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機壊の約束

作者: 春風 月葉

 僕は明日、新しい家に引っ越すことになった。なんでもお父さんの仕事先が変わったのらしい。昨日までの僕は新しい家への期待でいっぱいだったけれど、今はいつもより少し少しどんよりだ。お父さんとお母さんが話していたのを聞いてしまったんだ。新しい家にはソーニャを連れて行けないって。

 ソーニャは僕たちの家の家事を手伝ってくれるロボットで僕にとってはお姉さんみたいな子だ。ただ、最近は少し調子が悪いみたいで、よく近くの工事で診てもらっていた。

 その日、お父さんとお母さんは新しい家に移るための準備で家を空けていた。家の中にはソーニャと僕が二人きり。僕はソーニャに言った。

「明日お引越しだね。」

『はい、そのご予定で間違いありません。』最近は僕も引っ越しの用意で忙しかったから、ソーニャの声を聞くのは久しぶりな気がする。

「ソーニャは一緒に来てくれないの。」ポロリと言葉が溢れた。少しの沈黙が続く。

『私は壊れてしまっていますから。』無機質な声が、どこか悲しげに思えた。

「ソーニャ、待っててね。すぐに迎えに来るから。」子供な僕は自分がどれだけ遠くに行くのかも知らず、本心からそう言った。

『わかりました。』ソーニャは笑って言った。ソーニャは機械だから、きっと言葉通りに受け取ってくれたんだ。


 別れの日、僕はすぐに会えると思っていたからソーニャと家に元気よく手を振った。ソーニャはいつまでもこちらを眺めていた。


 それから何日経ってもソーニャの元へ帰ることはなかった。引っ越し後の忙しさと新しい環境に慣れることに手一杯だったソーニャとの約束を忘れていた。そして馬鹿な僕は忘れたものに気がつけないまま大人になった。


 十二年が経った。僕は一人暮らしを始めることになり、物件を探しつつ荷物を整理していた。そのとき、古いアルバムの中に移るなつかしいロボットを見つけた。そして僕は、ようやくあの日の約束を思い出した。

「ああ、ソーニャ。」僕は昔住んでいた家を急いで探した。するとあの家は当時のまま残っており、買い手を探している状態だった。僕は急いで業者に連絡を取りその家を見に行った。


 家は昔のままだった。もういるはずがないとわかっているのに、ソーニャが掃除をしてくれていたのではないかと考えてしまう自分が嫌になった。全て自分のせいなのに。

 扉を開けると一台の家事ロボットが立っていた。

「ソーニャ、なのかい。」しかしその姿がソーニャのものと違うことに気がつき、私は深く俯いた。しかし次の瞬間、聴き慣れた無機質な声が聞こえてこう言った。

『はい、おかえりなさい。』

 ハッと顔を上げる。やはり目の前のロボットは自分の知るソーニャとは違う。僕は試すように聞いた。

「寂しくはなかったかい。」するとソーニャは言った。


『私は壊れていましたから。』

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