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21話 私、皆の役に立ちたいです


 自らの部屋に戻った俺は、なにをするわけでもなく、そのままベッドへと崩れ落ちた。もう身体も正直限界に近かった。魔力を使いすぎたと言うことも、もちろんあったし、それ以上に今日は色々ありすぎた。身体は今にも眠ってしまいたいと言わんばかりに疲労がたまっていたが、妙に目だけは冴えてしまっていて、全く寝付けそうにない。


 そして、真っ暗になった部屋の中、同じく部屋へと戻り、ベッドへと入ったナーシェが囁くような小さな声で俺に話しかけてきた。


「ねえ…… イーナちゃん……」


「どうしたのナーシェ?」


「いや、なんか寝付けなくて……」


 そう言葉を口にしたナーシェ。ナーシェにとっても今日の出来事はショックが大きかったのであろう。無理もない。なにせ、今まで一緒に苦楽を共にしてきた仲間が、一気に2人もいなくなってしまったのだから。そして、突然パーティを解散すると言われてしまったのだから。もうすっかりナーシェは落ち着いてこそいたが、それでもやはり動揺は隠しきれないようであった。


「あのね…… これだけは伝えておきたくて…… 今日は色々あったし…… 正直、私も自分の選択がよかったのか、答えは全然わからないんですけど…… でも、私がこのパーティを続けたいって、ルート君に言ったとき、イーナちゃんがパーティに入れて欲しいって言ってくれたこと、本当に嬉しかったんですよ」


 ナーシェの声色は少し明るかった。もちろん空元気であるかも知れない。それでも、ナーシェが少し元気になってくれたと言うこと、そのことだけでも俺にとっては胸をなで下ろすような事であったのだ。


「私もさ…… 正直このタイミングで言うのが、正解だったのかどうかは、わからない。でも、このままルートとナーシェが別々の道に行ってしまったら…… ハインに申し訳がないというか…… 最期にハインに言われたような気がしたんだ。2人の事を頼むって。だから、私じゃもちろん2人の代わりにはなれないことはわかっているけど…… それでも……」


「きっと、ハインさんなら、そう言うでしょうね! ルート君のことを誰よりも気にかけてましたから! ありがとうございますイーナちゃん!」


 そして、再び2人の間に沈黙が流れる。先ほどまではとは異なり、何処か心地の良い沈黙。その沈黙に身をゆだねながら俺は静かに目を瞑った。気が付いた時には、周囲はすでに明るくなっていた。


「……朝」


 まだ、朦朧とした意識の中、起き上がった俺は隣のベッドで寝ているはずのナーシェの方を視線を送った。だが、ベッドの中にナーシェの姿はなく、先ほどまでそこにいたようなベッドの沈んだ痕跡こんせきと、無造作に剥がされた布団だけが残されていた。


 次第に意識が鮮明なものへと変わってくる。妙にそわそわして身体が落ち着かない。もちろん疲れはまだ残っていたし、身体は未だに鉛のように重かったが、何とか身体を起こした俺は、部屋着のまま静かに部屋を出た。


 外の空気でも吸いに行こう。


 どうしてそう思ったのかは自分でもわからない。だけど、何かに呼ばれたような、そんな気がして、俺はそのまま音を立てないように静かに家の玄関の扉を開き、まだ少しひんやりとした空気が包む外へと脚を踏み出したのだ。


 まだ早朝の外は、明るく照らされていたものの、静寂せいじゃくに包まれていた。外に出た俺は、たった数日間の、それでも俺にとってはすごく思い出深い、ハインとの修行のことを思い出したのだ。


 ハインやロッド達と出会えたことは、見知らぬ世界に迷い込んでしまった俺にとって何よりも幸運なことであった。あのとき彼らと出会わなければ、俺は今こうしてここに立っていることは出来なかったかも知れないし、この平和に包まれた妖狐の里も、ダイダラボッチの手によってめちゃめちゃにされていたかも知れないのだ。


 俺はそのままハインと共に修行をした広場の方へと足を進めた。あのときの記憶が鮮明に蘇ってくるなか、俺はひたすらにハインに導かれるかのように、歩みを進めていた。


 そして、あの場所にたどり着いた俺の目に映ったのは、若い男女の姿であった。ルートとナーシェは、何かを話ながら、誰もいない森の方を向きながら立っていたのだ。


 2人が何を話しているのか、遠くて聞き取れなかった俺は、そのまま2人の方へと近づいた。そして、近寄ってくる俺の気配に気が付いたのか、こちらの方を振り返ったルート。ルートに少し遅れてナーシェもこちらの方を振り向いた。


「早いな。まさかイーナまでここに来るなんてな」


「なんか目が冴えちゃってね」


 俺の言葉に笑みを浮かべるルート。そして、いつもの、優しい大人のお姉さんに戻ったナーシェも笑顔を浮かべていた。


「私もふと目を覚ましちゃって…… ここに来たらルート君もいたんですよ。それで……」


 何かを言いかけ、ナーシェは最後まで言葉を発することをやめた。ルートの方に目配せをしながら、ルートを促すようにルートに笑顔を浮かべていた。そして、少し気恥ずかしそうな様子のルートが、ナーシェに変わり、俺に向けて口を開いた。


「あのな、イーナ。昨日の件なんだが……」


 昨日の件と言われても、思い当たる節が沢山ありすぎて、一瞬の何のことかわからなかったが、2人の表情をみた俺は、すぐにルートとナーシェが俺に何を伝えようとしているのか、理解した。そして、俺に対してルートは深々と頭を下げながら言葉の続きを口にした。


「イーナ。俺達のパーティに加わってもらえないだろうか? いなくなってしまったハインやロッドのためにも…… やっぱり俺はこのパーティを解散させたくはない。彼らの分も背負って…… このパーティを続けていきたい。そう思ったんだ」


 頭を下げるルートと、優しく微笑んでいるナーシェに向けて、俺も頭を下げながら言葉を返した。もうすでに俺の答えは決まっている。


「こちらこそ! これからよろしくお願いします! ルート! ナーシェ!」


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わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

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