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62話 自由すぎる者達


 王の間に入ってきたのは、8人の人間達。ブレイヴ、それに厳ついおっさん…… ローブに身を包んだ若々しい男。やたらと目つきの悪い男。まあ見た目からしても、おそらく相当な強者なんだろう。オーラが普通の者とは全く異なる。問題はそれ以外の連中だ。まだまだ幼い大人しそうな少女…… それにやたらと化粧の濃いセンスの悪そうな女、少し生意気そうな男の子と、おばあさんまでいる。


 なんなんだ? この個性的な集団は…… それに、私の聞き間違えでなければ、今、王は確かに彼らのことを『使徒』と言ったのだ。


「ねえ、君でしょ! 新しい使徒に選ばれたっていうのは!」


 王の間へと入ってくるなり、ルートのそばへと近寄っていく男の子。無邪気そうな笑顔を浮かべたまま、男の子はルートへと話しかけていた。


 使徒に選ばれた? ルートが? 


 すっかり話について行けずに困惑するルート。いや、ルートだけではない。そばにいたナーシェも、ルカやテオですらも、その少年の勢いにすっかり気圧されてしまったいるようだった。


「アイル、あんたちゃんと話を聞いてないようだね! 新しい使徒の候補は炎を操る女って言っていたじゃないか!」


「あれ? そうだっけ? ごめんごめん、アレクサンドラ!」


「全く…… あんたはもう少し協調ってもんを覚えるんだね」


「アイル。ここは王の間だ。場を弁えろ」


 ブレイヴと、老婆に窘められた少年は笑顔を浮かべたままルートの元を離れ、跳ねるようなステップをしながら、王へと近づいていった。あまりに突然の出来事について行けなかった私達はただただ呆然と、王の下へと近づいていく彼らを見ていることしか出来なかった。


「おほん…… 改めて…… 8人の使徒達よ。久しぶりに集まってもらい感謝する」


 咳払いをした王は、再び彼らに向けて言葉を発した。それにしても、王の前でも特段畏まったりする様子もなく、自然体のまま過ごす使徒と呼ばれる者達を見ていると、一体どちらが王なのか、全くわからなくなってしまいそうである。


「王よ、話はすでに聞いております。新たな使徒の候補が見つかったと……」


「ああ、そうじゃ」


 王に向かって語りかけたのは、厳つい見た目の男。見た目から判断するに、年にして、50歳くらいだろうか? それにしてもずいぶんと鍛えられているようで、一目で強者だとわかる。そんな男に一言、言葉を返した王は、私の方へと視線をずらしてきた。


「イーナよ、こちらへと来て貰えんだろうか?」


 王がそう口にした途端、8人の使徒達の視線が一気に私へと向けられる。いきなりの事に少し驚いてしまったが、王の頼みを断るというわけにもいかないだろう。心配するように私を見つめる仲間達を背に、私はゆっくりと足を踏み出した。


「イーナよ、驚かせてしまって申し訳ない。この者達は、使徒と呼ばれる者達……。おぬしと同じ…… 巫人と呼ばれる者達だ」


「巫人!? じゃあ皆……」


 思わず、驚いて丁寧に話すことを忘れてしまった私。王の前で失礼だったかなと思い、口を紡ぐ。だが、王は一切気にする素振りも見せず、そのまま話を続けた。


「そうじゃ。そして、彼らがわしと共に歩んでくれている理由。それは、白の十字架という組織の脅威から、国を、そして民を守る為なのだ」


「白の十字架という名前は、私も聞いたことがあります。ギルドの任務で、野犬退治に言ったときに出会った女が、その組織の名を口にしていました。世界を手に入れると……」


 大神の一件で刃を交えることとなったカーマという女。彼女の口から出た、その組織の名はよく覚えている。私がすでに白の十字架のメンバーと接触していたと言うことは、流石に巫人達にとっても想定外だったようで、先ほどまで全く動じる様子のなかった彼らの間にもざわつきが生じる。


 その中でも比較的冷静を保っていた、目つきの悪い男。男が私へと冷たい声で話しかけてきた。


「おい、女。お前奴らと出会って生きていると言うことは…… 奴らを倒したと言う事か?」


 何とも威圧感のある男である。落ち着いた声と、こちらを伺うような冷淡な目つきについ言葉を飲み込んでしまいそうにこそなったが、何とか平静を装いながら私は話を続けた。


「はい。私が交戦したのはカーマという女でした。カーマは大神の一族と呼ばれる者の力を使役し、凄まじい力を持っていました。今思えば、こうして生きていたのが奇跡と思えるほどです」


「大神の一族…… お前達、大神の一族にもすでに会っていると言うのか!?」


 驚きを見せたのはブレイヴ。他の巫人達のざわつきも先ほどに増してより大きなものとなる。騒然とした空気をかき消すように、厳つい男の大きな声が王の間へと響き渡る。


「なるほど! どうやら話は早そうだ! おい、お前…… いや、イーナという名前だったな…… イーナよ! わしらと共に戦ってくれる気はないか! お前の力、ぜひ貸してもらいたい!」


