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89話 魔鉱晶石の鉱床


「ここが魔鉱晶石の鉱床……」


 遺跡から歩みを進める事しばらくの後、アレジッドが私達を案内してくれたのは岩肌にぽっかりと空いた洞窟であった。細い入り組んだ山道を練り歩いた先にあったその洞窟は、以前から遺跡自体は見つかっていたのにも関わらず、しばらくこの魔鉱晶石の鉱床が見つからなかったというのも頷けるような、むしろよくこの洞窟を見つけたと言いたくなるような秘境に位置していたのだ。


「よくこんな場所見つけましたね……」


 ナーシェも私と同じ感想を抱いたらしく、感心するように心の声を漏らした。そして、私達の先頭を進んでいたアレッジドがナーシェに続いて口を開く。


「魔鉱晶石の鉱床までは内部をしばらく歩いて行かなければなりません。洞窟の中にも鵺達が生息していますので、気をつけて行きましょう」


 洞窟と言うだけあって内部は真っ暗。調査隊が残したであろうたいまつはいくつもあったが、しばらく使われていないと言うこともあり流石に灯りまでは残されてはいないようだ。


 とはいえ、運よくも私の使う魔法は炎の魔法。この力をつかえば、灯りを生み出すというのも大した苦ではない。とりあえずの手段として指先に小さな火の玉を生成し、その明かりを頼りに、私達は早速内部へと足を踏み入れた。


「まだ使えるみたい!」


 残された焚き火台に炎の魔法を使う。灯りこそ消えているものの、台自体はまだ使えるようだ。火を灯しながら進めば、周囲も大分明るく照らされるし、鵺による急襲への備えにもなりそうである。


「何か…… 不気味だね…… イーナ様」


 洞窟の中はシーンと静まりかえっており、灯りの燃える音と、ぴちょんぴちょんと水の滴る音だけが静かにこだましている。ルカの言葉通り、静かな環境というのが逆に不気味さを増していたのだ。


 ただそうは言っても、ただ呆然と立っているというわけにも行かない。もう洞窟の中に足を踏み入れてしまったのだし、進む他はない。


 途中の焚き火台に火を灯しながら、私達はどんどん奥へと進んでいった。謎の虫や、蛇のような生き物が住み着いているようで、時々思わず悲鳴を上げてしまいそうになりながらも、何とか私達は歩みを止めなかった。


 それからも洞窟の中の狭い道を歩き続けた私達。ふと、天井が一気に高くなり、そして洞窟の横幅も一気に広くなる。すぐ脇にあった焚き火台に火を灯すと、一気に視界が開けていった。ずいぶんと広い空間が私達の前には広がっていたのだ。


「少し開けた場所に出たみたいですね……」


「ここが魔鉱晶石の鉱床です。ちょうど奥の方に鉱床が見えるでしょう?」


 アレッジドが空間の奥の方を指し示す。薄暗くて奥の方までは鮮明には見えないが、よく見ると確かに少し黒光りしているような大きな岩が見える。


「アレが…… 魔鉱晶石?」


 そのまま、アレッジドが示した方へとゆっくり歩みを進めていく。洞窟の岩肌には所々に黒く光る鉱石が埋まっている。おそらくこれが魔鉱石の結晶なのだろう。一つ一つが私の手よりも大きく、それだけも十二分に価値を持っていそうな代物だ。


 だが、奥に居座る大きな黒い塊は、途中にある鉱石とは比べものにならないほどの大きさを誇っており、一歩、また一歩とその鉱床に近づく度に私は、だんだんと身体にマナがまとわりついていくような、そんな不思議な感覚を覚えていた。


 遂に魔鉱晶石の目の前へとたどり着いた私達。思わず見上げてしまうほどに大きな結晶に、私はゆっくりと手を伸ばす。触れた瞬間一気に体中に電撃が走るような、そんなマナの力を感じた。思わず恐怖を覚えてしまうほどに、魔鉱晶石の秘めた力というものは強大であったのだ。


「これはすごいね~~ こんな魔鉱石初めて~~」


 いつもと変わらないような様子でそう口にしたアマツではあったが、まるで新しいおもちゃを与えてもらった子供のように目を輝かせていた。ポーカーフェイスであるアマツですら興奮を隠しきれていないのだ。


「これだけの力を秘めた魔鉱晶石ならば、その価値は計り知れないでしょう。それこそ、下手をすれば一国を滅ぼしうるほどの……」


「アレッジド、下がれ!」


 突然にルートが叫ぶ声が響き渡る。そして、静かだった洞窟の中に、再びあの不気味な声がこだましはじめた。すっかり魔鉱晶石に夢中になっていた私はつい反応が遅れてしまったが、気が付けば、私達の周りには鵺の大群。それもあのときとは比べものにならないほどの量だ。薄暗い洞窟の中にうじゃうじゃと犇めく黒い鵺達は、まるで忌々しいあの黒い虫を彷彿とさせるような、気持ち悪いとしか言いがたいそんな見た目をしていた。


「あちゃ~~ 私も全然気が付かなかったよ~~ よく気が付いたねルート!」


「魔鉱晶石に夢中になりすぎだ。ミイラ取りがミイラになってどうする?」


「それを言われちゃ示しがつかないよ」


 油断こそしていたが、所詮鵺は鵺。いくら数が多かろうと、焦る必要は無い。それにこれだけマナに溢れている空間なのだから、こちらにとっても好都合。


「炎の術式 炎渦!」


 一気に鵺達の間を炎が包む。その威力は私でもすぐにわかるほどに今までとは段違いであり、一瞬で鵺達は業火の中へと引き込まれていく。一気に燃え上がった炎に照らされる洞窟の岩肌。まるで外かと錯覚してしまうほどに洞窟の内部が照らされ、そして、あれだけ湧いていた鵺達は一気に塵へと化していく。


「イーナばっかりに良い格好をさせているわけにもいかないしな」


「私もやるよ~~」


 ルートもアマツも張り切っているようで、こちらに向かってきた鵺に対し、反撃を見せる。いくら鵺が強いモンスターだからと言って、ルートやアマツの前では雑兵に過ぎない。気味の悪い断末魔を上げながら、一匹また一匹とやられていく鵺達。


 驚いたのはアマツの力である。流石ミドウの娘というだけのことはあり、アマツの力というのもルートに匹敵するほどの凄まじいものだった。その小さな身体からは想像も出来ないような凄まじいパワーで鵺をたたきつぶしていくアマツはまさに鬼としか言いようがないような、そんな姿をしていた。


 戦況は完全に圧倒。このまま行けば殲滅も時間の問題であるのは誰しもが思っていただろう。だが、私達はすぐに異常に気がついた。先ほどまでの鵺とは違い、倒しても倒しても一向に減っていく気配がない。違和感に気が付いたのはナーシェも同様のようで、焦ったように叫ぶ。


「なんか、おかしくないですか!? だんだん増えているような!」


 このままではキリがない。だったらもう一発全体魔法で一気に片付ける。


「炎の術式 炎渦!」


 再び、業火が鵺の大群を包み、一気に洞窟内が炎に照らされる。そして、私達は発見したのだ。洞窟の奥、岩陰の合間から鵺達が次から次へと出てきていると言うことに。


「おい、あそこから出てきてるみたいだぞ! あの奥はどうなってるんだアレッジド!」


「わ、私もあんな穴初めて見ました! 今まで暗くて見つけられていなかったのですが!」


「だったらさ~~ あの奥に行けばまだわからない秘密がわかるかも知れないってことだよね~~?」


「そう簡単には言いますが……!」


「大丈夫だよ~~ ねえイーナ~~?」


 いとも簡単に言ってくれる。まるで私を試すかのように笑顔を向けてくるアマツ。だけど、ここまで来てこっちだっておいそれと帰るというわけにも行くまい。こうなったらとことんまでやってやろう。


「わかったよ! 無茶ばっかり言うんだから!」


 一気に湧いてきた鵺を片付け、洞窟の奥への道を開く。そのためには、今まで以上の出力、そして屋内と言うこともあり自分達に被害がないように繊細なマナのコントロールが必要となる。普通に考えればなかなかに難しいことではあるが、これだけマナに満ちている場所だ。きっと出来るはず。イメージを膨らませながら、私は術式を口にした。


「炎の術式 炎渦!」


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
洞窟内で炎って、酸欠は大丈夫かな? あと「紅炎」があるということは、 より温度の高い「蒼炎」とかありそう。 より強力なものとして、カグツチを捩って「火倶槌」とかも・・・
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