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2-17話 悦楽の堕魔『鬼蜘蛛』


 天使商会


 煌夜街の中でも、最も大きな財力、そして影響力を持ったオーナー企業の一つだ。ただ、それだけ大きな規模で展開しているという会社だけあり、黒い噂も多いらしい。


「……ウズメ」


 天使商会へと向かっている途中、ウズメに天使商会の調査を命じたであろうスクナは、ずっと苦痛に染まった顔をしていた。自分のせいでウズメが殺されてしまった。そう自分を責めているであろう事は、言葉を聞かずとも、私にもすぐに読み取れた。


「スクナ、そんなに自分を責めないで」


 もちろん私だって、自責の念がないと言えば嘘になる。あのとき、無理矢理にでもウズメについて行っていたなら、今頃違った未来が待っていたかも知れない。だけどそれもたらればの話。死んでしまったウズメが戻ってくることもないし、未来がここから書き換わるわけでもない。


 結局、悪いのは全部堕魔なのだ。魔法の力に、欲望に溺れ、人々に危害をもたらす存在。そして、私達がここからできる事はただ一つ。ウズメをあそこまで痛ぶった堕魔を打ち破り、ウズメの無念を晴らすこと。


「……イーナ。一つ、頼みがあるんだけど……」



………………………………………



 それから、天使商会に到着するまでにさほど時間はかからなかった。広い煌夜街とはいえ、あくまで、フリスディカの街の中の一角。移動にはさほど時間もかからない。天使商会の本部は、煌夜会に負けずとも劣らないほどに豪華で、そして巨大であったのだ。だが、奇妙なことに、これだけ大きな規模の会社であるのにもかかわらず、従業員はおろか、ボディーガードの様な人の影も見られない。この治安の良くない煌夜街において、ボディーガードを雇っていない店はほとんど皆無。それだけで、天使商会の中で何か異常が起こっているであろう事はすぐに読み取れた。


「イーナ、スクナ! 俺が先に行く。援護を頼む」


 扉へと近づいていくルート。私とスクナも小さく首を振り、ルートの後ろを慎重に付いていく。剣に手をかけ、いつ襲われても良いように身構えながら、一歩、また一歩と扉へと近づいて行く。そして、ルートは静かに天使商会の扉に手をかけ、一気に扉を開いたのだ。


「零番隊だ! 堕魔に関して……」


 そう声を上げながら建物の中に入ったルート。だが、すぐにルートの言葉が止まる。遅れて入った私達も、中の様子を見るや否や、言葉を失ってしまった。壁は全面、べったりと赤い血で染まっており、床には幾人もの死体の山。そして、中にはウズメと同じように、蜘蛛の巣のような糸に捉えられたまま、裸で事切れている者もいる。まさに惨劇としか形容できないような、そんな地獄のような有様であった。


「……これは……」


 中に入り、様子を詳しく調べようとした矢先、奥の方から何かが動くような気配を感じた私。同じくルートもその気配を感じ取ったようで、私達に向かって声を上げる。


「イーナ! スクナ! 警戒を……!」


 ルートの声とほとんど同時に、私の視界に一瞬だけ白い『動くもの』が目に入った。突然の不意打ちに、それが何であるかまではわからなかったが、その刹那、一気に身体に何かがまとわりつくような、そんな感覚を覚えたのだ。


凄まじい力でわたしの身体を束縛する何か。腕も足も全く動かせるような気配はない。べたべたと皮膚に粘着し、剥がれるような気配もない。全身には白い糸がべっとりと私達の身体を絡み取るように粘り着いていたのだ。まるで蜘蛛の巣のように。


間違いない、この糸は…… ウズメの身体にまとわりついていたものと同じものであろう。


「ちっ……! しまった!」


「おやおや、今夜は大量だねえ…… こんなにも沢山の獲物がかかるだなんて……」


 そして、ロビーの奥の方から、不気味な声が響いてくる。コツ、コツと、捕らわれた私達の方に近づいてくる足音。間違いない。ウズメをあんな目に合わせた…… 堕魔の登場というわけだ。


「……零番隊、伍の座、炎の魔女…… 陸の座、風狼。煌夜街の女王まで……」


 次第にその声の主が、私達の視界にも入ってくる。まるで手入れの一つもしていなさそうなぼさぼさの長髪、痩せこけた細い身体、そして…… この世の全てに絶望したかのような表情。それだけでもう、目の前の男が堕魔であると言う事は、明白だった。


「これも、ウズメも、全部あなたの仕業ってワケね」


「ああ、あの煌夜会の鼠の話!? うん、うん、アレはなかなかに上玉だった! 動かなくなるまで、必死にその糸から逃げだそうと! 勇敢で……大変に美しい芸術品のような……」


 ……なんだこいつ? 完全に頭がぶっ飛んでいる……


「あなた! ふざけてるの!」


 隣で声を荒げたのは、スクナ。同じく糸に捕らわれてしまったスクナであったが、必死に腕を、そして足を動かしながら、なんとか糸から抜け出そうともがいていた。


「……無駄、無駄! 僕の糸はねえ、そう簡単には外れないよ!! ……それに」


「炎の術式:纏炎!」


 糸ならば、焼き切れるはず。そう思っていた私は、冷静に炎の術式を発動していたのだ。だが、予想外だったのは、炎の術式を使ってもなお、その糸が焼き切れることがなかったのである。


「……っ!? なんで!?」


「だから、無駄だって! 炎の魔女、あんたが来てることはちゃんとわかっていたからね。そりゃあこっちだって対策の一つや二つはさせて貰ってるよ!」


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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