 第一印象こそ、怖い人という印象であったが、どうやらこの厳つい男、王と同様に意外と話しやすそうな感じである。豪快な笑い声や立ち振る舞いはど、ハインを思い出させるようで、どこか懐かしいような…… そんな雰囲気を出していたのだ。


「待ちなミドウ。その話を真実とする根拠がどこにある? 懐が深いのは良いが…… 少し短絡的なのはあんたの悪い癖じゃないかい?」


 良い雰囲気だったところに、言葉を挟んできたのは先ほど少年を窘めていた老婆。おばあさんに続き、目つきの悪い男も言葉を続ける。


「そうだ、その女が『白の十字架』のメンバーだと言うことだって十分に考えられる」


 まあ、確かにお互いのことを全く知らないのだから、そう言われたとしたって無理はない。なんだか取り調べを受けているようで、決して良い気分というわけはないが、彼らの気持ちも十分に理解できる。かといって、私が『白の十字架』のメンバーでないことを示す証拠なんて出せるはずもない。


 どうしたものか……? そう考えていた私はあることを思いだした。


「確かに、私が『白の十字架』のメンバーではないという証拠はありません。ですが、先ほど話した内容は事実です。その証拠が私の仲間である彼…… ルートです」


 突如として話を振られたルートは、驚いたようで私に向かって困惑の表情を向けていた。そんな彼の様子を見た老婆が再び私に言葉をぶつけてくる。


「あの坊やが? 一体何の証拠だというのだい?」


「彼も巫人です。それも大神の一族の」


 私の言いたいことを早くも理解してくれたルートは、早速シナツの名を呼んだ。ルートの声に呼応し姿を現したシナツ。


 そして、シナツの姿を見た老婆は何かを納得したような様子で、深く頷き言葉を漏らす。


「ふん、まさか大神の一族の巫人まで見つかるとは……」


「おお、まさか! 仲間にもう1人『巫人』がいるとは……! これもきっと神の思し召しに違いない!」


 興奮した様子の王様。先ほど私に声をかけてくれたミドウも、笑顔を浮かべ、私の方を見つめてくれていた。まあ何にせよ、これでどうにか信じてもらえたかなと安堵した私。

 

 だが、円満にまとまりかけた空気を壊す発言をしたのは、先ほど無邪気な振る舞いを見せていた少年であった。


「でもさ、僕はまだ認めてないよ! どう見ても強くみえないしさ! 女が入ったって、そんな戦力になるのかな?」


 まだ、協力するとは一言も言っていないのに、何故か少年に煽られているようだ。なんだか少し不快である。だが、その少年の言葉を不快に思ったのはどうやら私だけではなかったようだ。先ほどまで、無言のまま自分の世界に浸っていたような少女。ふわふわとしていたその少女の、少年を見る目つきが一気に険しくなる。そして、もう1人、やたらと化粧の濃かった女がアイルを窘めるように言葉をかける。女の表情こそ変わってはいなかったが、言葉の端々から棘が感じられた。


「アイル、あんた…… 女の子には優しくしなさいって習わなかった?」


「もう~~ 怖いよノエル!」


 だんだんと横道にそれていく話。だがそんな中、今まで何も発言をせず、優しい笑みを浮かべ続けていたローブの男の声が静かに響き渡ったのだ。


「イーナさん。それにルートさん。私はあなたがたを歓迎します。それに、幾分失礼な発言があったようで…… あなた方を不快にさせてしまったでしょう。私が代わりに謝らせて頂きたい。ですが、アイルの言うことも事実と言えば事実。どうでしょう? 是非ともあなた方の力を見せて頂くというのは?」


「いや…… ちょ……」


 まだ協力するとは言ってない…… そう言おうとした矢先に、アイルという少年の声が私の発言を遮る。


「いいね! ロードさん! 是非とも僕が相手するよ! さあ、おいでよイーナ! 君の力、是非とも僕に見せてよ!」


……だから!


 そして、私に近づいてくる女3人衆。少女が私の耳元で囁く。


「イーナちゃん。頑張ってね。トトリちゃんも応援しているらしいから」


 トトリちゃん? この子の名前なのかな? 


 応援してくれるのは良いが、なかなか独特な雰囲気を放つ少女であるようだ。


 そして、


「あんた、アイルの馬鹿に女の意地を見せてやりなよ」


 老婆までもが私を応援するかのように語りかけてくる。


 極め付けは……


――さっきから黙って聞いたが…… イーナよ、九尾の力、奴らにとくと見せつけてやれ。舐められたままと言うのではわらわの腹の虫が治まらん! わかっておるな?


……


 ああ! もう! やればいいんでしょ! やれば!


 こうして何故か、私はアイルという少年と一戦交えることとなったのだ。なんで?


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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