97話 いざ東国へ!
「イーナ~~ 待ってたよ~~」
タルキス王国、そしてアレナ聖教国に向けて出発する日。すでに準備を済ませたアマツとミズチ、見送りに来てくれたミドウが、私達ヴェネーフィクスの到着を待っていてくれた。
「ごめんごめん、待たせた?」
「全然~~ てか、皆武器新しくなったんだね~~ 気合い入ってる~~」
「そうだよ! こないだの魔鉱晶石の件のお礼にって、アレクサンドラさんから!」
「いいな~~ 私ももらっておけばよかった~~ 一緒に行ったのにさ~~」
「……」
黙ったまま私達の様子を見ていたミズチ。つい、ミズチのことを気にせずアマツとの会話に花を咲かせてしまったことを反省し、今度はミズチに対して挨拶をする。思い返してみれば、ミズチとは初対面ではないものの、前回ほとんど会話を交わしていないと言うこともあり、向こうにとってもどことなく気まずいのかも知れない。せっかくしばらく道中を共にするのだから、少しでも会話を出来るようになりたいものである。
「ごめんなさい! つい会話が盛り上がっちゃって…… えーと…… ミズチさん! 改めて、タルキスまでよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
私の挨拶に続いて、元気よくルカも頭を下げる。ミズチは少し戸惑ったような様子で、私達に向かって無愛想に言葉を返してきた。
「ああ……」
小さく言葉を漏らしたミズチに対し、ミドウが絡んでいく。
「おい、ミズチ! こんな美女達に囲まれているというのにそんなしけた面じゃモテないぞ! 少しは景気よくいっとけ!」
「……よろしくお願いする」
「まあこいつは少し陰気なところはあるがな! 根は良いやつだ! イーナ! ルート! ミズチのこと、頼んだぞ! もちろんアマツもな がっはっは!」
「もう~~ 少しは空気を読むってことをしてよ~~」
「……全くだ」
豪快に笑うミドウに少しあきれたように言葉を漏らすアマツとミズチ。そんな3人のやりとりがどことなくおかしく、私もつい笑みを漏らしてしまった。なんだかんだでみなミドウには頭が上がらないのだろう。かくいう私もそうだし、あまり会話が得意ではないであろうミズチでさえもミドウの前では完全にペースを乱されてしまっているようだ。
会話も一段落し、早速飛空船へと向かった私達。ミドウが用意してくれていた飛空船は、定期便で利用されている飛空船よりは大分小柄なものだった。だが、思っていたよりはずいぶんと豪華で、ふかふかとしたベッド、それにまさかの浴室まで完備していると来た。そこらの家よりずっと快適に過ごせそうな飛空船を見た私達は興奮に胸を躍らせていた。
「すごーい!」
「こんな豪華な飛空船を…… わざわざ用意してくれただなんて……」
思わず声を上げたルカとナーシェ。私達がここまで興奮したリアクションをしてくれたのが嬉しかったのか、ミドウのテンションもまた一段と上がったようだ。
「これならば、アレナ聖教国でも快適に過ごせるだろう! せめてこのくらいはさせてくれ!」
「本当にありがとう! ミドウさん!」
「気にするな! 俺の部下のパイロットも同席させる。何かあれば頼ってくれ! あとは、一応少数ではあるが、先行隊としてすでに俺の部下をアレナ聖教国に送り込んではいる。お前達を援護するように指示はしているから、是非頼ってくれ!」
流石はミドウ、すでに根回しまで済ませている。ミドウの部下がすでに現地入りしているというのは見知らぬ土地に行く私達にとって、何よりも心強い。
「今回皆様に同席いたします、アボシと申します。道中よろしくお願いいたします」
ミドウが用意してくれたパイロットのアボシ。アボシは一言私達に挨拶すると、そのまま操縦室の方へと向かっていった。隙間から見えた操縦室に興味津々だったテオは、アボシの後をついていき、少しでも操縦室を覗こうとしていたようだった。
「お、君操縦室に興味があるの?」
「ニャ! 一体どうなってるのニャ? 近くで見てみたいのニャ!!」
「せっかくだし、隣に座ってみる? そんな操作も難しくはないしさ!」
「ニャ! 良いのかニャ!?」
思わぬアボシからの誘いに興奮する様子のテオ。テオがこういう機械に興味津々というのは正直意外だったが、本人は楽しそうだったし、アボシともずいぶんと打ち解けているようだしなによりである。アボシだってしばらく私達と一緒に旅をする関係となるわけだし、是非とも後でゆっくりと話してみたいものだ。
それからミドウとしばらく会話をした後、遂に出発の時を迎えた。船から下り、1人私達を見送ってくれていたミドウ。そんなミドウを見下ろしながら飛空船が静かに動き出した。
「離陸します。揺れるかも知れませんので、十分注意してください!」
アボシの言葉の直後、一気にふわっとした感覚が身体を襲ってきた。窓から見えるミドウがだんだんと小さくなっていく。次第にフリスディカの街が遠くまで見通せるようになり、遙か彼方の地平線まで視界に捉えられるようになっていく。すっかり小さくなってしまったミドウは、それでもなお、未だに私達に向かって手を振ってくれているのがわかった。
まず私達が向かうのはタルキス王国。私達の最終目的地であるアレナ聖教国は言うまでもないが、タルキスだって実際に行くのは初めてであるし、今回の旅は何もかにもが新鮮であるのだ。
期待と不安に胸を躍らせていた私達を乗せた飛空船は、ゆっくりとタルキス王国に向けて出発した。




