mission 1 : to the MOON
船体が揺れる。惑星軌道上を緩やかに弧を描きながら、衛星『月』へと向かって。
「…任務内容を確認する」
丸い窓枠がついた、小さな宇宙船の中。窓の向こうには淡々とどこまでも果てのない暗闇が立ち込める。静寂を破ったのは海野少年の声だ。任務の先導役らしいと、事前に聞いていた。やや緊張した面持ちで、彼は続ける。
───俊輔が第三の地球にきてから既に二ヶ月が経っていた。
「リーダーは俺、海野茂樹が務める。佐原井は初任務だから一人で行動しないで、俺か湖礼と行動するように」
「は、はい!」
「今回の任務内容は、いつもの定期的な月面調査、期間は三日間。佐原井のために改めて説明するぞ。
月における拠点の地下施設入口へ到着後、速やかにスーツを脱いで内部から月面や月そのものに異常がないかを確認するのが任務。怪しい影や怪しい物、怪しい行動、怪しい通信をしている月人がいれば、各自速やかに対応する。地球の機械どもに、繋がっている可能性があるから。
初日はざっと見回り、その後の方針はそのあとに決める」
(地球の機械か…できるだろうか俺に…おっと、胃が痛くなってきた)
「佐原井、青くなっているところ悪いがここで月の秘密を教えよう。月人は地球人の六倍の力が出せる。万が一ヤバいと思ったら応戦するより応援を呼べ。まあ彼らは基本的には俺たち友好的だが…少し特殊な面がある」
「特殊な面?」
「んんんんん」
(すごく言いたくなさそうだ!)
「あははっ、それはだいじょーぶ!シュンスケもそのうち体験することになるから!」
「??」
「…記録ではここ何十年も月において怪しい動きはなく、今までの定期調査でも問題はなかった。機械連中にまだ『月における拠点』の存在は認知されていないんだろう。あるいは泳がされている可能性もあるが……どちらにせよ、地球から察知されるようなことだけは、くれぐれもしないように。いいな」
誤魔化すように口早に話す海野少年を見て、ああ話したくないことなんだな、と俊輔は悟る。湖礼少年はそのうち体験することになると言っていた。つまりそれは近々、そういう場面に出くわすということだろう。
海野少年がわざとらしく咳払いをしたので、慌てて姿勢を正した。
「船から降りる際と地表捜査に出る際は、必ず対宇宙スーツを着用すること。月表面は気温差が激しいから、少しでも生身のまま大気に触れれば最悪蒸発する」
「じょ、蒸発?!」
「過去に起きた事例だねえ。他にも窒息とか凍傷とかエトセトラ…ほら、月って太陽と近いからさ★」
そんな笑顔で恐ろしいことをさらりと言わないでほしい…俊輔の引き攣った顔を見て気を遣ったのだろう海野少年が、
「安心してほしい。月内部はほぼ第三の地球の地表と同じだから。あ、でも重力は第三の地球の六分の一だから意識して動いたほうがいいかも」
と言ったが、正直何一つ安心できなかった。ついこの間宇宙デビューしたばかりだというのに、まして月に降り立つ経験なんてない、初めてなのだ。俊輔には想像もつかなかった。
(六分の一って…つまり、軽いってこと?月人は地球人の六倍の力を出せるって、重力由来か。月以外だったら、六倍になる…ってことだよな)
「あ、ボクは風の障壁で温度も空気も何とかなるからスーツいらなーい!酸素も重力も自力でなんとかできるし!」
「却下。お前の実力は知っているけどいくらなんでも月を舐めすぎ。目を離したらジュッとか笑えねえぞコラ」
「ちぇー!茂樹っちの真面目さん!」
「どーも。つうかお前が自由すぎるんだよ……任務だぞ、ったく」
「海野くん、色々詳しいんだね」
「俺は月で生まれた生粋の月人だからな。いやでも知ってる」
「月のことはなーーんでも聞いてよ!教えてあげるからさ!」
「何でお前が威張ってんだよコラ」
「ハハ……」




