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PASS!  作者: 寛世
第2章
34/53

mission 1 : to the MOON⑥



 ヒュッと息が詰まる。

 少年の深碧の瞳がまっすぐにこちらを見つめていた。なんとなく気まずくて目を逸らす。視線の真意を読み取ることはできなかった。彼が何かを伝えていることはわかったけど。勝手に気まずくなっている上に、張り詰めた緊張と重い不安が、影も形もなくのしかかってくる。呼吸が苦しい、空気が薄い、視界が狭い、そんな気がした。

 ───ああ、これが兵器となった自分たちの仕事(日常)になるのだ。


(……何と、闘うって?)


 遠くなりそうな意識を保ちつつ、角を曲がる。眼前に飛び込んできたのはいくつかの巨大な工場。全体的に白く清潔感があり、野菜工場というだけあって会社周辺には自然がかなり多い。正面には左右に分かれた小さな花壇のような畑(と言われていたらしい)の姿。今現在、野菜はプラント栽培が主流であるため、なるほどこれはイメージ作りらしい。正面玄関近くの電工看板には、「ムーンベジタリアカンパニー : 本日通常営業中」という文字が忙しなくチカチカと点灯しており、どことなく古めかしさを感じた。


「ここだね」

「うん」


 一度だけ止まって、すぐ敷地内に足を踏み込む。すると近くに待機していたらしい自動人形(オートマタ)のモノアイが不気味に赤く点り、キャタピラーの足をかろやかに動かして近寄ってきた。「うわっ」俊輔は驚いて二の足を踏みかけた。が、すぐ隣から「止まらないで」という湖礼少年の声が聞こえ、止まりそうな足を叱咤し走り続けた。


『こんにちは、『ムーンベジタリアカンパニー』へようこそ。ご用け』

「こめんねえ、あとで直すから、茂樹っちが!」


 軽く走りながら湖礼少年が薙ぎ払うように左腕を振るう。ふわりとした風が前髪を揺らしたかと思うと、突如吹き荒ぶ風が発生した。それは、瞬時に自動人形(オートマタ)を容赦なく地面に叩きつける。激しい音を立ててひしゃげ、機械は仕事をこなすことなくその活動を停止した。


「なに、今の…風?」

「気になるー?」

「き、気になる!」

「えっとね、あの自動人形(オートマタ)の周囲に()()最大瞬間風速の40m/sくらいの風をこう、地面に向けてどーんって!縦殴り的なカンジでぶつけてみた!」

「風速40メートル…(って、どれくらいだ)」

「訓練すれば誰でもできるよ!普通の機械なら壊れたはず。さて、ここからは慎重に行こ」

「…うん」


 少年はにっと笑うと、端末を一瞬だけ開いて目的の工場はこっち!と先導を切って走る。どうやら先ほどの白い会社は本社を兼ねる第三工場のようで、その後ろに似たような建物が二つあり、そのうちの一つが第一工場らしい。二人で静かに第一工場の入り口まで近づき、さきほどのように近寄ってきた二、三台の自動人形(オートマタ)を少年が再び風の能力(アビリティ)で瞬殺する。再び、三度、金属が潰れる音がした。


「よし、絶好調!」

(すごいな…)


 あれだけの能力を使ってもなお元気そうな少年。その姿に疲労感などは全く見えない。俊輔はまだ自身の能力を巧くコントロールすることができないため、電気を局所的に数秒発生させるだけでドッと疲れる。破壊力のある雷を目標物に落とすとなると、一発落とすだけでしばらくは動けなくなる始末。しかも、動き回る的には当てることさえも困難を極めた。

 湖礼少年はきっとたくさん訓練してきたんだろう。そういえば、初対面の時も空中に浮遊していた。


(彼はいつ、覚醒したんだろう)


 ───まだ、全然知らないことばかりだ。湖礼くんの能力(アビリティ)も、彼のことも。これから一緒に戦うのに。

 守られているままじゃ、駄目なのに。


 葛藤しながら、俊輔は第一工場の扉を開いた。







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