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27話 これからなにをしようかな


「イーナちゃん! ルカちゃん! ギルドに登録したパーティは宿舎が使えるんですよ! 2人ともレェーヴから出てきたばかりで、住むところもないでしょう? 良かったら案内しますよ!」


 ギルドに登録を済ませた俺達。ひとまず、これでお金稼ぎには困らないだろう。だが、ナーシェの言うとおり、フリスディカに出てきた俺達にはまだ住むところもない。お金を稼ぐ前に俺達がやらなければならない事。それは拠点の確保である。


「ほんと! 助かるよ!」


 とりあえず、ヴェネーフィクスとしての任務は後回しだ。まずはこれからしばらく拠点になるであろうフリスディカでの生活に慣れることが必要である。


「まあ、まて。もちろんそれも大事だが、その前にやることがあるだろう?」


 俺とナーシェとの会話に入ってきたルートは、自らの荷物の中をごそごそと漁っていた。その前にやる事って…… 一体なんだろう? そう思っていた俺の前に、ルートは先の尖っていた、黒光りしている物体を出してきたのだ。


「これって…… 何?」


「ダイダラボッチの角だ。イーナも覚えているだろう。俺達が倒したダイダラボッチの頭に立派に生えていた角。イーナの炎魔法の中でも、この角だけは残っていたからな。密かに回収しておいたんだ」


「角? これをどうするの?」


「これはダイダラボッチを討伐したという証にもなるからな。俺達もダイダラボッチ討伐の報酬をまず受け取らなければならない。それこそ、ハインやロッドが犬死にと言う事になってしまう。今回こいつを仕留められたのもイーナのおかげだ。是非イーナ達にも受け取って欲しい」


 確かに、人間の世界で生きていくために必要な、お金をまだ持っていなかった俺に取って、ルートの提案は何よりもありがたい提案であった。だが、はたして俺が受け取ってしまって良いものなのか。ダイダラボッチの討伐こそなしえたものの、ハインとロッド、2人の勇敢な戦士の命が犠牲になってしまった。せめて報酬は彼らの家族等に渡してもらいたかった。そうしないと、彼らの家族があまりに浮かばれないだろう。


「わ、私は……もらえないよ! それよりもせめて、ハインやロッドの家族にお金だけでも渡してあげて欲しいな……」


「気にするな。さっきも言っていただろう。命の保証は出来ない、それを織り込み済みで、皆ギルドに加入しているんだ。イーナにはきちんときちんと受け取る権利はある」


「でも……」


 もちろん、ルートの言っている事も理解はできる。だけど、どうしても生き残った俺が報酬をもらうと言うことに罪悪感を覚えてしまう。食い下がった俺に、再びルートが声をかけてくる。先ほどよりも静かな口調で、そして、真面目な表情を浮かべながら。


「……俺もハインも、家族はいない。俺達にとっての家族はこのパーティだったんだ」


 突如としてルートの口から伝えられた、重い現実に、俺も返す言葉を見失ってしまった。ルートはさらに言葉を続ける。


「そういうことだ。それにイーナ、お前はハインから、剣を託されただろう。同じパーティーのメンバーになった今、イーナだって、俺達の家族同然だ。あいつもきっとイーナがこの報酬を受け取ってくれることを望んでいるはずだ。あいつのためにも、受け取ってもらえないか?」


「……わかった。ありがたく受け取らせてもらいます」


 そこまで言われてしまったら、こちらとしても受け取らないわけにはいかない。それに何よりも、今の俺とルカには、人間界で生きていく為に、お金が必要という事実は変わらない。


 ダイダラボッチの角は、俺が想像していたよりも貴重な代物であったようで、討伐の分も含めて、なかなかの金額を受け取れた。これだけあれば当分の間、生活をして行くのには困らないであろう額だ。やはり、命をかけているだけあって、もらえる報酬額はなかなか悪くない。


「よし、じゃあ報酬も受け取ったことだし、宿舎の方に向かうか!」


 ルートとナーシェに案内されるがままに、俺達はギルド本部の建物を出た。相変わらず入り口近くの酒場は柄が悪く、通り過ぎる俺達に突き刺さる視線は痛かったが、別に彼らとパーティを組むわけでもないし、そこまで気にする必要は無いと割り切った。彼らにどう思われようが、俺達にとっては無関係であるのだ。


 再び、人で賑わう大通りを、駅とは反対方向へとひた歩く。先ほどまでとは異なり、ギルドの制服に袖を通した俺は、たびたび街を歩く人々の視線を感じていた。まあ、向こうからしても、俺やルカのような一見戦いには無縁そうな少女が、ギルドの制服を着ていると言うこと自体が、信じられないような話なのであろう。


 だが、俺達は誰もそんな事は気にしていなかった。今までと変わらない態度で接してくれるルートとナーシェ。2人の存在が、俺に取っては何よりも大きかった。


「こっちですよ! 宿舎は沢山ありますけど…… ここは結構よく使う場所なんです!」


 張り切って歩みを進めるナーシェの後をひたすらについていく。そして、大通りを歩くことしばらく、1本中に入った場所にある建物の前でナーシェが足を止める。そのまま、中へと入っていたルートとナーシェ。俺とルカ、そしてテオも、2人の後に続いて建物の中へと入る。


「おじさん! 部屋は空いていますか!」


「おう、ナーシェ! ルート! 戻ったんだな!ハインとロッドの事は残念だったな…… 二部屋もう用意は出来ているぞ! いつもの部屋だな」


 もうすでに、おじさんもハインとロッドについての話は聞いていたようだった。ギルドという組織は、話が回るのはずいぶんと早いようである。宿舎の入り口の所にいたおじさんは、今度は俺とルカの方に向かって声をかけてきた。


「おう、おまえらが噂になってるヴェネーフィクスの新メンバーだな! ずいぶんと可愛いパーティになったじゃないか! ルートよ! やはりイケメンはモテモテだな! ナーシェだけじゃなくてこんなに可愛らしい嬢ちゃん達まで手玉にとるとは……」


「冗談はよせ、ヴォルガフ。そんなんじゃない」


 冷静に言葉を返すルート。ヴォルガフという宿舎のおじさんからは悪気のようなものは感じられなかった。ルートも口では冷たい返しだったものの、特に先ほどの連中に見せていたような不快感は持っていないようである。きっと、このおじさんとは、信頼関係が出来ているのだろう。それは俺にもすぐに読み取れた。


「まあ、ヴォルガフさんは、ちょっと癖はありますけど…… 悪い人ではないんですよ……」


「おい、ナーシェ聞こえてるぞ! ちゃんと掃除までしておいたというのに、その言いぐさは酷いんじゃないか!」


 こそっと俺達に耳打ちをしてきたナーシェの言葉は、どうやらヴォルガフにも聞こえていたようで、俺達の方に向かってヴォルガフは言葉を返してきた。だが、特にヴォルガフも怒こっていると言った様子では全くなく、むしろ表情は笑みを浮かべていた。


「まあ、部屋はすでに準備は出来てるさ! お前達も色々あって疲れただろう。 次の任務までせめてゆっくり休んでいってくれよな。俺達にはそれくらいしか出来ないからな!」


 がははと笑うヴォルガフ。なかなかに声がでかく豪快なヴォルガフに、俺とルカは一礼だけして、先に部屋の方へと向かっていったナーシェとルートについていった。


 綺麗に掃除の行き届いた廊下を進み、2階の隅にある部屋の前にたどり着いた俺達。向かい合った部屋は、いつもヴェネーフィクスのメンバーが使っていた部屋だそうで、ヴォルガフの好意もあり、基本的に他の人に貸すと言うことはしていないらしい。


「じゃあ、テオ君はルート君と一緒で! 私達はこっちです!」


 向かいの部屋に入っていったルートとテオを見送った俺達は、ナーシェに続いて部屋の中へと入った。内部は綺麗に整頓されており、思ったよりも広い。これなら3人で部屋を使ったとしても十分すぎるほどの余裕はありそうだ。

 

 ヴォルガフが新たなにベッドを入れてくれたのだろう。元々あったであろうベッドの横には、二つまだ綺麗なベッドが設置されていた。そして、部屋の隅の方で存在感を放っていた本棚。本棚の中には、ナーシェの物だろう、医学に関する本が大量に詰められていた。


「すごいね! これ全部医療に関する本?」


「そうですよ! 医療の世界は日進月歩ですから……! 私の医療の知識はパーティの生死に直結してしまいます。だから、勉強は欠かせないんです! ほら! これ見てください!」


 ナーシェが取り出してきた一冊の本。まだ新しそうな本である。ナーシェが開いて見せてくれたページには、医療の本にも関わらず、何故か仰々しいドラゴンが描かれていた。


「ドラゴンと医療が何の関係があるの……?」


「本当かどうかわからないんですけど…… ドラゴンの血には、どんな病をも治す。そんな説が最近流れているらしくて…… 噂の発端は全くわからないって言うのが、何とも怪しい話ではあるのですが、それでもなかなか興味深い話題ではありますよね! 本当にそんな力があったとしたら、是非とも私も確かめてみたいものです!」


「ふーん……」


 この世界の医療がどこまで進んでいるのかはわからないが、何とも胡散臭い話ではある。そんな便利な話が本当にあるのだろうか。だが、その話を聞いたサクヤは、ドラゴンの話に興味を持っていた。


――ふむ、その話が本当ならばわらわの病も治すことが出来るやも知れないな……


――そんな怪しい話があるか? 


――最初から可能性を狭めてどうするのじゃ? イーナよ! 世界はわらわ達がまだ知らないことで溢れているのじゃぞ! 


 サクヤの言葉で俺ははっとした。確かに、俺の狭い常識の中で語っても無意味である。なんと言っても、この世界はマナだの魔法だのある世界なのだ。ドラゴンがいたって何も不思議ではないし、魔法みたいな力を持っていたとしても、全くおかしくはない。


 人間の世界で拠点も出来たし、これからは色々と調査も出来る。サクヤの言うとおり、最初から可能性を狭めてしまってはいけないだろう。せっかくわざわざ妖狐の里を離れ、大都会であるフリスディカまで出てきたのだから。


――そうだね…… ちょっと調べてみようか。まずは、情報収集だね!


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わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

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