未知の模擬戦
「『団体戦模擬試合の参加のお知らせ』見たか?」
「もちろん見た見たー!まあ最後の開催から二ヶ月経ってるからねえ、そろそろくるかなーって思ったよ」
「え?なにそれ?」
比較的平和で和やかなお昼の空気は、その一言でぴしりと固まり粉砕した。粉砕した張本人である俊輔は早々にやらかしを悟った。なぜなら横に視線をずらせば、海野少年が凄い顔をして口をへの字に曲げ、湖礼少年は額に手を当てあちゃーといった表情をしているからだ。おそらく端末案件、しまった今日は何も見ていない。背筋をたらたらと冷や汗が流れる。
二人は視線を合わせたあと、一拍置いてから何事もないように会話を続けた。
「あーゴホン。作戦会議しないとな、今日でいいか?」
「ボクはいいけど…東院寺センセが捕まるかな?任務かも」
「あ、あの〜」
「今回は団体戦だからあいつはパス。まあ念の為参加条件の確認を」
「待って待って!お願い待って!多分きっとおそらく端末に連絡かなんかが入ってて、見てない俺が悪いんだけど、何の話かわからないまま進めないでお願い!!」
「必死か」
───月での任務から数日後。俊輔はたまたま任務がなかった湖礼少年と、付き合いで同じ授業に出てくれていた海野少年と共に食堂で昼食を摂っていた。
授業は基礎知識メインの1-Eから実践基礎練習メインの1-Dまで進み、能力のコントロールも以前より僅かに上達していた。どれくらい成長したかというと、なんと数メートル先の静止している物に威力低めの雷を何発か堕とせるくらいには成長した。来る日も来る日もシミュレーションルームで時折マスター来栖に絡まれながらも制御のイメトレに明け暮れ、ようやく現実世界においてもコントロールすることができるようになってきたのだ。もう静電気なんて言わせない!午後からの授業も頑張ろう!と意気込んでトロトロのデミグラスオムライスを頬張っていたところで、身に覚えのない話が始まり思わずスプーンを運ぶ手が止まり、「なにそれ?」と口が勝手に動いていた。
なんか、団体戦とか不穏なワードが聞こえた気がして…
「何ってそりゃ団体戦模擬試合の話だよー!」
「聞き間違いじゃなかった!!つまりチームで戦うってこと?!イコール俺も参加するってこと?!」
「そりゃそうだよ、チームでしょ★チームワークが試されるやつだね…って、連絡来てなかった??」
「…携帯端末に?」
「うん、携帯端末に」
「アアアッ!やっぱり!」
「全てを察した。お前さあ…」
「あああ、すみませんすみません!持ってきてはいるから!今見るから!」
「良い返事だ、読むついで声に出して読み上げて頭に叩き込め!はい!」
「押忍!!」
「ブッッ!」
二人のやりとりを正面から見ていた湖礼少年が飲みかけの水を勢いよく噴き出す。あわや正面にいた海野少年にかかると思われたが、どうやら瞬時に水を弾く結界を張ったらしく、彼が濡れることはなかった。結界に阻まれた水は、静かにテーブルを伝う。海野少年はというと、顔に青筋は立て閉じた拳はふるふると震えていた。
「っぶねぇなおい湖礼!!汚ねえな!!」
「ははは!いやあ、ごめんごめん!シュンスケが面白くて!第三の地球に来て何ヶ月経ってるのかと思ってさ」
「え?うーん、三ヶ月くらいかな?」
「んもー、ほんとアナログ人間なんだから!素敵なことだけどね!ホラ、今って何でもかんでもデジタルだし面白みがないんだよねえ。だからボクはそういう懐古的なもの、良いと思うよ★」
「そ、そうかな?はは、なんか照れるな」
「そういう話じゃねえんだよ。話の腰を曲げるな湖礼。いいからさっさと読め」
「「怖っ」」
「佐原井?」
「はいっ読ませていただきます!
…ええっと、『団体戦模擬試合の参加のお知らせ…きたる五日後、校内にて、リーンフォースの総力戦を開催します。今回はトーナメント戦ではなくゲリラ戦です。また、団体戦となりますので、参加希望の団体は代表者が期日までに保健医 名無まで参加証を取りに来てください。不参加者は当日は校舎への立ち入りを一切禁止、負傷は自己責任です。校内での戦闘はAIドローン及び電磁通信により各自の端末、寮の談話室のモニターにて中継配信を行うため、不参加者はそちらで見て学ぶように。先生としては超貴重な実践訓練なので極力参加しろって思ってます』…?」
「いつ聞いても見てもなげえ文章だよな」
「まあ、シュンスケみたいに初めての人もいるから」
「ん、わかってる。佐原井、続けて」
「はい喜んでぇ!
『一、参加証をつけているものを攻撃した場合、いかなる攻撃でも、たとえ致命傷でさえも復活可能なため、遠慮はしないように。但し痛覚は通常通りあります。降参宣言か戦闘不能により脱落した場合、強制的に訓練場へワープしますので脱落者は大会終了までそこで待機して下さい。
二、校舎には様々な特殊結界を多重に張るため遠慮なくぶち壊してOK。終わったら全部元通りになります。不思議だね。
三、本大会はあくまで団体戦ということを念頭に置いて、そして訓練ではなく本物の戦場だと思って闘いなさい。わからないことがあればいつでも名無まで。』」
「つまりそういうことだから」
「どういうことなんです?!」
「あははっとりあえずご飯食べちゃおーよ!その後に
、作戦会議についてとか話し合おう★」
最後まで読み上げてから、端末を閉じて食事を再開する。昼食はすっかり冷めてしまっていた。
「あ、その前に悪ぃけど二人で参加証とってきて」
「はーい★」
「わかった」
「作戦会議は………そうだな、今日の夜九時、俺らの部屋予定で」
そう告げた海野少年の表情がどこか楽しげで、俊輔はまたもや嫌な予感がするのであった。───




