59話 いつの間にか有名人になっていたようです!?
大神達との激闘から数日が過ぎ、私達はシャウン王国の王都であるフリスディカへと帰還していた。ナリスの街近くでの野犬、もとい大神による作物の被害が無くなったこと、それに、人里近くに大神達が姿を現さなくなったことで、無事に任務も完了した体となった。ひとまずは一件落着である。
今回の任務で、私達はシナツという強力な仲間を得られた。シナツは思いの外ルートのことを気に入ったようで、結局ルートに憑依したまま、私達と行動を共にする事になったのだ。まあルートもシナツもお互いに良好な関係を築けているような様子だし全く問題はなさそうだ。
そして、どういうわけかサンダーウィングのメンバーにずいぶんと懐かれてしまった。ナーシェの治療のお陰で、後遺症も残ることなく、完全に回復したアルト、ここまでは大変喜ばしいことだったが、ギルド本部に帰還するやいなや、私達の話を、ものすごい勢いで他のギルドメンバー達へと広めていったのだ。それもずいぶんと誇張も入っているようである。
元々、ギルドの中でも実力に定評のあったルートや、医療魔法に優れていたナーシェについてはそこまでの影響はなかっただろう。問題は私である。
私の話になると、特にアルトはずいぶんと調子に乗ったようで、気が付けば私はいつの間にかギルドのほとんど全員に顔を覚えられていたようだった。それも一日や二日という短い時間での話である。
ただでさえ、私やルカはこんななりのせいで目立っていた。なにせモンスターと戦うのがメインのギルドという組織では、前線に出て戦う戦士はアルト達サンダーウィングのメンバーのように屈強な男達が多く、私やルカのような、女の子はそう多くなかったのだ。
「まったく…… アルト達のせいでやりづらい……」
「イーナちゃん駄目ですよ、そんな頬杖をつくなんて! 皆見てるんですから!」
ギルド本部にある酒場で休憩をとっていた私達。ここまで来るのにもずいぶんを声をかけられたし、ヴェネーフィクスのメンバーでテーブルを囲っている今だって、周りからの視線をずいぶんと感じる。
「ああ、もう!」
一気に目の前にあった水をお腹の中へと流し込む。本当はビールの一杯でも行きたいところではあったが、そういうときだけ私を子供扱いしてくるのだ。
嬢ちゃんにはビールはまだ早いだの、何だのと、全く、本当にやりづらいことこの上ない。
「良いじゃないかイーナ。前みたいに、いちゃもんつけられるよりはずいぶんマシだろう?」
「そうだけどさ…… これはこれで、落ち着かないというか……」
「だろうな、まあすぐに落ち着くさ。ギルドは情報が命だからな。誰がどんなモンスターを倒しただの、そう言う話はすぐ回るんだ。特にイーナ達は目立つし無理はない」
「……そういえば、イーナちゃん! 剣の方はどうなったんですか?」
少し不機嫌な私の様子に、話題を変えようとしたのかナーシェが問いかけてきた。先のカーマとの戦いで、負担がかかりすぎてしまったせいか一部欠けてしまった私の剣。フリスディカに戻った翌日、私は、ルートがいつもお世話になっているという武器屋へと早速向かったのだった。かつてはハインも利用していた武器屋であり、この剣を作り出してくれた武器屋である。
「ちょっと、様子を見たいから預けてくれって。何でも特別な素材から出来ているらしくて…… そこらへんも含めてまた後日来てくれってさ」
「ハインさんも大事にしてましたからね…… 無事に直れば良いですけど……」
「約束の日は明日だから…… また明日行ってみて、それからどうなるかって感じかな……」
剣がどうなるか、心配と言えば心配だが、幸運だったのはハインの剣が双剣であったと言う事だ。1本は傷ついてしまったが、もう1本の剣は今のところ問題は無い。まあ修理に時間がかかってしまったとしてもしばらくはこの1本でどうにかなるだろう。
どのみち、しばらくは任務を受けるような予定もない。ルートも新たに仲間にしたシナツとの連携を深めるために、しばらくフリスディカの街で修行をするとのことだし、しばらくは私も予定は空いている。
せっかくだから、この街を拠点にしている間に、本格的に医療について調べてみたい。そうナーシェに提案しようとした矢先、突如、ギルドの本部に武装した男達が乗り込んできたのであった。
賑やかだったギルド本部内が一気に静寂に包まれる。武装した男達は大きな声で私の名を呼んだのだ。
「ここに、イーナと言う女はいるか!?」




