43話 決戦前夜
「イーナちゃん! ルート君! さっきのは一体!?」
大神たちとの戦いを終え、離れたところで待機してもらっていたナーシェ達の元へと戻った私達。驚きの表情を浮かべながらナーシェが駆け寄ってくる。
「イーナ様! さっきのって九尾様だよね!? どうやったの!?」
そして、ナーシェと同じく、ルカも興奮を隠しきれない様子で私の元へと飛び込んでくる。
「ルートとシナツから教えてもらったんだ! 巫人になった人は、憑依しているモンスターを召喚することが出来るらしくて!」
「召喚!? そんな技まで使えるんですか!?」
驚きを隠せないナーシェ。ナーシェの反応も十分に理解できる。だって、私も召喚なんて魔法を初めて聞かされたときには大変驚いたのだから。でも実際にルートがシナツを召喚しているのを目の当たりにして、そして自分でもサクヤを召喚できたと言うことで、召喚魔法の存在を認めるしか出来なかった。
「ルカも召喚魔法? 使ってみたい!」
無邪気な様子でそう言葉にしたのはルカである。ルカの言葉に笑顔を浮かべるルートとナーシェ。大神たちとの戦いを終えて、団らんをしていた私達の元に、ヤキネがゆっくりと近づいてきた。
「お楽しみの所、水を差すようで申し訳ないが、スガネの奴を倒したとて、奴はマガヒの一介の手下に過ぎないことは事実だ。俺達の目標はマガヒだろう? 戦いはこれからだぞ」
ヤキネの言葉通り、私達の最終目標は大神の中でも頂点に君臨しているマガヒである。スガネはマガヒの部下の中で実力がトップクラスだとはいっても、巫人がいるわけではない。召喚魔法が非常に強力であることはスガネとの戦いを通じて十分に理解できたが、逆を言えば、マガヒとカーマ、2人も私達と同じような力を使いこなせると言うことに他ならない。
「とは言ってもだ、さっきも言ったがお前達の連携には本当に驚いた。まさかここまで力を使いこなすとは…… 今日はここで休んでいくといい。あれほどの力だ。マナの消費も激しいだろう?」
真剣な表情で近づいてきたヤキネではあったが、ヤキネの優しさは十分に伝わってきた。ヤキネは心から私達のことを心配してくれている、そう思えたのだ。だからこそ、私達も迷うことなくヤキネの提案に笑顔で頷いた。
「ありがとうヤキネ! そうさせてもらうよ!」
フッと笑いながら、私達に背を向け歩き出したヤキネ。ヤキネの小さな声が私達の耳へと届く。
「ついてこい、こっちだ」
………………………………………
「可愛い!」
ヤキネの家へとたどり着いた私達。そんな私達を出迎えてくれたのは、まだ幼い小さな2匹の大神であった。
「大神の子供ってこんなに可愛らしいんですか!?」
まだ動きもどことなくおぼつかない2匹の大神を、見つけて早々に抱きしめにいくナーシェ。ヤキネの子供達は初めて見るナーシェにも怯えることなく、舌をぺろりと出しながら嬉しそうな様子でナーシェに抱かれていた。
「俺の子供、ナミとナギだ」
どうやらヤキネの子供達はまだ話すこともままならないほどには幼いようだったが、人なつっこい子達であり、私達に興味津々なようだ。それにしても、大人の大神はなんというか神々しいと言えるほどに気高く優美であるが、子供達はわんちゃん達と何ら変わりない。ナーシェではないが、つい私も抱きしめたいという衝動に駆られてしまいそうになる。
「真面目な話になるが、マガヒとの決戦はどうするつもりだ? 何か考えがあるならば、聞かせてもらいたい」
子供達に夢中であったナーシェやルカを横目に、真面目な表情でヤキネが私とルートに語りかけてくる。ナーシェ達もヤキネの言葉が耳に入ったからだろうか、子供達と遊ぶのを中断して私達の会話へと加わってきた。
「ここからマガヒ達がいると言う大神の里まではどの位なの?」
「大神の脚力があれば一日もあれば着くだろう。あんまりここでもたもたしていると、話を聞きつけたマガヒ共が襲撃してくることも十分に考えられる。俺はそれは避けてもらいたい所だ」
「たしかに…… そうなれば出来るだけ早い方が良さそうですね…… イーナちゃんやルート君の状態はどうなんですか?」
「ん、別に私はいつでもいけるとは思うけど……」
大分マナの使い方というのも身体になじんできたからであろうか。ダイダラボッチと戦ったときよりはずいぶんと身体が軽い。この調子ならば、召喚魔法だって普通の魔法だって問題なく使える。
「俺も特に問題はない。それにシナツも早い方が良いと言っている。スガネの一件が奴らの耳に入れば、ヤキネの言うとおり襲撃されるか、もしくは待ち構えられるのが関の山だとな」
「なら出発は明朝。まだ布陣が整っていない間に大神の里を叩く。マガヒとカーマは大神の里の外れ…… 真神の御座にいるはずだ」
真神の御座…… また仰々しい名前である。それにしてもマガヒはまあ良いとして、気になるのはカーマという女である。大神の力を使えば世界を手中に収めることが出来ると言っていたらしいが、果たしてどんな奴なのか。正直、マガヒや大神の一族云々よりも私はそっちの方が気に掛かっていた。
「そうと決まったら、今日は早く休むとしよう」
ルートの提案に皆が頷く。今ここでカーマのことを考えたところで、答えは出来ないことなど明白だし、どちらにしても明日、カーマに直接会えば全てわかることである。
決着の時を前に、興奮と不安が渦巻くなか、私達はヤキネの家で一晩を過ごしたのだ。




