68話 預言の書
王の間にて行われた使徒拝命の儀式。やはり王から直接使徒の座を口上でもらい受けると言うことで、その儀式は厳かな空気の中で執り行われた。あれだけ、個性的であった巫人達も、流石に王の面前での儀式と言うことで、流石にどこか緊張した面持ちを浮かべたまま、新たに使徒の仲間入りを果たす私とルートを見守ってくれていた。
まあ、緊張に包まれていたのは儀式の間だけではあったが……
儀式が終わるやいなや、笑顔を浮かべたまま、私とルートに近づいてくる巫人達。先ほどまでの緊張した空気はすでに何処かへと消え去っていたのだ。
「イーナ! ルート! それにヴェネーフィクスの面々よ! 改めて我らと共に戦ってくれること感謝するぞ!」
儀式を終え、ようやく緊張の糸から放たれた私達のそばに真っ先に近づいてきてくれたのはミドウであった。
「ミドウさん! 改めてこれからよろしくお願いします!」
「まだまだ至らない身だが、よろしくお願いする」
「これで、ようやく使徒も10人揃ったことだし…… 預言とやらが現実身を帯びてきたなミドウ」
巫人達も含め、皆が和気藹々とする中、1人真面目な表情を浮かべていたのはブレイヴ。ブレイヴはそんな事を口にしながら、私達の輪へと入ってきたのだ。
「10人? 予言? それって何なの?」
「ああ、そういえばまだ話してなかったな。せっかく仲間に加わることになったのだ。ちょうど良い機会だな。ロード!」
「ああ、そうだねミドウ。だけど、その前に…… イーナさん、ルート君まずは歓迎するよ。改めて、私がロード。この使徒の結成当時からのメンバーの1人なんだ」
「こいつは見た目こそ若いが、年齢を聞いたら驚くぞ!」
律儀にも、私達に挨拶をしてきたロードを茶化すミドウ。見たところ30代前半かそこらといった印象ではあったが、果たしてロードの本当の年齢は何歳なんだろうかと、気はなった私ではあったが、今の話の本題はそこではない。
そして、ミドウの茶々に苦笑いを浮かべたロードは、気を取り直し再び優しい口調で語り出した。
「まあ、その話はまた今度と言うことにして…… そもそも、何故この組織というものが立ち上がったのか、そして白の十字架というのがどんな目的を持っているのか。それは統べて預言に関係してくるんだ 」
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今から数十年前のことである。シャウン王国と、かつてラナスティア王国と呼ばれた隣国の国境の付近、賢者の谷と呼ばれる場所で遺跡が見つかった。朽ちかけた建物等の状態から、その遺跡は今よりも遙か古代、おおよそ数千年…… いや数万年前の元と推測されたのだ。遙か古代の文明のものであるというその遺跡では、周辺諸国を交えた発掘調査が盛んに行われた。
そして、あるとき、調査団によって一冊の古い書物が見つかったのだ。オーパーツと呼ばれたその書物は調査団をも大変驚かせた。書物の保存状態は極めて良好であり、最近の錯覚するほどであったのだ。だが、その書物には、魔法がかけられており、解読できるものも限られていた。
そんな中、白羽の矢が立ったのが、他ならぬロードであったようだ。当時天才魔法使いと諸国にも名を知らしめていたロードを中心に、その書籍の解析チームが作られ、解読が始まった。そして、そこに書かれていたのが、まさしく先ほどロードが口にした預言であったのだ。
『世界を支配せんとする闇の王。
王が再び蘇る時、10人の神の使いが現れん。
神の使いは人智を越えたその力で、必ずや王を討ち滅ぼさん』
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「えーと…… つまり?」
預言だのそう言った宗教じみた話は苦手である。なんだかよくわからないが、おそらくは魔王的な存在のヤツがいて…… って事なのかな……?
「まあ儂も難しい話はよくわからんがな…… まあ要は、世界を闇に陥れようとするような悪い奴がいて、そいつが復活する可能性があるということだな」
「でも、それが白の十字架とどんな関係が?」
まあ、魔王的なヤツがいると言うのはこの際受け入れるとしよう。これだけモンスターの溢れるファンタジーの世界なんだから、そんなヤツの1人や2人いたところで何も不思議ではない。問題は、そのことと、白の十字架という組織がどう関わってくるのかと言うことである。
「私達もまだ完全に預言を解読できたというわけではなかったんだ。私が解読できたのも、預言のほんの一部に過ぎなかった。そんな折、その預言の書が盗まれるという事件が発生したんだ」
「そう、預言の書はかつて、このシャウン王国と同盟関係にあったラナスティア王国の王宮で保管されていた。だが、ロードが報告のため、シャウン王国に戻っていた矢先、ラナスティア王宮が襲撃されるという事件が起こった。王も兵士達も皆殺され、生き延びたものはごくわずか。その事件を巻き起こしたのが…… 白の十字架と呼ばれている組織だ」
「そんな酷い事を……」
「闇の王とやらが、本当にいるのかどうかは私にもわからないし、預言の書の先に何が書かれているのかも謎のままだ。だが、奴らの手に預言の書が渡った以上、奴らもおそらく預言についての解読は進んでいるだろうし、ろくでもないことをしでかしても全く不思議ではない」
「そのために、危機に備えて王が結成したのが零番隊。そして、儂達は巫人と呼ばれる特別な力を持った連中を集めて使徒という組織を結成したというわけだ。そして、ようやく10人の巫人が揃った……」
ロードとミドウの説明で何となく状況は理解できた。おそらく、白の十字架の言っていた世界を支配するというのはその闇の王の復活となにか関わってくるのだろう。ただでさえ、カーマのような厄介な連中が揃っているだろうに、さらに闇の王の復活ともなれば、事態は最悪となりかねないというわけだ。なにせロードの話が真実ならば、その『預言の書』は彼らの手の内にあるというワケなのだ。
「俺達もまだ奴らの足取りを完全に掴んでいるというわけではない。なにせ連中はしばらく身を潜めていたのだ。だが、最近になって再び白の十字架の活動が活発になった……」
言葉を続けたのはブレイヴ。今まで身を潜めていた連中がわざわざ活動を始めたと言う事は…… おそらく預言の書の解読を終えたと言う事なのだろう。つまりは奴らは『闇の王』に関する何らかのヒントを手に入れた可能性が高いと考えられる。
「だが、こちらとて何もしていなかったわけではない。こうして10人の巫人が遂に揃った。預言通りであれば…… イーナ、ルート。お前達の力が世界を救うという事だ!」




