表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/166

35話 大神の巫人


「元々、俺達大神の一族は、人里から離れた『原始の森』で人間達と関わることなく暮らしていた。だが、そんな折、突如俺達の元に現れたのが奴だ」


「奴?」


 話の流れから察するに、シナツの口から発せられた『奴』とはマガヒの巫人であるという人間の事だろう。俺の問いかけに対してシナツは小さく頷いた後、話を続けた。


「カーマと名乗ったあの女。最初、奴は俺の元へとやってきたんだ。俺と手を組まないかと。手を組めば、世界を手中に収めることが出来ると言ってな。もちろん俺は断ったさ。奴が次にターゲットにしたのが、マガヒだったというわけだ」


 世界を手中に収めることが出来る…… 確かに先ほどの戦いを見る限り、大神の持っている能力も、妖狐の持っている能力に匹敵するほどに、強力な力である事に間違いない。そんな力が、もしろくでもないことを考えている連中の手に渡ってしまったのだとしたら、シナツの言うとおり、人間にとっても脅威になる可能性は高いだろう。


「そのカーマとか言う奴について他の情報は無いのか? お前にも接触してきたんだろう?」


 シナツに問いかけるルート。正直、俺達人間側の立場からすると、大神がどうなろうとさほど関係が無い話であり、ルートの問いかけの通り、カーマという人間が何を目的に大神に近づいたのか、それが最も重要な話であるのだ


「カーマという女が大神の力を狙って俺達の元を訪れてきたと言うこと、そして他にも仲間がいるような事は言っていたが、それ以上詳しいことはわからない」


「私もちょっと聞きたいんだけど…… もしそのカーマって言う女の目的が、世界の征服だったとしてさ、どうしてマガヒが協力するの?」


「マガヒは大神の一族の中でも野心に溢れている男だ。だからこそ、原始の森で慎ましく暮らしていた以前の大神の体制が許せなかったのだろう」


 シナツの話によると、大神の一族は、原始の森で慎ましく暮らしていこうという先代の真神をはじめとした穏健派、そして人間が実質世界の支配者となっている現状を面白く思っていなかったマガヒ達の一派に分かれていたらしい。


 マガヒという男はいつも、シナツの父親である先代の真神に言っていたそうだ。この世界の支配者は人間ではない。強大な力をもつ大神こそが世界を支配するにふさわしいと。こんな森の奥深くに引きこもっているだけしか出来ないと言う大神の現状に、内心不満を持っていたに違いないのだろう。


「奴の考えはあまりにも危険すぎる。だからこそ先代の真神は奴を警戒していた。だが、誤算だったのは、巫人の存在だ」


「そんなに? 巫人の力ってそんなにすごい物なの?」


「試してみるか? 仮に憑依をしたとしても、解くことはさほど難しくはない。一度、巫人になってみればわかるだろう?」


――おい、イーナよ! わらわは許さんぞ! わらわがいるというのに、さらにあんな犬っころまで宿そうというのか?


 こちらに問いかけてきたシナツの言葉に、サクヤが反応する。どうやら、よっぽど面白くなかったのか、本気の拒絶と言ったような様子である。


――私はやらないよ。だってサクヤがいるじゃん!


 初めて聞くサクヤの焦ったような声に、サクヤにもこんな可愛らしいところがあったんだなと実感しながら、俺はサクヤに言葉を返した。すると、俺の返答を聞いたサクヤは先ほどまでの少し不機嫌そうな様子から一転して、ご機嫌な様子で言葉を返してきた。


――ふむ! ならばよい。


 サクヤの反応からして、俺がシナツの巫人になるのは無理そうである。そもそもサクヤの九尾の力すらまともに使いこなせていないというのに、他の力をもらったところで、宝の持ち腐れになる事など目に見えている。


「シナツ、申し訳ないけど、私は『巫人』にはなれないよ。もうすでに私は『九尾の巫人』だからね」


「なるほど、お前から感じていた不思議な力…… 九尾の力というワケか……」


 俺の返答を聞いたシナツは少し残念そうな様子であったが、間髪入れずに、横からルートが言葉を挟んできた。どうやらルートはシナツの話に大分興味があるような様子だ。


「その巫人というやつは誰でもなれるものなのか?」


「ああ、試してみるか? 見たところ、お前もずいぶんと鍛えているようだしな。上手く大神の力使いこなせるやも知れんぞ?」


 シナツの問いかけに頷いたルートは、そのまま静かにシナツの方へと近づきはじめた。


「俺の頭に触れ、そのまましばらく触ったままで動くなよ」


 シナツの指示を聞いたルートは、無言のまま頷き、そのままゆっくりとシナツの頭へと手を伸ばした。そして、ルートの手がシナツの頭に触れた瞬間、ルートとシナツの周りを目映い光が包み込んだ。その光は一気に少し離れた俺達の方にも広がってきて、あの時と同じように、俺の視界も一気に白に包まれたのだ。


「……一体何が起こっているんですか!? ルート君は!?」


 ただ1人ナーシェが慌てた声を上げる。俺は一度体験したから慌てることもなかったが、初めて見るものからすれば、一体何が起きているのかと不思議に思うのも無理のない話だ。そして、次第に収まっていく光の中に、1人の人間の影が見えた。どうやらシナツの憑依は無事に成功したようだ。


 ゆっくりと光の中から現れたルートは、今までのルートの姿とあまり変わらない、強いて言うなら、少しだけ髪の毛が伸びて、野性味が増したような…… まあ一目見てルートである事はすぐにわかる程度の変化しか生じていないようだった。本当に憑依が成功したのか、ほとんど見た目からは判断できなかったが、シナツと心の中で会話が出来るルートの言葉によると無事に成功したとのことだ。


……いや、おかしくない? ルートはあんまり変わってないのに…… なんで俺だけ…… 姿どころか性別まで変わったというのに…… こんなの絶対おかしいよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
マガヒ・・・禍津日神か〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