83話 アマツの目的
「魔鉱晶石の鉱床が発見されたのは、預言の書が発見された遺跡付近から、さらに奥地へと行った場所です。ただ、もうご存じだとは思いますが、魔鉱晶石の鉱脈が見つかった直後から、鵺が凶暴化したことで、鉱脈までたどり着くのも難しく、発掘作業は全く進んでいないというのが現状です」
宿舎の中で私達が話を聞いていたのは、アレッジドという男である。アレッジドはアレクサンドラの指示の下、賢者の谷での発掘作業を行っている部下達のリーダー格の男である。
普段から、モンスター達が大量に住み着いているという賢者の谷で作業していると言うこともあり、アレッジドという男は非常に屈強な鍛え抜かれたなりをしていた。だが、ワイルドな見た目とは裏腹に、口調や私達に対する態度は非常に腰が低く、こういった面もアレクサンドラの信用を得ていることに繋がっているのだろう。
「発掘の人にあたっていた仲間達の中で、犠牲になった者も少なくはありません。鵺達の恐ろしい所は、ただ単に凶暴と言うだけではなく……」
「連携をとって襲ってくる……」
強靱な肉体を持ったモンスターというのであれば、いくらモンスターが犇めく厳しい環境に慣れた人達とは言え、襲われればひとたまりも無いだろう。そして、そんな奴らが連携をとって人間を襲ってくると言うのであれば、何よりも驚異的な事である。
「……鵺の存在自体は、昔から知られていました。この賢者の谷一体に生息していたモンスター。ですが、かつて鵺というモンスターはこれほどまでに驚異的な存在では決してありませんでした。変化が訪れたのは、ちょうどあの魔鉱晶石が見つかった時くらいから…… 魔鉱晶石の力なのか、はたまた賢者の谷に何か異変が起こっているのか、それは定かではありませんが、発掘の任に当たっていたメンバー達の中でも、魔鉱晶石の呪いだと恐れ、ここを離れていった者も少なくありません」
話を聞いている限り、ちょうどアレッジド達が魔鉱晶石の鉱床を見つけたくらいから鵺の力が格段に増していると言うことで、多かれ少なかれ魔鉱晶石と鵺の脅威の増加というのは関係がありそうだ。
「……なかなか、興味深い話かもしれないな。鵺の強化と魔鉱晶石の鉱床……」
私と同じことを考えていたのだろう。ルートが小さな声でそう漏らす。
「だけど、そこまで危険となれば、発掘どころの話ではないはず…… そこまでして、どうして……」
一つ私が気になっていたのは、このアレッジドという男、そしてここで魔鉱晶石の発掘の人にあたっている人達が、どうしてそこまで危険な状況にあるというのに、それでもなおこの場所を離れずに、魔鉱晶石の鉱床にこだわっているのかと言う事だ。
「魔鉱石の力の偉大さはあなた方もよくわかっているはずです。力で劣る我々人間が強大なモンスター達から身を守り文明を発達させて来れたのは、間違いなく魔鉱石の技術があったからだと言えるでしょう。そして、我々が新たに発見した魔鉱晶石というのは、今まで発見してきた魔鉱石よりも遙かに強力な力を秘めています。アレクサンドラ様もシャウン国王様もそのおつもりで私達をここに派遣された。だからこそ我々もその期待に応えなければならないのです」
真っ直ぐなまなざしで私達の方を見ながらそう言い放ったアレッジド。彼の言葉、そして態度からは嘘偽りは全く感じられず、それだけの覚悟を持っていまここにいると言うのが、私にも読み取れた。そんなアレッジドの様子につい気圧されてしまった私の横からアマツがさらに言葉を続けた。
「そうだよ~~ 新しく見つかった魔鉱晶石にはそれだけの価値がある。だからこそ、アレクサンドラも王も、わざわざあなたたちをここに派遣するという選択肢を選んだんだよ~~」
「王?」
「あれ~~? アレクサンドラから聞いていなかった?」
この魔鉱晶石の発掘に王が絡んでいると言うことは初耳だった。今回の依頼はアレクサンドラからの個人的にな依頼だと思っていたからだ。まあ、そもそも賢者の谷という場所は連邦の管理下にあると言うことで、シャウン国王の許可が無ければ立ち入れない場所だ。冷静に考えれば、王もこのことを全く把握していないと言う事は考えづらいし、当然と言えば当然である。つまりは、賢者の谷で新たに見つかった魔鉱晶石にはそれだけの価値があると言うことなのだ。
「じゃあ、アマツ達がここに来たのも王からの……」
「それもあるけど~~ お父様が私達をここに遣わせたのはもう一つ目的があるんだ~~! さっきも話題に上がっていた鵺だよ~~!」
「鵺? それがどうしたの?」
「魔鉱晶石の発見から鵺が強化されたって話はイーナも聞いたでしょ? まあ言ってしまえば、その調査だね! お父様はそれがどうしても気になっているらしくてさ~~!」
ようやくアマツの目的もわかったし、鵺の調査となればこのままアマツも私達と協力してくれると言うことは間違いなさそうだ。間違いなく今後、鵺との戦闘が控えているであろう事は言うまでもないし、そうなればアマツ達の協力を得られるというのは何よりもありがたい話である。だが……
「本当にそれだけ?」
「そうだよ~~! だから、私達も賢者の谷の鵺退治に同行させてもらうね! よろしくねイーナ~~」
さきほどからニヤニヤと私の方を見ているアマツの様子を見ていると、まだ何か私達に言っていないこともありそうな感じだ。本当に鵺の調査だけが目的だというのなら、わざわざここまでもったいぶらなくても良かったはずだが、ここまで目的をはぐらかされていたことが逆に私にそう思わせた要因となっていたわけだ。
まあ、まだアマツという人間を私も良く知っているわけでもないし、ずっと話し方もこんな調子だから何とも言えない。本当に鵺の調査だけが目的なのかも知れないし、他に何かミドウから頼まれているのかも知れない。結局の所、アマツの事をまだよくわからない以上、下手に疑うというのもアレだし、今はアマツの言うことを信じることにしよう。少なくとも利害関係は私達と一致しているわけだし、私達に同行してくれるというのだから別に断る理由もない。
「じゃあ~~ 今日はここで休んで早速明日から賢者の谷に調査に行くことにしようか~~! よろしくねヴェネーフィクスの皆~~!」




