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60話 王様にお呼ばれされました


 突然の武装した男達の来訪にギルドがざわついていた。


「おい…… あれ王国の兵士達じゃないか…… それも王直属の……」


「王直属……!? でもどうして……」


 もちろん、王国の兵士達が、ギルド本部を訪れると言うことは決して珍しい事ではない。組織こそ違えど、平和に暮らす一般市民を守るという意味では、ギルドも兵士達も目的は同じである。強大なモンスターによる被害から、国民を守る為にギルドと王国の兵士達が協力すると言ったこともよくある話だ。


 それにも関わらず、ギルドに所属するハンター達が驚いた理由。それは、訪れた兵士達が王直属の兵士であったからに他ならない。


「イーナという者はいないのか!?」


 兵士達が訪れた事によってざわついたギルド内。その喧噪をかき消すように、立派な鎧を纏った男が声を上げる。


「おい…… イーナ……  お前何をした?」


 何をしたと言われても…… 特に何か犯罪を犯した覚えもないし…… 


 名乗り出ようにも、なんだか物々しい雰囲気の兵士達の様子を見ていると、声を上げにくい。ただ、王直属の兵士ともなれば、このまま黙って居るというわけにもいかなさそうだし…… 


「イーナは私だけど……」


 おそるおそる立ち上がり、兵士達に言葉を返す。


「む…… 本当にお前がイーナなのか? 聞いていた話とは少し異なるようだが……」


 怪訝な目つきで私を見つめる兵士。


「聞いていたって? 一体何を?」


「火焔をその身に宿し、一太刀で巨体のモンスターをも葬り去った、大層美しい女だと…… まあ女である事は間違いなさそうだが……」


 その話を聞いた瞬間に、兵士達がその情報をどこから仕入れたのか、私はすぐに理解した。噂の出所は間違いなくアルトであろう。そして、同時に、兵士達が少しがっかりした表情を浮かべたことも、私にはわかった。一瞬のことだったから、本人達はばれていないと思っているのかも知れないが、私にはこの目がある。大神との戦いを通して目の使い方がわかってきた私には、その程度のこと朝飯前なのだ。


「……それで、兵士さん達が私に一体何の用事なんですか? ご想像と違って、がっかりさせてしまったみたいですけど」


 自分でもとげとげしい言い方だなとは思う。言葉を返した後で、ちょっと不機嫌だったのも相まって、そう言う態度をとってしまった事に、私は少し反省をしていた。兵士達の先頭に立っていた男、先ほど私の名前を呼んだ男が、ばつの悪そうな様子で私に言葉を返す。


「いや、申し訳ない…… 俺はブレイヴという。実は、お前の噂を聞いた王が、是非お前に会いたいとのことでな」


「王様が!?」


 驚きを隠しきれず立ち上がるナーシェ。いや、ナーシェだけではない。同じくテーブルを囲っていたヴェネーフィクスのメンバー、ルートもルカも、テオも…… ギルドにいた人々皆が驚きの表情を浮かべる。もちろん私だって、それは例外ではなかった。


 本当に王に招待を受けたとなれば、それを無下にするというわけにもいくまい。むしろ、理由もなく断ったとしたらそれこそ牢獄にでもぶち込まれかねない。やむなくではあったが、王の誘いを受けることにした私は、ブレイヴに言葉を返した。


「……わかりました。それで、いつ伺えばよろしいのでしょうか?」


「このまま一緒に来てほしい。王もなかなかに多忙でな…… 無理を承知でお願いしたい」


「わかりました。すぐに準備します」


 急な話ではあるが、まあそれも仕方無いだろう。王ともなれば、私達には想像できないような苦労もあるだろうし、多忙というのも十分に納得できる。早速王の下へと向かうために準備を始めた私達。ブレイヴによれば、ヴェネーフィクスのメンバーが同席することもかまわないらしく、結局、ルートやナーシェ達も一緒に向かうことになった。


「それではこちらの馬車へどうぞ。お連れの皆様もぜひ 」


 流石に王からの招待ともなれば扱いも丁重であった。馬車の前に立っていた若い兵士が丁寧な言葉で私達に声をかけてくれた。馬車になんて乗るのは初めてだったし、それだけでもつい胸が躍りそうになる。馬車の内部もしっかりとした作りになっており、思っていたよりはずいぶんと快適に過ごせそうだ。私に次いで、ルート、ナーシェ、それにルカとテオと仲間達も乗り込んできた。そして、ヴェネーフィクスの仲間達全員を乗せた馬車はゆっくりと動き出したのだ。


 最初こそ、初めて馬車に乗るという経験に少し興奮していたが、王宮が近づいてくるにつれてだんだんと緊張が高まっていく。もちろん緊張に包まれていたのは私だけではない。ルートやナーシェも、王の姿を見ること自体は初めてではないが、もちろん直接話すことなど初めての事であり、緊張を隠しきれないような様子であった。そんな中でも無邪気に喜んでいたのはルカとテオ。王様と会えると言うことがよほど楽しみらしく、道中もずっと興奮を隠しきれないような様子だった。


「ねえねえ! 王様ってどんなお方なんだろうね!」


「ニャー…… こんな大国の王ともなれば…… きっと立派な方に違いないのニャ-!」


「ルカちゃん、テオくん、これから王様に会うんですからね! 失礼の無いようにしないと駄目ですよ!」


 2人を諭すように言葉をかけるナーシェ。だが、ナーシェの言葉の端々は緊張で震えていた。そんな仲間達のやりとりを聞いているとなんだか少しだけリラックスできる。もし、1人で向かっていたとしたら、今頃は緊張で押しつぶされてしまいそうになっていただろう。なんと言ってもこれから王と面会するのだから。 

 

 そして、私達を乗せた馬車は遂にフリスディカにある王宮へと到着した。先ほど私に声をかけてきた若い兵士が静かに扉を開く。案内に従って馬車を降りた私達を待っていたのは、ブレイヴであった。


 それにしても流石は大国、シャウン王国の王宮と言うだけあり、王宮の内部は豪華絢爛といった様子だ。煌びやかな装飾や、立派な絨毯。まさに私が想像していたような、ファンタジーの世界の王宮と言ったようなそんな様相である。


 思わず、言葉を失う私達。目の前に広がる圧倒的な光景に目を奪われてしまった私達に、ブレイヴが声をかけてきた。


「すごいだろ? なかなか一般の者が王宮に入るという事も無いだろうしな。驚くのも無理はない」


「本当にすごいね! ブレイヴは王の直属の兵士なんでしょ? ここで働いているって事だよね?」


「任務については、あまり詳しくは言えないが…… そういうことになるな」


「王直属の兵士…… 零番隊か。俺も初めて見るな 」


 表情を一切変えること無く、冷静にそう呟いたルート。そして、ルートが口にした零番隊という言葉に反応した私は思わずその言葉の意味を問いかけるようにその名を口にしていた。


「零番隊…… って?」


「シャウン王国の軍隊はいくつかの部隊に分かれている。このフリスディカ周辺を担当する壱番隊、シャウン王国南部を担当する弐番隊と言ったようにな。だが、どこにも属さない、王の密命を受ける部隊。それが零番隊だ」


「ふーん…… でもさ、王国には軍隊がいるのに、モンスターと戦うのはギルドがメインなんだよね……?」


「もちろんモンスターと戦っているのは俺達ギルドだけではない。この国の兵士達だって同じだ。だが…… このきな臭い世の中だ。兵士達もモンスター達とだけ戦っているというわけにも行かないんだ」


「きな臭いって?」


「国民の敵はモンスターだけではないという事だ」


 私達の会話に入ってきたブレイヴは難しそうな表情を浮かべていた。ずっと私の横で一緒に話を聞いていたルカは、彼らが話していた内容をあまり理解できていないようだったが、私にはその言葉だけで十分だった。


 まあ、ファンタジーのような世界とは言えど、人間の考えることは、私のもといた世界とあまり変わらないのだろう。人が集まり国が出来れば、国同士の戦いへと発展する。それは長い歴史の中で人間が繰り返してきた、いわば自然の摂理でもあるのかも知れない。


「そんな顔をするな。国民が笑顔で暮らせるように俺達がいるんだ。それにお前達だって同じだろう? ほらついたぞ。ここが王の間だ。失礼の無いようにな」


 話に夢中になっていた私達は、気が付けば王の間の目前へとたどり着いていた。この扉の向こうには、この国の王がいる。そう思うと、再び私の身体を緊張が包み込んでいった。ゆっくりと扉に手をかけるブレイヴ。そして扉が静かに開いていく。


 扉の隙間から奥の様子が見える。今までにも増して、豪華絢爛な装飾。直線に伸びる赤いカーペットの左右に並んでいる数人の兵士。そしてそのカーペットのたどり着いた先、真っ赤な玉座に座る1人の人物。間違いなくあの人が、この国の王様なのであろう。そして、私達の姿をみた王が静かに口を開く。


「ブレイヴよ、ご苦労だった。おぬしがイーナか?」


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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