50話 共同戦線
「きゃあああ!!」
「下がってろナーシェ! シナツ!」
ルートの呼びかけに応じて、姿を現したシナツ。シナツは、ナーシェに襲い掛かろうとしていた大神の喉元へと食らいつく。シナツの一撃を食らった大神は、血を吹き出しながら、崩れ落ちていった。シナツの協力を得たルートにとって、襲い掛かってくる大神たちを、一匹一匹ずつ対処してことは決して難しい事ではなかった。
だが、そうは言っても相手は大勢。召喚を使えるようになってまだ間もないルートは、まだマナの使い方に慣れていない。戦いが始まって間もなくではあるが、ルートはすでに額を大量の汗で濡らしており、疲れも見え始めていたのだ。
「ルート君! あんまり無理をしたら……!」
「俺は大丈夫だ! それよりも、来るぞ!」
ナーシェの心配もつかの間、また新たな大神が、一団に固まった仲間達をめがけ襲い掛かってくる。戦場は大神達で溢れており、彼らにとっても誰が敵で誰が味方なのか瞬時に見分けるというのはなかなか困難を極める話なのだ。そうなれば、一目で敵であると明らかであるルート達の方に攻撃が集中するというのも必然のことであった。
「ちっ…… キリがないな……」
襲い掛かってくる大神の攻撃を退けたルートは小さく呟く。先ほどから、サンダーウィングのメンバーやルカも、必死に大神を退けてくれてこそいるが、それでもじり貧である事には変わらない。
「おい、人間達! 大丈夫か!」
ちょうど襲い掛かろうとしていた大神を蹴散らしながら、ルート達の元へとヤキネが姿を現した。ほっと息をつくルートに、ヤキネは冷静に言葉をかけてきた。
「安心するのはまだ早いぞ……」
じわりじわりと、ルート達に近づいてくる大神。近づいてきたそいつは、今までの大神とは放っている雰囲気が全く異なっていた。一目見て、他の大神とは別格だと、誰もが理解できるような、そんなオーラを放ちながら、四傑の一角、ニニギが近づいてきたのだ。
「カーマの奴はあの女にすっかり夢中になっているようだ……」
ニニギが小さく言葉を漏らす。
「その間に、俺達をやろうってか?」
「その前に、一つ提案しようと思ってな」
「なにを提案しようっていうんだ?」
「なに、簡単なことだ。シナツの身柄をこちらへと引き渡せ。そうすれば、お前達人間には手を出すまい。皆が無事に帰れるのだ。悪い提案ではないだろう?」
「断ると言ったら……?」
「その時は、お前達も裏切り者のシナツ共々仕留めることになるな」
聞かれるまでもない。答えなど決まっている。もちろん、シナツの巫人になったルートだけではなく、ナーシェやルカ、テオも気持ちは同じだった。それに、奴らの提案なんて口先だけの出任せに過ぎないだろう。シナツを渡したところで、どうせ、約束なんて守られる事が無いのは目に見えている。
「残念だったな。俺達は、仲間を裏切るような真似はしない。お前達と違ってな」
ニニギの耳がぴくりと動く。ルートの皮肉とも言える返しが、ニニギにとってはさぞかし不快だったのだろう。
「……交渉は決裂のようだな。それに、あっちの方も決裂したようだ」
そう言いながら、ニニギはちらりとカーマ達の方向へと視線をずらす。少し遅れてルートも、カーマ達の方をちらりと見る。
炎と無数の光り輝く虫が舞い踊る中心で、イーナとカーマ、2人がすでに刃を交えていた。もちろんイーナの事も心配だったが、今そちらに気を取られているわけには行かない。なんといっても、目の前に立ちはだかっているのは、今までの大神達とは格が異なる、四傑の大神なのだ。
「仕方無い、さっさとお前を倒して、イーナと合流する。ヤキネ、一緒に戦ってくれるか?」
「ああ、そのつもりだ、それにこちらも2人でかかれば、ニニギの奴もそう簡単にはいくまい」
ヤキネの言葉通り、四傑がいるのは相手側だけと言うわけではない。ルート達には、ヤキネとシナツ、2人の四傑がついている。普通に考えれば、ヤキネと2人で協力すれば、ニニギが不利であることは言うまでもないはずだ。だが、先ほどから妙に余裕があるニニギの振る舞いが、ルートは気になって仕方が無かった。
きっとニニギにも何か奥の手がある事は目に見えている。出来ればニニギとの戦いに集中したい。そして、ルートは、味方に背を向けたまま声を上げた。ルートが言葉を向けたのは、サンダーウィングのメンバー。
ナーシェは回復魔法に特化しており、戦闘をこなすようなタイプではないし、ルカやテオも魔法こそ使えるが前線でバリバリと戦うようなタイプではない。そうなれば、今のこの状況で襲い掛かってくる大神達から仲間を守れるのは、彼らしかいない。そうルートは判断したのだ。
「アルト!」
「なんだ!? ルート!」
「後ろはお前達に任せる! みんなの事、頼む!」
「へっ……!」
まんざらでもなさそうな様子で声を上げるアルト。もうお互いが何を考えているのか、これ以上言葉を交えずとも彼らはすでにわかっていた。
「言われるまでもないぜ。勘違いするなよルート。お前のためじゃねえ。ヴェネーフィクスのメンバーに何かがあれば、姉御が悲しんじまうだろ?」
「ああ、頼りにしてる! アルト! いくぞ、ヤキネ!」




