82話 鵺
「これでいい?」
早速警備の兵士達にアレクサンドラから預かった書状を見せる。私が差し出した書状をじろじろ見た兵士達であったが、中身を読んだ瞬間に兵士達の顔色が一気に変わる。
「こ…… これは失礼しました。ようこそ賢者の谷へ!」
先ほどまで私達に怪訝な目つきを送っていた兵士達は一気に畏まった態度へと豹変した。
書状の中身については私も読んではいないが、アレクサンドラからはこれを警備の兵士達に見せれば問題ないと言われていた。これだけ厳重な警備の元にある以上、本当に大丈夫かと少し半信半疑ではあったが、やはり王の直属の零番隊、それも使徒の1人と言うだけあり、アレクサンドラはそれに見合った立場にあると言うことであろう。
「まさかあなたがたが王から派遣されてきた応援だとは想像もしませんでした。お恥ずかしいことに、被害も広がっておりどうしたものかと頭を悩ませていたところだったのです!」
「どういうこと? 被害?」
なんだか少し聞いていた話と違う。今回の私達の任務は、アレクサンドラからは魔鉱晶石の輸送ルートの確保と聞いていたはずだった。
「そうです。元々、賢者の谷には『鵺』と呼ばれる凶暴なモンスターが大量に生息していました。ですがここ最近、以前にも増して鵺の力が強力になってきているのです。どうも奴らは、賢者の谷のさらに奥地の方から来ているようなのですが…… 詳細を調査しようにも我々だけでは埒があかず、王へと応援を要請していたというわけです」
「鵺か……」
兵士の話を聞いたルートがぼそりと呟く。何かを思い出したかのようなルートの様子が気にはなったが、一先ずは兵士から鵺について、もう少し情報を聞き出すことにする。なんと言っても、これから私達はその鵺とやらが大量に生息する賢者の谷へと足を踏み入れることになるのだ。鵺についての情報が、私達の命運を左右すると行っても過言ではない。
「そいつは一体どんなモンスターなの?」
「鵺は鬼の仲間と言われているのですが、強靱な肉体を持った化け物です。そして奴らの厄介なところは他の鵺達と連携をとって襲い掛かってくると言うところです」
聞けば聞くほど恐ろしそうなモンスターである事だけはわかる。一体、その鵺とやらがどんな姿をしているのだろうか。鬼の仲間と行っていたし、オーガみたいななりをしているのだろうか。まだ見ぬ鵺の姿に妄想を広げていた私をよそに、相変わらず飄々とした様子で兵士に向かってアマツが口を開く。
「それで~~ あなたたちは最近鵺の力が強力になったって言ってたよね~~? それっていつ頃からなの~?」
「そうですね。本当に最近です。あなた方もご存じの通り、賢者の谷はアレクサンドラ様や、ロード様達を中心に調査が進められていました。未だ賢者の谷でも調査の進んでいる部分はほんの一部。特に、連邦の管理下になり、賢者の谷に入れる方が制限されてからは、なかなか調査というのも進んでおりません。鵺が力を増したのは、つい先日アレクサンドラ様の一行が、魔鉱晶石の鉱床を発見した直後からです。何か因果関係があるのかも知れませんが……」
「魔鉱晶石の鉱床、それに鵺の強化…… そう聞くと、確かに関係はありそうだけど……」
「ちょうど、魔鉱晶石の調査にあたっていたアレクサンドラ様の部下の方々も兵士キャンプに滞在しております。よければ話を聞いてみてはいかがでしょうか?」
「ねえ、そういえば一つ確認してもいい? その兵士キャンプって私達も滞在することは大丈夫? なんか、私達の聞いていた話とはちょっと状況が違うようだし、しっかり準備を整えてから賢者の谷に向かいたいんだけど……」
兵士達の話を聞けば聞くほど、なぜかこうアレクサンドラに上手く利用されてしまったのではないかと思ってしまうが、まあそれはこの際いいとしよう。結局魔鉱晶石の輸送ルートさえ確保できれば、私達にもメリットはある。ここまで来た以上、私達だって何もしないで帰るというわけにも行かないし、兵士達も困っているというのだから人助けと思えば、さほど気にはならない話だ。
それよりも、私が気になっていたのは2つ。どうして、急に鵺とやらの力が強くなったのか。そして、私達と共に行動しているアマツがどうしてこの賢者の谷へと来たのかということだ。アマツは別に私達と敵対する気なんてないとは言っていたが、この一連の話、どうにも何か裏がありそうな気がしてならない。
そうは言っても私達に出来ることは限られている。一先ずは情報収集。そして、十分に情報を集め終わったら、いよいよ賢者の谷へと乗り込むのだ。どうやらアマツ達も私達に同行するつもりらしく、油断こそならないが、それでもアマツとセンリの力についてはこの鵺退治には大いに役立つことになるだろうし、協力してくれるというのだからこんなありがたい話はないのだ。
兵士キャンプの建物の中へと向かった私達は、早速アレクサンドラの部下である魔鉱晶石の発掘隊の面々と話をすることにした。




