53話 攻略! 白幻虫
「炎の術式:紅炎!」
今の私のありったけの力を込めて発動した魔法。一直線にカーマめがけて飛んでいった魔法はカーマへと到達することはなく、カーマの操る白幻虫によって防がれた。未だにカーマには傷一つついていない。何せ魔法がカーマまで届かないのだ。
厄介なのはそれだけではない。隙を見せようものなら、すぐさまカーマのカウンターが飛んでくるのだ。白幻虫だけでなく大神の力をも使いこなすカーマは、相当に風魔法に長けているようで、ハインから受け継いだ剣で何とか身を守ろうとしても、剣の隙間から私を襲う鋭い風がじわじわと私の体力を削っていくのだ。カーマの風魔法によって、私は腕も服も細かな傷だらけだった。
「お前の力はそんなものか?」
まだまだ余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》と言った様子で、笑みを浮かべるカーマ。先ほどから何度も炎の魔法の攻撃を繰り出してはいるが、あの大量の白幻虫の前ではほとんど意味をなさなかった。カーマは大量の白幻虫たちを自分の意のままに操れるようで、私の発動した魔法を次から次へと的確に防いでいくのだ。
それにしてもあの虫は本当に厄介である。どういう原理なのかはわからないが、倒しても倒してもどんどんと湧き出てくる。対処しようにもキリがない。
こちらの攻撃は白幻虫によって防御されカーマには届かず、一方で私はじわじわとカーマの風魔法で削られていくと言うわけだ。なかなかに絶望的な状況である事は間違いない。
ただ、私だって黙って劣勢を堪え忍んでいたと言うわけではない。ここまで魔法を使って戦いながら、カーマの様子をずっと観察してきた。今の私には、サクヤから教えてもらった九尾の『目』の力がある。まだまだ不慣れである事は確かだが、前よりも幾分と視界は広がっていたし、相手の動きというのもよく見えるようにはなった。
カーマを観察していてわかったことがある。カーマが強力な風魔法を使ってくるときに、周囲の白幻虫がカーマに取り込まれるように消えていくのだ。おそらくは、あの白幻虫を魔法のエネルギーとして用いていることは間違いないはずだ。
魔法というものはマナを利用して発動するものである。初めてロッドに魔法を教えてもらったとき、彼は確かにそう言っていた。ロッドは、魔法に関してはヴェネーフィクスのメンバー達の中でも最も長けていたし、その認識に間違いはないだろう。そうなると、つまるところは、あの白幻虫というモノはマナと同じというわけだ。
これまでのことから考察すると、おそらくあの白幻虫さえなんとかすれば、カーマの力は一気に弱まることになる。問題はその方法である。
ふと、私に向かって問いかけてくるカーマ。
「そこまで傷ついて、どうして戦おうとする? 私達と共に来るという決断をしていれば、ここまで苦しまずに済んだものを……」
どうして? そんな事わかりきっている。
「あんたらのやり方が気に食わない。それに……」
カーマはこの世界をぶっ壊すと言っていた。正直この世界に私が来てから、そんなに日も経ったわけでもない。それでも、ほんの少しではあるが、この世界に大切なものができはじめた。私と共にあるサクヤ、私を心から信用してくれているであろうヴェネーフィクスの仲間達、妖狐の里の人達、サンダーウィングのメンバー、シナツやヤキネ……
世界が気に食わないだの、そんなワケの分からない理由で、再び取り戻しつつあった私の大切なものを、奪われるわけにはもういかない。戦う理由なんてそれで十分だろう。
「あなたたちに手に入れたいものがあるように、私だって手に入れたいもの…… いや、手放したくないものがあるからね!」
マナを指先へと集中させる。もう少し、もう少しで私の仮説は確信へと変わるはずだ。力を込めて、私は術式を唱える。
「炎の術式……」
「何度やっても無駄だ。私の白幻虫の前では魔法など無意味」
吐き捨てるように、そう口にしたカーマ。だけど。
無意味? そんなのやってみなきゃわからない。
「紅炎!」
一気にカーマに向けて飛んでいく炎の玉。カーマは「ふっ」と言葉を漏らしながら、腕を小さく振った。カーマの腕の動きに合わせて動く白幻虫。カーマの盾となった白幻虫は、私の発動した魔法とぶつかり、そして、燃えながら消えていった。
直後、白幻虫が燃え尽きたと思われる場所から、新たに数匹の白幻虫が姿を現す。その瞬間、私の考えていた仮説が確信へと変わった。間違いない。アレは具現化されたマナの一種だと。
白幻虫が尽きることなく湧いてくるのは、おそらく私の魔法を吸収してるか、もしくはカーマの近くにあるマナが具現化されて言っているからである。魔法の原理については、私も未だによくわかっていないが、マナを利用して発動するのが魔法と言うことならば、炎の魔法自体がマナの塊と言っても過言ではないのかも知れない。
いずれにしても、カーマが私の魔法を利用して、自らの攻撃、そして防御を行っていることは間違いないだろう。
私が導き出したカーマを倒すための方法。それはマナを、魔法を使わないと言うことだった。
2020年も大変お世話になりました。
いつも、私の作品をお読み頂いている皆様には感謝の言葉でいっぱいです。本当にありがとうございます。
おそらくこの話が2020年最後の投稿になります。2021年も変わらずにまた執筆していきたいと考えておりますので、どうかこれからもお付き合い頂ければ、私も嬉しく思います。
また、本作について別サイト『カクヨム』にてカクヨムコン6に挑戦してみることに致しました!応援して頂ければ、嬉しいです!よろしくお願いいたします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054934611968




