41話 サクヤとの共闘
ルートに向かって飛びかかってきた大神を、一撃で仕留めたシナツ。だが、気が付いた時にはもうすでに、シナツの姿は何処かへと消えていた。何が起きたのか理解が追いついていなかった大神たちに動揺が走る。
「なんだ!? 奴は一体どこから現れた!?」
こちらへと襲い掛かろうとしていた大神たちがじりっじりっと私達から距離をとるように下がっていく。大神たちが警戒しているというのも十分に理解できる。なぜなら私だって、彼らと同じくルートとシナツが何をしたのか、理解が追いついていなかったからである。
「ルート! 今のって!?」
「なんだイーナ? サクヤから教えてもらっていなかったのか? 憑依したパートナーを巫人のマナを使って召喚する…… 巫人のみが使える特別な魔法らしい」
召喚? 確かに、さっきルートがシナツの名を呼んだ直後、なにもなかったはずのルートの足元から突然シナツの姿が現れた。だが、そんな事サクヤからは、全くもって聞いていない。
――サクヤ知ってたの!?
――ま、まあの…… そのくらい知っていて常識じゃわい……
言葉では知っているといったサクヤであったが、動揺を隠せていないのはバレバレであった。どうやらサクヤも召喚という魔法までは知らなかったようである。
――だったら、教えてくれれば良かったのに……
――わらわの力に頼っていては、おぬしも成長できぬじゃろ! 愛のムチじゃ!
なんだか上手いことごまかされたような気もするがまあいい。ちょっと意地悪だったかなと自分でも思うし、そんな会話を楽しんでいる余裕なんてないのは間違いない。
――先ほどの技…… 主の中から見ていたが、どうやら主とわらわ、2人で協力する必要があるようじゃな。心配はいらん。主はわらわの姿をマナで作ることをイメージしろ! 後はわらわがなんとかする!
相変わらずこちらの様子を伺ったまま距離をとっている大神達を前に、私はさっきルートがやっていたのと同じようにマナを操っていく。サクヤの姿をイメージしながら、マナでサクヤのイメージを形作るように。いきなりの実践で上手く行くなんて保証はどこにもない。だが、私達ならきっと出来る。なんと言っても私とサクヤは一心同体。文字通りパートナーなんだから。
――サクヤ! 出来る!?
――あの程度のこと一度見たら余裕じゃ。わらわを誰だと思っておる?
「いくよ! サクヤ!」
そう、サクヤに声をかけるのと同時に、頭の中でイメージしていたサクヤの姿がだんだんと鮮明になっていくのを感じた。そして一気に私の身体の周りに渦巻いていたマナの流れが激しくなっていく。ぽつりぽつりと空気中に炎の玉が発生していき、だんだんとサクヤの形にまとまっていく。
「あの女まで妙な技を……!」
こちらの様子を伺っていた大神の1人が声を上げる。私の目の前には、赤く光り輝く狐が1人。私も良く知っているその姿はサクヤそのものであった。
「どうやら上手くいったようじゃな!」
「サクヤ!」
こちらを振り返るサクヤ。私の中にいたはずの、ここまでずっと一緒に過ごしてきたサクヤは、確かに、今私の目の前にいる。いつも一緒にいるはずなのに、なんだか懐かしい気持ちが私を襲ってくる。
「良くやったぞイーナ。上出来じゃ!」
サクヤは、私に向かって短くほほえみかけた後に、再び相対する大神たちの大群の方へと視線を戻し口を開いた。
「この状態を留めておくというのはなかなかに骨が折れそうじゃ。いっきにやってしまうぞイーナ!」
「了解! 頼んだよサクヤ!」
「犬共よ、九尾の力、とくと見せつけてやろうではないか」
サクヤの言葉と同時に、大神たちを包み込むように一気に周囲が燃え上がる。突然発生した炎に、慌てふためく大神たち。混乱が大神を包む中、一匹の大神が声を上げる。スガネである。
「こんなまやかしなんぞにこれ以上惑わされてたまるか! 一気に仕留める!」
スガネは、大神の中でも猛者と呼ばれるだけのことがあり、勇敢であった。正しく言えば、無鉄砲だったのかも知れない。私に向かって一直線に突っ込んでくるスガネに、サクヤは今まで私が見たことのないような冷たい視線を送る。初めて見るサクヤの真剣な表情に、私は背筋が凍るような、そんな感覚を覚えたのである。
「身の程を知るが良い。犬め」
そんなサクヤの言葉の直後、こちらへと向かってきたであろうスガネの周囲を炎が包む。流石に大神の中でも実力は上位、スガネのスピードは他の大神たちよりも一回りも二回りも速かった。まるで九尾の目を持ってしてもその姿を追うのがやっとと言うほどに。まともに戦ったとしたら、反応するのだけで精一杯であるのは言うまでもない。
だがそんな、速さでさえ、九尾であるサクヤの前では無力に過ぎなかった。動き出した直後、一瞬で炎に包まれたスガネは、結局、こちらに近づく前に空中で音もなく燃えつきたのだ。
「犬がわらわに挑もうなぞ、百年早いわ。出直して参れ」
そう言い捨てた後、鮮明だったサクヤの姿がおぼろげになっていき、そして私の目の前から消えた。私の目の前に残ったのは、リーダーを失って戦意を完全に失った、大神たちの大群のみであったのだ。




