未知の模擬戦 15
【???視点】
「ぼちぼち始めてもいいんじゃない?」
「そうだな…始まるまでの時間とはいえ、三階から下には結構敷けたしな。そろそろ引っ掛かる頃合いだ」
「そんなわけで、事前に透明なマーカーで描いた罠、起動させてくれるかな」
陣を敷きながらぶらぶらと二階の集合場所に戻ってきたところで、二人からお達しがきた。この右手にあるマーカーは、愛用のガラス混合性マジック。透明で目立たなくて、俺の能力にびったりだった。俺は俺がを描いた範囲内のものを爆発させることができるから。まあ、地雷的なものである。
そして言われた通りに、腕を前に置き、目を閉じて能力を発動させた。
「げ」
───掛かったのかよ、よりによって今。
事前に仕掛けた罠を作動させたタイミングで、たまたまその場にいた奴らがそれを踏んで、瓦礫を伴って、まさか俺の真上に落ちてくるなんて。なんだこれは。
落ちてくる瓦礫がスローモーションのよう。走馬灯?実在するんだなあ。
「ボサっとしてんなよ!死にてぇなら別だが」
「いだい!!た、助かりました、ありがとうございます…」
「うん、今日は良い仕事したね、灯屋。おかげで早速ひとチーム見つかったよ…さ、あとは裂記くんと僕に任せて」
間一髪、赤髪の怖い仲間がそのクソ長い御御足で見事に横に蹴っ飛ばしてくれやがったおかげで、俺は瓦礫の下敷きにはならず壁に顔面からめり込んだだけで済んだ。いやこれも普通に痛えんですけど。
痛みを堪えながら振り返ると…さっきまで俺がいた場所には、三階の抜け落ちた床の瓦礫と、おそらく見えない何かがいる。
(瓦礫の上…質量ありそうだし、海野の光学迷彩系の結界っぽい…?つーか裂記さん、助けるにしても加減してくれよマジで…助かったけど…あー帰りたい)
それにしても、まさかこんなに早く敵とカウントするとは。学校内でも最強と謳われているチーム『氷の国』が参戦すると知り、模擬戦が始まるまではどのチームも慎重そうな雰囲気を出していた。だからこそ俺の予定では、今のうちにできるだけ陣を敷きたかった。
今回はうちの方針も安全性に舵を取った。裂記さんは何回か、あのチームに痛い目に合わさられているから。
(…まあ、俺の能力的に今回はここまでだな。お役御免。あとはあの二人がなんとかするでしょ…強いんだから)
───黒髪の男は密かに溜息を静かに吐いて、前を向いた。その瞳は少し哀愁を帯びており、その右手には弱々しくマジックペンが握られていた。
【チームPASS視点】
「…った、なにが…うわ…!?」
急に廊下が爆発して床が抜け、二階へ落ちたということは理解している。変なところを捻ったのか、左腕に僅かなピリッとした痛みが走った。落下時に反射的に閉じてしまった目を開くと、そこには、地獄と形容するのに相応しい光景が広がっていた。周囲一帯が瓦礫と火の海に包まれている。見覚えのある髪と顔と、炎を纏った鞭でこちらを攻撃してくる影。
すぐ近くで緊迫した声が叫んだ。
「全員無事だな?!?!俺たちは今、『チーム炎衆』の罠を踏んだ!灯屋という黒髪の男の能力だ!お粗末だがギリ防火、防音、対物理結界が間に合った!が、相手のチームリーダーはあの神楽 裂記、高火力すぎて結界が三つともあと数十秒も秒持たねえ!全員緊急態勢!!結界が切れたらあとは頼むぞ湖礼!!」
「はーい!結界が消えたらボクが裂記くんの炎を音で消すよ!みんな、あとは作戦S通りに、ね!瓦礫は気合いと根性で乗り越えて!」
「頼んだ!それとよろしくない報告、大分無茶したから俺はしばらく結界が張れない!十分くらいで回復するから、それまで自己防衛も忘れないでくれ…!秋山はフォローを!」
「「「はい!」」」
切迫した空気の中、凛とした海野少年の声が響く。突然の爆発からの落下、その時に咄嗟に結界を張ることができた…それだけで十分彼は優秀だ。例え数十秒でも、呼吸を整えることはできるのだから。
して何か考える素振りをしてから、徐に竹也少年が口を開いた。
「佐原井先輩。神楽先輩の相手は間違いなく薫くんになります。ので、灯屋先輩は自分が抑えます。といってもあの人は陣を描く暇を与えなければ良いだけですので、『重力』で潰して終わりかと。今攻撃してきているもう一人の男…春戸先輩は、『炎』を纏わせて攻撃してきます…レンジは近距離から中距離くらいかな…いけますか?」
「めちゃくちゃビシビシ叩いてきてる人だよね、なんか強そうだしSっぽい…正直、精神的にはあんまり余裕ないけど、やるしかないよな…や、やる!やります!!」
「横からフォローしますし、あまり力まないで下さいね。チームですから。」
「そうね。俺もできそーなことあったらやるから、三人ともふぁいおー!丁度、床の残骸もあるし…ね!」
そんな話をしているうちに、とうとう結界にヒビが入った───
「…頼む!!」
「まっかせてー!ほいっと」
共鳴───彼が指をパチリと鳴らすと、辺りを焼き尽くさんと轟々と燃えていた焔は、幻のように一瞬で音もなく消えた。と同時に、飛び込んできたものがある。湖礼少年はそれを『風』で軌道をずらして避け、局所的な突風で吹き飛ばそうとして…
「うわっ?!ビックリしたあ!いっつも炎一辺倒の裂記くんが、まさか飛び出してくるとは、ねー」
「…ま、消されるのはわかってるからな。あとはフィジカルしかねぇ…だろ!」
「よっと…しかもなんか、風飛ばしても全然飛ばないなあ…あっなんか付けてる!?オモリとか!ずるーい!」
「テメェとやり合うのは想定済みだから、なァ!ったりめえだよオラァ!!日頃の鬱憤晴らしてやる、ちょこまか避けんじゃねえ!!」
「やーだ!当たったら痛そうだもん!ええい!…イヤホント飛ばないね?!良い対策だねえ、んじゃ今度は『音』で…」
あっちはなんだか楽しそうな湖礼少年に任せるとして、問題はこちらだ。結界が割れた瞬間、鞭を構えつつ攻撃をやめた。絶好の攻撃チャンスのはずなのに。何故…?探るようにじっと見てくる男…春戸、といったか。いや、今は考えるより行動!と俊輔は先手必勝とばかりに真上から雷を堕とした。が。
「待って、ちょっと。気になることがあるんだけど」
「え、は、はい…?」




