人格交差点
私の地元には、大きな交差点があまりない。信号がない交差点も多い。
そんな片田舎であるここには、具体的な都市伝説がひとつある。口裂け女とかトイレの花子さんみたいな定番以外で、ひとつ。
とある交差点で人とすれ違うと人格が入れ替わる。
地元民は老若男女問わず知っていて、みんな疑ってない。小学生の頃は信じていても、中高生になると馬鹿にしたくなる時期が訪れる。
私は今ちょうどそれで、そうじゃなくても馬鹿馬鹿しいとは思っていた。
でも何故か、その交差点は通らない。
要因は多分2つ。
私みたいに“そういう時期”だって大半の子供が分かってる。
仲良しグループが揃って“そういう時期”が訪れるわけじゃないから、誰かが止めたり嫌がったりする。
なんとなく察してるんだ。本当は幽霊が出ない建物に昼間肝試しに行く、みたいな簡単なことじゃないってこと。
本当は分かってるんだ。
だけど、私は、今日、今から、その交差点を通る。
今日日直の予定だった子が休んだせいで、私が日直をする羽目になった。店舗限定特典がなくなるかもしれない。
近道は、都市伝説の交差点。
そこはなにも知らずに見れば、本当にただの交差点。不気味な雰囲気が漂っているわけでも、なんでもない。
帰りはちゃんと避けて通るから。今だけ。一度だけ。
特に必要のないはずの覚悟を決めて、交差点に一歩足を踏み入れる。
1/3辺りで、何故か急に不安になった。多分人気がないから。他に理由なんてあるはずない。…でも、やっぱり引き返して普通の道を行こう。
そう思って方向転換したら、足がもつれた。
私の横を、誰かが通った。
そう感じた次の瞬間、私は立っていた。それに向いている方向が違う。方向転換したから、夕日が見えるはず。それなのに影が見える。
着てる服も違う。制服だったはずなのに、今着ているのは私服。
…本当だったんだ。本当に入れ替わったんだ。すごい!どうやって?いやいや、違う。そんな場合じゃない。相手もきっと戸惑って…え?
誰も、いない。