2-25話 次世代の『炎の魔女』
「では、ルカ、ダダ、両名前へ!」
壇上へと上がるルカとダダ。ルカの初戦の相手であるダダは、ナリスの街で、最近名が売れ出している若手討魔師の1人である。水の魔法を得意とするダダは、特に正確なマナのコントロールに定評があり、緻密に練られた水の罠で幾人もの凶悪な堕魔を捕らえてきた実力者でもある。
「この勝負は流石にダダの勝ちだろう 。経験が違いすぎる」
「ダダの水魔法を打ち破ったという話は聞いたことがないしな……」
そんな声が客席の方から聞こえてくる。そりゃそうだ。現在討魔師としてバリバリ活躍しているダダと、そしてかつて私達と同じヴェネーフィクスのメンバーだったとは言え、討魔師としての実績も無いルカ。普通に考えれば、ダダの方が有利だと考えられたとしても不思議ではない。
――ルカは大丈夫かな?
それにルカとて、こういう皆に注目されるような戦いの経験は無い。ちらほらと観客達の声が聞こえてくる中、果たしていつものルカの力を出し切れるだろうか?
心配になった私はルカの方に視線を移した。だけど、それも私の杞憂だったようだ。いつものルカなら、きっと私の視線にも気付いて笑顔をむけてくれていただろう。だが、ルカの真っ直ぐな眼差しは対戦相手であるダダに向かっていた。まるで、私のことなど全く視界にも入っていないかのように…… それほどまでにルカは集中していたのだ。
「では、第一試合始め!」
「先手必勝! 水の術式! 水牢!」
私の試合開始の声と共に、動いたのはダダ。ルカを前に、ダダはいきなり自らが最も得意とする『水の術式:水牢』を繰り出してきたのだ。ダダとて、ルカの事は決して侮ってはいなかったのだ。
水しぶきが地面から巻き上がり、一直線にルカに向かって飛んでいく。ぽつりぽつりと飛んでいった小さな水の塊は、ルカの身体に触れるやいなや、周りの水滴を巻き込んでいき、そして瞬く間に大きな水の塊となってルカの小さな身体を囲い込んだ。
「捕らえた!」
勝利を確信したのか、不敵な笑みを浮かべたダダ。ダダの放った水の魔法は完全にルカの身体を捕らえていた。そのあまりに華麗な水の魔法に客席からもおお-!という観戦が上がる。
「やっぱりダダだよ! すごい!」
「あの水牢は流石に打ち破れないだろう。決まったな……」
そんな声が再び観客席から聞こえてくる。完全にダダの水の魔法に捕らえられているルカ。端から見れば、もうすでに勝負が付いたと思われても何ら不思議ではない。だが、それでもルカの表情からは一切焦りの様子は見られなかった。まるで、相手の力を見極めているかの如く、余裕を顔に浮かべていたルカ。そして、水の中、ルカの口元がわずかに動く。
「纏炎」
直後、ルカを中心に、灼熱の炎が舞い上がった。ルカを捕らえていた水の魔法は、瞬時に蒸発し、水蒸気がもくもくとルカの周囲から上がる。
「なっ……!」
慌てたような表情を浮かべたのはダダ。自らの水の魔法がこうも簡単に破られるとは想定もしていなかったようだ。客席も一気に響めきに包まれる。
「すごいね! 今の魔法! じゃあ今度は私の番だよ! 炎の術式……」
「まずい……! 水の術式……」
慌てて再び水の術式を唱えようとしたダダ。だが、ダダが身構えようとしていた頃には、もうすでにルカの魔法の準備が整っていた。
「炎渦!」
途端、檀上に大きな炎が舞い上がる。ルカの放った豪炎は、渦のようにダダの身体へと迫っていく。
「水蛇!」
何とか慌てて対処しようとしたダダ。水がまるで身体に巻き付く蛇のように、ダダの身体を包み込んでいく。一気に白煙が上がり、2人の姿が煙の中に消える。
一体どうなったのかとざわつく観客席。そして、次第に立ちこめていた白煙は薄れていき、そして、檀上に2人の影が見え始めた。立ちすくむダダ。そして、ダダの首元に小さな短剣を当てているルカ。勝負は既に決していた。
「……参った。降参だ」
手を上げたまま、そう小さく呟いたダダ。少しの沈黙の後に、競技場は一気に歓声に包まれる。
「すげえ! 何が起こったんだ!」
「見えなかったぞ!」
「それにあの炎…… あの女の子やばい!」
――ああ、やっぱり。
私の目に狂いはなかったのだ。今のルカは…… 今のルカなら、きっと……!
「……勝負あり! 第一試合! 勝者ルカ!」




