46話 わたし、弟子が出来ました!?
「いやちょっと待って、協力してくれるのはありがたいけどさ! その姉御って…… それに土下座は……」
顔を上げ、こちらにキラキラした目線を送り続けているアルト。いや、アルトだけではない。サンダーウィングのメンバー達が皆、羨望に似た様な視線を私に向かって注ぎ続けていた。
最初は聞き間違えかとも思ったが、どう考えても、彼らが言っていた「姉御」とは、私のことであるに違いないようだ。彼らの真っ直ぐな視線が私に痛いほどに突き刺さる。
――よくわかってるじゃないか! 殊勝な心がけじゃ!
――ちょっと、サクヤまで……
サンダーウィングの皆が、私達と一緒に行ってくれるという提案はこれ以上無いほどにありがたい話だ。だけど、それは置いておいて、姉御という呼ばれ方はどうにも落ち着かない。見た目で言えば、どう考えてもサンダーウィングのメンバー達の方が強そうだし、年上だし…… 何より、こんな美少女なのに……
姉御って何だよ!
――イーナよ、おぬしもなかなか変わってきたようじゃな……
と、とにかく!
「姉御って呼び方は…… ちょっと落ち着かないかなー! なんて…… だって、私よりも、皆の方が戦い慣れてるだろうし……」
上手く伝わっただろうか。もっと上手く伝える言葉はあったかも知れないが、突然のことで、すっかり動揺してしまった私は、そんな取り繕うような言葉しか出てこなかった。
一方で、私の動揺など露知らず、アルトは真っ直ぐにこちらを見つめたまま、声を張り上げる。案の定、彼らに私の意図は上手く伝わってはいなかったようだ。
「そんな謙遜しないでくれ、姉御! さっきの戦い方でわかった。あんたはただ者じゃねえ! 間違いねえ! どうか俺達を弟子にしてくれ!」
「弟子!?」
突然に姉御呼ばわりされて、弟子にしてくれと頼んできたサンダーウィングのメンバー達。彼らの熱量はものすごく、つい私も気圧されてしまいそうになってしまった。
いや、だめだ。何とかして断る方法はないものか、だって私には、弟子を取れるような腕前もなければ、余裕もない。自分の事だけで手一杯なのに、人の事を面倒見ている余裕なんてない。
「弟子なんて、無理だよ……」
「なんでもいい! 俺達は姉御に何か恩返しがしたいんだ!」
ここまで熱烈に押されると、なんだか断っているこっちが悪いような、そんな気持ちになってくる。やっぱり女は押しに弱い…… のかも知れない…… いや、違うか……
「と、とりあえず、弟子の話はまた今度で! 今はそれよりも大神達を何とかしなきゃ! ね、ルート!」
反応に困った私は、ついルートの方に話を振ってしまった。突然の私の無茶ぶりにも、ルートは一切動じることはなかった。なんと頼りになる男なんだろうか。
「そうだな。おい、アルト。お前達も協力してくれるんだろ? 一緒に行くぞ!」
だが、私に向けて頭を下げていたサンダーウィングのリーダー、アルトはルートを前にした途端、態度がころっと変わった。ルートの言葉を聞くやいなや立ち上がり、あからさまにルートのことが気に食わないような様子でルートに対し、言葉を返した。
「おい、ルート! 俺達はお前を認めたわけじゃねえ。あくまで俺が認めたのは姉御だけだ。そこを勘違いするんじゃねえぞ!」
「ちょ…… ちょっと……!」
急に喧嘩をふっかけるようなアルトの様子に、私も心配になる。だが、ルートは流石に大人だったようで、アルトの言葉など全く気にしていないような様子で、なおも冷静に言葉を返した。
「勝手にしろ。足だけは引っ張るんじゃないぞ」
「……ふん! 姉御! あんな奴ほっといていきましょう! 姉御ほどじゃないけど、俺達も腕には自信があります! 必ず俺達も、姉御のお役に立って見せます!」
「う、うん! 頼りにしてるよ! 頑張ろう!」
なんだか先が心配と言えば心配だが、一先ずは何とか話もまとまったようだ。それに、サンダーウィングの皆が協力してくれるというのだから、こんなありがたい話はない。本当に協力と言えるのかどうかはわからないけど……
サンダーウィングの皆の腕前については、ルートが腕が確かだというのだから、そうなんだろう。そこはあまり心配してはいない。それよりもだ。
先ほどの「頼りにしてるよ」という私の台詞がよっぽど嬉しかったのか、一気にサンダーウィングのメンバーの士気が上がったようだ。
「おい、お前ら! 絶対活躍するぞ! サンダーウィングの名にかけて、ヴェネーフィクスの連中には負けられん! ……あ、姉御は別ですよ! と、とにかくだ! 一匹でも多くの犬っころを倒す! 良いか!」
やる気が溢れているのはいいことだが、どうにも空回りしそうで、ひやひやする。いや、すでに空回りしていると言うのが正しいかも知れない。現に周りの大神たちの空気はひえっひえなのだ。
「ちょ、ちょっと…… 倒したら駄目だって……! 出来るだけ被害は少なく……」
「そうなんですかい? おい、お前ら! 訂正だ! 犬っころを倒さないように…… 犬っころを倒すんだ! ……あれ? なんか良くわからんけど…… まあそういうことだ!」
張り切るアルトに、サンダーウィングのメンバー達も同調する。本当に大丈夫なんだろうか……? 不安になる私。そして、大神たちも、私達のやりとりをあきれたような様子で、眺めていた。小さな声を漏らすルート。
「前途多難だな……」
なにはともあれ、また私達に新たな仲間が加わった。これから大神の王、マガヒとの決戦を控えた私達にとって、心強い(?)仲間だ。大神たちの背にまたがったサンダーウィングの皆を加え、私達は再び大神の里、マガヒの元へと向かって進み始めた。




