63話 8人の巫人
流石に王の間で手合わせをするというわけにもいかないと言う事で、王宮の広場へと移動することになった私達。突然の提案に驚きこそしたが、よくよく考えれば私にとってもメリットはある。この国の王に認められると言うことになれば、私達だって活動もしやすくなるし、何より人脈も広がるのだ。
それに、他の巫人達がどんな力を持っているのか、それは気になるところである。仲良くなれるかどうか…… は置いておいて、彼らは皆私と同じような立場である事は間違いない。
移動の最中、私は『使徒』と呼ばれていた彼らについての話を、ミドウから聞いていた。『使徒』は現在8人の巫人からなっているとのことで、それぞれ、壱の座から㭭の座まで決められているとのことである。
最初、使徒を束ねているのは私を探しに来たブレイヴであると思っていたが、どうやら違うようである。個性溢れる巫人達をまとめているのは、ヤクザのような見た目をした厳ついおっさん、ミドウであるそうだ。
ミドウは見た目こそ厳ついが、話してみるとやはり面倒見の良いおじさんという印象だった。使徒の中でも最も高い位である壱の座に位置するミドウ。古くから王のよき理解者であるらしく、最も古株である人物である。死を司ると言われる『夜叉』と呼ばれる鬼の王。それがミドウの持つ力の根源であるとのことだ。
ミドウと同じく結成当時から王を支えていたメンバー達。それがロード、アレクサンドラ、ブレイヴの3人である。現在のシャウン王国の発展は彼らの力なくしてこそ実現できなかったとさえ、王に言わせるような人物。それが彼らである。
私に力を見せろと提案してきたローブに身を包んだ男。弐の座『ロード』は見た目こそ若かったが、幼き頃より魔法の才覚を現し『天才』とまで称された人物であったそうだ。ロードについては、仲間達でさえもよくわからないことが多いとのことで、ミドウも未だロードの巫人の力自体を見たことはないという。まあ、本人もあまり詮索されることを好まないらしいが、王からは絶大の信頼をもたれているとのことであり、あまりミドウも気にしたことはないらしい。
そして、ロードと同様に魔法の天才と称された老婆、参の座『アレクサンドラ』。他のメンバーに比べると、幾分年を取ってこそいるものの、その魔力は全く衰えておらず、ロードと2人『王の双賢』と呼ばれた偉大な人物だ。その身に宿しているのは老猿『猩々』。生命を司ると言われる猩々の力を使いこなすアレクサンドラ。聞いただけでもすごそうと言うことだけはよくわかる。
私達をここまで案内してくれた兵士である、肆の座『ブレイヴ』。雷を操る『麒麟』の巫人であり、シャウン正規軍の中から『使徒』に選ばれた唯一の人物である。
伍の座『ミズチ』。普段から口数も少なく不器用で、目つきもよくないため、誤解されやすいが、決して悪い人物ではないらしい。ミドウが直接スカウトしてきた男、それがミズチである。2人の関係については詳しく聞いていないから、どうして知り合ったのか、どのように関係を気付いていったのか、それはよくわからないが、ミドウがそう言うのならば、案外信用できる男なのかも知れない。水を操る『大蛇』と呼ばれる一族の力と、そのたぐいまれなる剣の才能で、近接戦闘においては使徒最強とも呼ばれる男であるそうだ。
その後は2人の女性陣が続く。ちょっと化粧の濃い、そして服のセンスが奇抜な陸の座『ノエル』。ロードがスカウトしてきたノエルの力は『八束』と呼ばれる毒蜘蛛の力である。何となく見た目からも納得できる、なんて口が裂けても言えない。だってなんかこの人怖いんだもん。もうちょっと化粧を抑えめにすれば、結構美人なのに……
漆の座『ヨツハ』はどこか天然そうな、私と同じくらいの歳の少女である。先ほど彼女が言っていた『トトリちゃん』というのは、彼女の相棒『白兎』と呼ばれるモンスターだそうだ。氷の力を使いこなす彼女も、普段はおっとりとしているが、怒ると相当に怖いらしい。
そして……
王宮の庭にある零番隊の訓練場。私との戦いを今か今かと心待ちにしている目の前にいる少年。㭭の座『アイル』。ミドウも認めるほどに、生意気な少年である。だが、見た目は少年とは言えど、その秘めたる才能はロードやミズチと比べても引けをとらないらしい。何故かやけにロードに懐いており、ロードにだけは反抗しないようだ。
ずっとニコニコと無邪気な笑みを浮かべていたアイル。それがまたどこか不気味である。皆が注目する中、アイルが待つ訓練場の中央へと向かった私。これから始まる試合を今か今かと待ちわびるような、そんな笑顔を浮かべながらアイルは私に声をかけてきた。
「さあ、イーナ。準備が出来たらいつでもおいでよ! 君の中に秘められた九尾の力、思う存分僕に見せてよ!」




