58話 Departure of Young Warrior
「イーナ!」
「イーナ様!」
ルート、そしてルカの元へと戻っていった私。ルートもルカも戦いが終わったと言う事に対する安堵の笑みに包まれていた。温かく私を迎えてくれた2人に私も笑顔で応える。
「やっと…… やっと、終わったね!」
「ああ……」
「イーナ! ルート! お前達よくやったな!」
舌を出しながら寄ってきたのはヤキネである。本人は冷静を装っているつもりであるようだが、その喜びまでは隠しきれないようだ。そして、私はもう1人四傑と呼ばれた存在のことを思い出した。カーマとマガヒを打ち破ったことですっかり戦いも終わったと思っていたが、まだニニギが残っているのだ。
「ヤキネ! ニニギは……?」
「あいつは……」
複雑な表情を浮かべたルートとヤキネ。奥に視線を送ると、地面に転がったまま動く様子のないニニギの姿があった。その姿、そしてルート達の様子で私はニニギの身に何が起こったのか、すぐに理解した。
「そう……」
「お前がカーマを打ち破ったのを見届けたニニギは、自ら死を選んだ。誰も悪くないさ。あいつが選んだ道だ」
私を励ますように声をかけてきたヤキネ。どうにもスッキリしない幕切れではあるが、これもまた仕方の無いこと。今はひとまず仲間達が全員無事でこの戦いを乗り切れたと言う事を喜ぶべきであろう。
「おい、イーナ…… 剣が……」
私の方を見ながら声をかけてきたルート。すっかり戦いに夢中になっていた私はルートから声をかけられるまで全く気付かなかった。カーマとの激闘は、剣にとっても負担が大きかったようで、ハインから受けついた双剣の1本、刃の一部が欠けてしまっていたのだ。
「剣が…… 欠けちゃってる……?」
「そんな顔をするな。フリスディカに戻ったら、俺達が世話になっている武器屋に行こう。きっと直してくれるさ!」
「直る? 本当に?」
この剣は私にとっては宝物に等しい。ハインからこの剣を託されたときから、この剣を手放したことは一度も無かったし、何なら寝るときだって手元に置いたままだった。そんな大切な剣が壊れてしまったと言うことにショックを受けていた私だったが、ルートの言葉で少し、私も落ち着きを取り戻せたのだ。
まあ何にしてもこの場でどうこうという話ではなさそうだ。目下やらなければならない事は沢山ある。この戦いの後始末。そして、大神達の今後をどうするか。課題は山積みだ。
「イーナ…… ありがとう。本当に感謝する」
そして、私達の前に現れたもう一匹の大神。いつの間にか、ルートへの憑依を解いていたシナツが、私のそばへと近づきながら、頭を下げる。
「イーナ、ルート、それに人間の皆の助けがなかったらカーマを打ち破ることは出来なかった。そして…… ここでお前達とはお別れだ。お前達には感謝しても感謝しきれない。だが……」
そう、シナツにはやるべき事がある。混乱が犇めく大神達を、今後リーダーとして引っ張って行かなければならないのだ。私もルートもそのことは十分に理解していた。本当はもっとシナツとも一緒に過ごしたい気持ちはあったが、私達もいつまでもここにいるというわけにも行かないし、シナツだってそうだ。
「……シナツ、お前本当は人間達と一緒に行きたいのではないか?」
「……」
シナツに問いかけたヤキネ。ヤキネの言葉を聞いたシナツは何も言わずに、沈黙を守っていた。そんなシナツの様子を見てヤキネが笑う。
「……シナツお前、以前俺のところで言った言葉を覚えているか?」
「何のことだ?」
「俺こそが大神の長、真神にふさわしい。確かにお前はそう言っていたと思ったがな」
さらにヤキネは間髪入れずに言葉を続ける。
「大体、今回の件だってイーナやルートがいなければお前はマガヒには決して勝てなかっただろう? そんな中途半端なお前を誰が長と認め着いていくと言うんだ? お前はまだ真神の器にはない」
「ちょっと、そんな言い方は……」
ヤキネの突き放すような言い方に、こらえきれず言葉を挟むルカ。だけど、ヤキネの真意をすぐに理解した私は何も言わずにシナツを見つめていた。きっとルートもヤキネが言いたいことはすでに理解しているのだろう。ルートは笑みを浮かべながらシナツに言葉をかけた。
「シナツ。どうやらお前は、まだまだ族長としては認められていないみたいだな」
シナツは少し戸惑った様子を浮かべながら、ヤキネに対して言葉を返す。
「……だが、良いのか? ヤキネ…… 本当に」
「良いも何も、お前は真神にはふさわしくないと言っているんだ。お前が大神の長にふさわしくなる時まで、俺がこの里の事を守る。今の未熟なお前に任せて貴重な次世代の芽を摘ませる訳にはいかないだろう?」
「……ヤキネ、感謝する」
ヤキネに背を向けたシナツは、そのまま振り返ることなく私達の方へと歩み寄ってきた。
「ルート、それにイーナ。もしお前達さえ…… 迷惑ではなければ、俺も一緒に連れて行ってもらえないだろうか? 大神のためにも、それに俺自身の為にも…… もっと世界を知らないといけない。そのためには……」
答えなんて言うまでもない。私は大歓迎だ。まあ、後はシナツの巫人となるであろうルートの判断次第にはなるが……
「……まあ、ルートが良いって言うなら良いんじゃない? うちのリーダーだし…… それに、シナツの担当だし!」
ちらっとルートの表情を見る。どうやら全く心配はいらなそうだ。私達のパーティ、「ヴェネーフィクス」に新たな仲間が加わった瞬間である。
「シナツ、俺からもお願いしたい。これからもお前の力貸してもらえるか?」




