2-26話 重なる影
「炎の術式……」
「参った! 降参だ!」
「勝者ルカ!」
それからも試合は続々と続いていき、ルカの快進撃は続いた。かつてルカが、ヴェネーフィクスのメンバーだったと言う事もあり、ルカがまったくもって注目されていなかったというわけではない。それでも、現在討魔師として最前線で活躍しているような、逸材達をこうも簡単に打ち破っていくとは、誰しもが想像すらしていなかった。私を除いては。
「……まさか、ルカ…… ここまでとは……」
それはかつて、同じパーティであったルートも例外ではなかった。圧倒的な魔力で、並み居る討魔師達を圧倒していくその様は、ルートに1人の少女を彷彿とさせたのだ。
――これは…… イーナと…… いや、それ以上の才能かも知れない。
かつて、自分と同じヴェネーフィクスというパーティに属し、今や零番隊の中心とさえ呼ばれている、九尾の少女。ルートの目に映ったルカの姿は、そんな九尾の少女と重なっていた。
「……おい、あの子やっぱりやばい……」
「さすが、あのヴェネーフィクスのメンバー……」
「可愛いし、それにあんな魔力…… 間違いなく零番隊に決まりだろう!」
そんな観客達の声は、試合を重ねるごとにだんだんと大きくなっていく。
――ふん、当たり前じゃ! ルカを誰だと思っておる! わらわの…… 九尾の巫女じゃったんだぞ!
ルカの噂がどんどんと広がっていく様子を、自分のことかの如く、誇らしげに言うサクヤ。もちろん私にとっても、サクヤのその意見には同感だった。なんと言っても、妖狐の一族で、九尾に仕える巫女という役割を担っていたルカ。それに私やルートとここまで一緒に戦ってきたのだ。このくらいむしろ当然というか…… むしろ舐められすぎていた位なのだ。
「……ふむ。 本当に…… イーナといい…… ルートといい…… ルカといい! 実に面白い! 若いというのは良いものだな!」
王のすぐそばで、ルカの活躍を見ていたミドウは、満足げな様子でそう言葉を漏らした。
「あら~~ お父様~~ ずいぶんとイーナ達のこと…… 気に入っているんだね~~」
そして、ミドウのすぐ隣でニヤニヤと笑みを浮かべながらそう口にしたアマツ。
「……アマツよ、お前も……」
「ああ~~ いいよいいよ~~ 私は零番隊にはキョウミ無いしね~~ それに…… お父様には私の助けが必要でしょ~~」
「……」
アマツの言葉にミドウは何も言わず、競技場の檀上を一心に見つめていた。次々と観客達の目に焼き付けられていく、若き才能。もし…… もし、アマツも……
そんなミドウの想いとは裏腹に、試験はどんどんと進んでいく。
「では、次の試合! グレン、アルト。両名前へ!」
下馬評では、最も零番隊に近いと噂されていた討魔師グレン。彼もまた、ここまで圧倒的な魔法で、噂に違わず快進撃を続けていた1人である。そして、グレンの相手となるアルトもまた、討魔師として実力を磨き、その力を、ここまでこの晴れ舞台で見事に披露していたのだ。
「……姉御の前で、恥ずかしい姿をさらすわけにはいかねえ! グレンだかなんだかしらねえが、お前を倒して、俺は零番隊に…… 姉御と一緒に……!」
グレンをにらみつけながら、そう口にしたアルト。
呼び方はさておいて…… アルトも、もうかつて、原始の森で行動を共にした時の、サンダーウィングのアルトとは完全に別人。もちろん、あのときだってハンターとして優秀だったことは言うまでもないが、それでも今のアルトは、あのときよりもずっと、戦闘の腕も磨かれていたのだ。
そしてそんなアルトの言葉に、グレンはと言うと、全く動じていないような様子。爽やかな笑顔を浮かべ、淡々とアルトに言葉を返す。
「……君のその熱き思い見事。だけど、僕のこの氷の力の前では、その熱もあっという間に冷めてしまう…… さあ、共にぶつけ合おう! 僕らの思いを! 残るのは君の熱意か…… それとも僕の冷気か……」
「きゃーー! グレン様!!」
観客席から黄色い声援が巻き上がる。グレンはその風貌や華麗な魔法も伴って、1回戦、2回戦と戦いを終えるにつれて、観客の女性達の心を掴んでいっていた。もう準決勝となる現在では、既にファンが大量に出来ていたのだ。そして、このグレンという男、見た目はそこそこ爽やか系イケメンであるのにもかかわらず、いちいち言動というか…… 態度というか、そういうものがどこかずれているのだ。だって、いちいち意味がわからないことを言うんだもん。それでもって、女性達に人気があるというのだから、またタチが悪いというか…… 黙ってれば良いのに…… と私が内心思っていたのは内緒である。
何となく、アルトを応援したくなる。だって、完全にアウェーで…… なんか可哀想なんだもん……
とはいえだ、私とてこの試合の進行を任されている立場。どちらかに肩入れしたり等、そんな事するつもりもないし、出来るはずもない。それに、言動こそどこかずれているとは言え、グレンの実力は本物だ。ここまでの試合、グレンの氷の魔法を前に、候補者達はグレンに近づくことすら許されなかったのだ。言ってしまえば、完璧な試合。既に零番隊の一員であると言われても、何ら遜色の無いような、そんな戦いぶりをここまでグレンは披露してきたのだ。
そして、そんなグレンに…… アルトがどう挑むのか、私のとって、この試合はルカの試合以上に注目していた試合と言っても過言ではないのだ。
「それでは、グレンとアルト! 準決勝試合開始!」




