22話 The Sound of Civilization
第一章完結です!
「イーナちゃん! これからもよろしくお願いします!」
ルートに向かって返事をした俺に抱きついてきたナーシェ。ナーシェの嬉しそうな顔に、つい俺の口角も緩む。
「おいおい、イーナ、ナーシェ。まだパーティが完成したわけじゃないんだぞ……」
「そ、そうでした……」
あきれたように笑いながら答えるルートと、何かを思い出したようにはっとした表情を浮かべたナーシェ。
「え? どういうこと?」
2人に会話に全くついて行けていなかった俺は、ルートの言っていた事の意味するところがわからなかった。完全に置いてけぼりである。そんな、俺にルートが説明をしてくれた。
「ギルドにパーティ登録をするためには、4人以上必要なんだ」
モンスターを相手にすると言う仕事である以上、非常に危険の伴う仕事であることは言うまでもない。そのため、パーティとして登録し、ギルドの任務を受けるためには、4人以上メンバーが必要であると言うことである。今のところだと、ルートとナーシェと、そして俺。3人しかいない。つまりは、もう1人パーティに加える必要があると言うことのようだ。
「もう1人…… 探すって事?」
「そう、だが皆すでに自分たちのパーティを持っている連中ばっかりだからな。そう簡単には見つからない。まあ、あと1人と言うことであれば、ギルドの本部に行けば見つかるだろう! そんなに心配することはないさ!」
はじめにルートが解散を口にしたのは、そういった事情もあってのことらしい。パーティを組んで、ギルドに登録するという方法が一般的なこの世界では、なかなか有能な戦士や魔法使いがフリーでいると言うことは珍しいらしい。そのため、ある程度実績のある戦士や、見所がある訓練生は引く手数多だそうだ。
ギルドに所属するパーティは、モンスターの討伐や、まだ調査が進んでいない地域、すなわちモンスターの巣くう地域の調査にあたる。モンスター相手と言うこともあって、途中で誰かが命を落としてしまうと言うことは結構あるそうである。
メンバーが欠けてしまったパーティのとる道は2つ。解散して、それぞれが違う道にすすむか、もしくは誰か新しいメンバーを集める。だが、先ほどのような事情もあって、複数人メンバーがかけてしまったような場合は、ほとんどの場合、解散という道を選択するのが一般的であるとのことである。
「まあ、街に行けば誰かは見つかるさ。まずは、王都に戻る。話はそれからだな」
「わかった、でも少しだけ時間が欲しいんだ! 妖狐の皆に、それにルカにもきちんと説明はしないといけないから……」
もうすでにサクヤの了解は得ていたし、そもそも人間の世界に行くという選択は、サクヤの命を救うために、そうする他はないと判断したからである。それでも、特にお世話になったルカやルクス達には、自分の口から説明しなければならないだろう。
「もちろんだ。王都に戻れば、しばらくここにも戻ってこられなくなるかも知れない。きちんと話をつけてくるんだイーナ」
………………………………………
「人間の世界に行くですと……」
ルート達との話を終えた俺は、早速、里長であるルクスの元へと話をしにいった。最初こそ驚いた表情を浮かべたルクスであったが、理由を説明すると、ルクスもすんなり許諾してくれた。ダイダラボッチの一件や、妖狐の子供を助けてくれたと言うことで、妖狐の里の皆もルート達人間に対して良い感情を持っていたし、誰も反対する者はいないということだった。ただ1人を除いては。
「いやだ! イーナ様が行っちゃうなんて!」
まあ、こうなることはわかっていた。何とか引き留めようとするルカに、説得しようと試みた俺であったが、全くルカはその制止を聞き入れるような様子は見られなかった。
「ルカ…… あのね……」
「いやだ! イーナ様だけ人間の世界に行くなんてずるい! それならルカも一緒に行く!」
「ルカも行くって…… ここみたいに平和なところじゃないんだよ。悪い人間も一杯いるし……」
人間の事なら俺だってよくわかっている。ルートやナーシェはいい人には違いないが、人間誰しもが彼らのようにいい人というわけでもない。人が集まる街に行くとなれば、それなりに悪い人間だっているだろう。
そんな心配をしていた俺であったが、意外にもルクスはそんな無茶に近いようなルカの提案にも否定的ではなかった。そして、なんとルカだけではなく、ルクスまでもが俺に頭を下げてまで頼み込んできたのだ。
「イーナ様。もし一つだけ私の願いを受け入れて下さるというのであれば、是非ルカを一緒に連れて行ってもらえないでしょうか。ルカはこの里の妖狐達の中でも、巫女と言って九尾様のお世話をするという特別な役割を担った妖狐なのです。九尾様がこの里を離れるというのであれば、お付きであるルカも離れなければ過去の巫女達に説明がつかないのです」
「でも……」
「良いじゃないですか! ルカちゃんもメンバーに入ってくれるというのなら私も大歓迎です!」
ナーシェが嬉しそうに口にした言葉に、ルカも笑顔を浮かべる。
「そうだよ! さっきのイーナ様のお話だと、せっかくルート達と一緒に行っても、パーティを組むためには、もう1人捜さなきゃいけないんでしょ!」
それはそうなんだけど……
――良いじゃないかイーナよ。ルカはああ見えても、妖狐の一族の中でも中々の資質を持っておるのじゃ。わらわの巫女に選ばれるくらいの妖狐じゃからな!
――そうかも知れないけどさ。
――そんなにルカの事が心配だというのなら、おぬしが守ってやれば問題ないじゃろ。
サクヤにそう言われてしまっては、俺も返す言葉が見つからない。確かに、ルカに危険が迫りそうになった時に、俺が守ってあげれれば問題の無い話であることは事実である。
「……ルートは?」
「皆が良いというのならば、問題は無いだろう。それに、ルカがパーティに入ってくれるというのなら、人数の問題も解決する。後はお前次第だな」
誰も異論は無い以上、もはやルカの加入を断る理由もない。仕方無い、危険は確かにあるかも知れないが、人間界に行くというのはそれ以上にルカにとって大きな収穫があるであろうと言う事は俺も十分に理解はしていた。
「……わかったよ」
そう俺が呟いた瞬間、ルカは一気に笑顔へと変わった。そして、俺がパーティに参加するのが決まったときと同じように、ルカに抱きつくナーシェ。まあきっとルートやナーシェがいればルカの事も大丈夫だろう。多分……
「……九尾様、人間界に向かうのニャ? うらやましいのニャ……」
そして、もう一匹、羨ましそうな様子でこちらを見つめる猫がいた。ケット・シーのテオである。ダイダラボッチの一件が解決した後も、なぜか自分たちの一族の元へと戻るわけでもなく、俺達と行動を共にしていたテオ。どうやらずいぶんと懐かれてしまったらしい。それにいつの間にかルカとすごく仲良くなっているようであった。こうなってしまっては仕方無い。ルカを連れて行くというのに、この子だけ放置しておくというわけにはいかない。
「……テオ、君も一緒に行く?」
「そうだよ! 一緒に行こうよテオも! せっかくだし!」
「おいおい、ピクニックじゃないんだぞ」
口ではそう言ったルートであったが、表情は柔らかな笑顔を浮かべていた。そして、俺の問いかけに嬉しそうな様子で首を縦に振ったテオ。新たな仲間の加入をルートもナーシェも喜んでくれているようだった。
「話は決まったようだな。みんなの準備が出来次第出発する。まずは、ここから近いカムイの街に戻る。目的地は、ギルドの本部がある王都フリスディカだ」




