71話 ルーミス魔法武具店
「おうイーナ、それにルート待ってたぜ。ヴェネーフィクスも全員揃ってるみたいだな」
「ヴェインさん! お久しぶりです!」
以前と変わらず盛況な様子を見せていたルーミス魔法武具店で私達の到着を待っていてくれたのは、他ならぬヴェインであった。
「イーナ、あれからお前の剣の状態を見たんだがな……」
言葉尻が煮え切らないヴェインの様子から、剣の状態についてもあまり良くないのだろうとすぐに私は推察できた。ゴクリと息を飲みながらヴェインの続く言葉を待っていた私。そしてゆっくりとヴェインが口を開く。
「よほど刀身に負担がかかってしまったみたいでな」
「じゃあ……」
「安心しろ。直すことは可能だ。だが、イーナ。このまま直すのも良いが…… せっかくなら、お前に合わせて改造するというのはどうだ?」
「改造? そんな事出来るの!」
「ああ! この剣はハインに合わせて作ったモノだ。お前にとっては重く扱いづらいだろう? だから、この剣を元に、お前に合わせた新しい武器を作るというのはどうだ?」
ヴェインから聞かされた、思わぬ提案に私もテンションがあがる。ヴェインの言うとおり、確かにハインの剣は今の私の身体には少し大きいというか重いというか…… 元々筋肉質で大柄なハインに合わせて作った剣である以上、当然と言えば当然ではあるが、それでも私に合わせてカスタマイズしてくれるというのならば、こちらとて願ったり叶ったリな話なのである。
だが、そう簡単に決めるというわけにも行かない。やはり先立つものは必要となるだろう。ただでさえ珍しい魔鉱石から出来ていると言われているこの剣。カスタマイズともなれば、結構な加工が必要になる事は明らかである。果たして一体どの位かかるのだろうか。おそるおそる、私はヴェインへと問いかけてみた。
「……ぜひ、お願いしたいところだけど、お代はどの位になる?」
「今回はお代はいらないさ。何せうちのオーナーからの直々の頼みだからな」
オーナー? 直々の頼み? この店に私が来たのは2回目だし、以前来たときにオーナーとやらにあった記憶も無い。にもかかわらず、オーナーの頼みというのは、一体どういうことなんだろうか。
もしかしたらルートやナーシェが面識があったのかも知れないと、2人の方へと視線を移す。だが、ルートやナーシェの様子を伺っても、いまいちぴんときてない様子だ。
「オーナー? オーナーなんていたのか? 俺も見たことがないが……」
そう言葉を漏らすルート。普段からお世話になっているルートですら見たことがないと言うんだから、他のヴェネーフィクスのメンバーがヴェインの言う『この店のオーナー』とやらと面識があると言う事は考えづらい。私は、ますますどんな意図があってオーナーが、そう言っているのかわからなくなったのである。
「お、あんたらようやく来たのかい。遅かったねえ」
「アレクサンドラさん!? どうしてここに!?」
店の中で、悶々としていた私達の元へと近づいてきたのは、まさかのアレクサンドラであった。アレクサンドラからは、きっと会えると言われていたものの、お店で会うことになるだなんて想定もしていなかった私はつい驚きの声を上げてしまった。
「どうしてもこうしても…… ここは、あたしの店だからね。あたしがいるのも当然さ」
「ここがアレクサンドラさんのお店? じゃあ…… 知ってて」
昨日の時点で、おそらくアレクサンドラはもう知っていたのだろう。私がアレクサンドラの店に剣の修理をお願いしていて、今日再びお店を訪れる予定であったと言う事を。だからこそ、きっと会えると確信を持ってそう言えたのだろう。なんだか、すっかりアレクサンドラの掌の上で踊らされてしまったような気もするが、こちらとしても話が早くて助かる。
「昨日の話の続きと行きたいところだが、まずはあんたの剣の話を先にしようじゃないか。あんたの剣の材料となっているのは、『魔鉱晶石』と呼ばれる、魔鉱石の中でも純度の高いモノだ。これがなかなか手に入りづらい代物でねえ。強力な力を秘めてはいるが、その分手に入れるのにも手間がかかるというもんなんだ」
「そんな貴重な材料を……」
「あんた運が良いよ。つい先日、あたしらはより純度の高い魔鉱晶石の鉱床を見つけたのさ。つまり、それを使えばあんたらの武器の力はより強化される。だが、一つだけ問題があってねえ…… それを解決さえしてくれれば、あんたら全員の武器の面倒は見させてもらおうじゃないかという話さ」
「面倒ってどんな?」
「魔鉱晶石の鉱床が見つかったのは、シャウン王国東部、トゥサコンという街をさらに奥に行った賢者の谷と呼ばれる地域さ。あんたらもミドウから預言の書について聞いただろう? その預言の書が見つかった場所の近くというわけだ。だが、あの一体は魔鉱石の影響か、強力なモンスターが大量に生息していてね。まだ輸送経路の確保までは至れていないと言うわけさ。ここまで言えば、あんたならわかるだろう?」
「ようは、そのモンスター達を何とかして、安全な輸送ルートを確立する手助けをして欲しいと」
「そう、巫人が2人もいるあんたらのパーティならそのくらい朝飯前だろう。まああんたらにとってもそんなに悪い話ではないと思うがね。なんと言っても、普通に直そうと思えば……」
私の耳元で金額を呟くアレクサンドラ。アレクサンドラから提示された剣の修理費用に私も思わず驚いてしまう。まあ武器自体、そんなに頻繁に作ったりするものでもないし、貴重な魔鉱石を使っているともなれば、そのくらいの料金がかかったとしても、全く不思議ではないが……
「アレクサンドラさん! 私も! 私も武器とか作ってもらえるの!?」
戸惑っていた私の後ろから、無邪気な声を上げるルカ。そんなルカの様子にアレクサンドラは孫を見るおばあちゃんのような優しい笑みを浮かべ言葉を返した。
「ああ、もしその魔鉱晶石が安定して手に入るようになったら、嬢ちゃんにあった武器もうちで作ってあげるよ! もちろん、無料でね! しかも永久保証サービス付さ!」
「イーナ様! やろう! ルカも武器欲しいよ!」
ちらりとルートの方を見る。ルートも別にアレクサンドラの依頼を受けると言うことに不服はなさそうな様子だったし、彼女の頼みを聞くのも問題は無いだろう。どちらにしても剣は直さねばならないだろうし、しかも無料にしてくれるというのだから、私としては断る理由もない。ルートやナーシェ達が問題が無いというのであれば、もう私の意志は決まっている。
「わかった! アレクサンドラさん! その任務、私達に任せて下さい!」




