86話 ソウルフレンド
「えっ……」
私の聞き間違いだろうか。私は自分の脳内でアマツの言葉を繰り返す。
――私は『白の十字架』のメンバーの1人なんだ。
アマツの言葉を素直に受け入れることが出来ずに、もう一度アマツの顔を見つめる私。アマツは真剣な表情を浮かべたまま、黙って私の方を見つめていた。
アマツが、白の十字架……? だって、アマツはミドウの娘のはずでしょ…… じゃあ、ミドウさんも……
私の頭の中を思考がぐるぐると駆け巡る。そんな私に駄目を押すかのように、再びゆっくりと口を開くアマツ。
「そんなに驚く?」
いや、そりゃ驚くに決まっている。まさかこんな近くに白の十字架のメンバーがいるだなんて想像もしていなかったのだから。
――いや、待って……
アマツがわざわざ私と2人きりのタイミングでそれを打ち明けてきた意図は一体なんなんだろうか。おそるおそるアマツに対して問いただす私。
「……それを今私に打ち明けて、どうするつもりなの?」
警戒しながら言葉を発した私に対し、アマツは耐えきれなかったのだろうか、真剣な表情が一気に崩れ笑みがこぼれたのだ。
「嘘嘘~~! 冗談だよ~~!」
「冗談?」
「ちょっと、カマをかけてみたんだ~~。ごめんねイーナ~~! 私は『白の十字架』のメンバーじゃないよ~~!」
再びつかみ所の無いような話し方へと戻ったアマツ。果たしてなにが真実なのか、正解が全くわからなかった私は、相変わらず困惑の中に取り残されていた。そんな私に対し、アマツはさらに言葉を続ける。
「お父様から極秘に頼まれてたんだ~~ あなた方が信頼に足る人間か見極めてこいと~~」
「それをわざわざ私に打ち明けてくれたって言うことは、一応アマツのお眼鏡にかなったと言う認識で大丈夫なのかな?」
「まあね~~ と言うかさっきも言ったけど、お父様は元々あなたたちのことを結構気に入っていたみたいだからね~~! 最初からそこまで疑ってはなかったみたいだけど~~!」
「最初からそれならそうと言ってくれれば良いのに。ミドウさんもアマツも人が悪いんだから」
「言ったら見極めることにはならないでしょ~~ もしかして怒っている? イーナ?」
「まあね!」
こちらの顔をのぞき込むように問いかけてきたアマツに言葉を返す。本当のところ、別に怒ってはいないが、あんまり良い気持ちはしないというのは間違いない。ただ私だって大人。ミドウがそうせざるを得なかったという事情もわかると言えばわかる。
「ごめんって~~!!」
少し焦るように私の様子を伺うアマツ。ずっとつかみ所の無かったアマツが、ほんの少しだけではあるが焦りを見せているようだった。そんなアマツの様子がなんだか少し可笑しくて、ついつい私の口元も緩んでしまう。
「まあ、教えてくれたからいいよ! これから一緒に鵺の調査もやる仲間だからね! アマツ、頼りにしてるよ!」
「任せてよ~~ 私も最近少し身体がなまってたからね~~ 全力でイーナ達のサポートはするよ~~!」
それからも見張りの当番の間、私はアマツととりとめのない話を沢山交わした。もちろんアマツが真実を告げてくれたと言うことも大きかったが、ずいぶんとアマツとの距離も近くなったような気がする。やれミドウが口うるさいだのそう言った愚痴を聞いていると、アマツに対する印象は、今までのどこか不思議な少女という印象から年相応の女の子という印象へといつの間にか変わっていた。
「でさ~~ お父様がさ~~」
「おい、イーナそろそろ代わるぞ」
「あれ、もうそんな時間?」
思っていたよりも話が盛り上がったと言う事もあり、いつの間にか見張りの交代の時間が来ていたようだ。仮眠を終えたルートとナーシェが私達へと近づいてくる。
「あれ? いつの間にかイーナちゃんとアマツちゃん、仲良くなってるみたいですね!」
「そうだよ~~ なんといっても私とイーナはソウルフレンドだからね~~」
「ソウル…… フレンド……?」
「細かいことは気にしない~~! さあ交代の時間だよ~~!」
一足先に、私達の下を去って行ったアマツ。そんなアマツに少し遅れて私も睡眠をとるために寝袋へと向かう。なんと言っても明日以降は本格的に鵺の住処に足を踏み入れるわけになる。少しの体力でも回復しておかねば、いざというときに命取りになりかねない。
「じゃあ、ルート、ナーシェ後は任せたよ!」
「イーナちゃん! ゆっくり休んでくださいね!」
早速寝袋へと入り目を瞑る。ここまで歩いてきたことによる疲労も相まって、目を瞑った瞬間に一気に眠気が襲ってきた。そしてすぐに私の意識はフェードアウトして行ったのだった。




