2-22話 近づく試練
零番隊選抜試験。
10個の枠のある零番隊のうち、欠員の出ている2枠を討魔師達による自薦から公募する、ある種、国を挙げてのイベントとなりつつあった試験である。その反響は大きく、申込窓口となっている各都市の討魔師協会には、当初の想定を超えて、零番隊を志す討魔師達が殺到したようだった。
ここまで盛り上がってくれたのは、私達にとっても予想外だった。いくら零番隊というネームバリューがあるとは言え、この世界で最も命の危険と隣り合わせとも言える様なこの立場。にもかかわらず、自らの命を省みず、この国のために立ち上がってくれた人達全員と一緒に仕事をしたいというのは、私の本心だ。
だけど、そうも行かないのが現状。実際問題、零番隊に10枠という定員がある以上、全員を選ぶわけにも行かないし、何より零番隊という立場は、決して堕魔に屈してはいけない。私達が堕魔に負けると言うことは、それすなわち、国が堕魔に屈するのと同義であり、誰でも彼でも選ぶというわけにはいかないのだ。
零番隊選抜試験は、主に二段階に分けて行われる。まず、第一の試験として、申し込みのあった各討魔師協会の方で、本戦に出場できる討魔師達の選抜が行われる。本当は受験者全員をこの目で見た上で選びたいというのが紛う事なき本心だが、流石に、全員を私達だけで選考するというのは、無理な話であり、普段から私達と密接にやりとりをしている討魔師協会が協力してくれると言うことで、言葉に甘えることになったのだ。
もちろん、討魔師協会側もメリットがあるから協力してくれているというわけで、私達と協会は立場こそ違えど、目的は同じ。零番隊に優秀な人員が集まれば、それだけ協会の討魔師達の仕事も減る。それに、もしその協会が推薦した討魔師が、零番隊に選ばれるようなことになれば、その協会の評判も上がるだろう。そうすれば、より腕の良い討魔師達が集ってくることになるのは想像に難くない。現に討魔師という仕事は、実力と人気が全てなのだから。
そして、無事に討魔師協会による一次選考を超えた者だけが、本戦…… 試験本番へと挑んでくると言うわけだ。本戦の様子は一般にも公開される。一対一でのトーナメント形式で開催される。本戦へと歩みを進めるための、一次選考の選考基準については、特に細かな誓約は設けていない。各討魔師協会に伝えたのは、各討魔師協会の名前で推薦しても恥ずべきものでない人材であると言う事。推薦できる人数に制限はあるものの、完全に協会側に委託している部分であるため、私達もどんな人物が試験の本戦に挑んでくることになるのかはまだ知らない。とはいえ、どんな人物が来てくれるのか、楽しみである事は間違いない。
最近家に帰ると、やけにルカが機嫌が良い。なにかあったのと聞いても、「なんでもないよ!」とはぐらかされるのだが、もう態度だけでも丸わかりである。きっとルカも零番隊選抜試験を受験するつもりなのだろう。
もちろんルカの受験に不安が無いわけではない。零番隊という仕事は何度も言っているとおり、命がけの仕事。だけど、ずっと零番隊に入りたいと言っていたルカの夢を、私も是非とも応援したい。あれから、ルカもルカでめきめきと実力を上げてきていたのは私も良く知っているし、きっと零番隊に加わってくれるのならば、すごく戦力になってくれることは言うまでもないのだ。
本当は、私の方から、ルカの加入をミドウに推薦するということを考えたことは何度かあった。だけど、それで零番隊に加入したとして、本当にルカの為になるのだろうかと、私は推薦を思いとどまったのだ。ルカが私達と同じ、ヴェネーフィクスというパーティに属していたことは、討魔師であれば大多数の人間が知っている。そこでルカが推薦で零番隊に入ると言うことになれば、特別扱いだ何だと文句をつけてくる者だって少なからずいるだろう。こういう公募という形なら…… 険しい競争を乗り越えて、実力で零番隊の座を勝ち取ったならば、誰も文句を言ってくるものはいないだろう。
だけど、試験は試験。例えルカだからと言って、特別扱いをする気はないし、出来るわけもない。試験の様子は一般公開されているし、見ている人達にとっても、零番隊にふさわしいと思えるような討魔師を選出しなくてはならない。だから、私にできる事。それは…… 心の中で応援すること。ただそれだけだ。
――ルカ、頑張れ!
小さな少女の挑戦を、私は何も言わず見守るだけだ。きっと、少女が夢見た光景を、少女自身の手でつかみ取れる日が来ることを信じて。




