問題でも書いてみたらどうだ?」

「そんなの貰えないとどうにもならないやつが悪いですよ。まあケースバイケースですけど。そんなのつまらないんでなんか別のもの書きます」

「まあ、たまに面白い話もあるからお前に任せる。ただ、あんま変なの書くなよ。時間もないし今回は『間に合わせの文章』でいいからな。文字数もそうだな……二ページだし八百くらいでいいから」

「了解です。ひとまず時間には間に合わせますね。二十分もあれば書けるんであとでファイル送ります」

 俺がそう言うと、千葉先輩は「じゃあ一服してくるわ」と言い残して去っていった。

 ご要望通り『間に合わせの文章』を書くとして、何を書くかな。ぶっちゃけ評価もクソもない。評価とか点数とか興味ないからなぁ。

 今回、とはいっても残り十五分の最大の目標は『間に合わせの文章』を書くこと。中身なんかなんもなくていいから文字数を稼げればいい。

 評価したければ勝手に評価してくれって感じだ。ナメてると思うなら勝手にそう思ってくれ、俺の眼中にもないやつらから何を言われようが響かないし心の底からどうでもいい。

 そんなことを思っていたらタイトルと記名込みで千七百三十二文字も書いていた。一度書いた文章も含めれば二千八百文字と半ばくらいといったところか。所要時間十五分きっかりに仕上げた。正直、こんだけ毎日文章書いたり校正してれば余裕で書ける。中身が伴わなくていいのならなおさらだ。

 企画に沿った、読まなくてもいい小話を立派に書ききったので、軽く添削して千葉先輩に送信。あと所々削るかどうかは千葉先輩に任せる。

 これを読んだやつがわけわからんこと送ってきたら面白いな。最初から中身を伴わない文字の羅列に対して一生懸命になって文章を打ち込むんだから。

 編集長がこの『見出し』を読んだらきっとああ言うんだろうな。

 編集長様や読者様の『非常にためになる』俺の考えの上をいくであろうご意見を楽しみにしながら、俺はパソコンを閉じた。



(終)

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 この作品はSSの会メンバーの作品になります。




作者:蕎麦うどん


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