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2-16話 天使商会


「えっ……」


 思わず言葉を失ってしまった私。ウズメが…… 殺されて?? まさか…… だって今日の昼…… いや昨日は一緒に……


 ルートの方も、何を言っているんだと言わんばかりの様子でただただ呆然としていた。そんな私たちに、スクナに代わって煌夜会の幹部の一人、サギリが何とか言葉を振り絞るように、言葉をかけてきた。


「……あなたたちの到着まで、現場は保存しておきました。堕魔のてがかりが残されているやもしれないと。ただ…… 申し訳ございません。どうか、私達からの願いを聞き届けていただけるならば…… イーナ様お一人で現場確認のほうをしてはいただけないでしょうか? 図々しいお願いかもしれませんが…… ウズメのためにも、ルート様には現場を見るのをご遠慮いただければ……」


「……ああ、俺は構わないが…… イーナはそれでいいか? 大丈夫か?」


「うん」


 現場検証。堕魔による事件が起こった時には、堕魔の能力であったり、手掛かりを下がるために、このように、私たちが直接被害にあった方のご遺体を見る機会が多い。今までだって、何度もこういう場面には立ち会ってきたが…… ウズメとはこれまで何度もやり取りをしてきたし、煌夜会のメンバーの中でも、なんだかんだで私たちに一番よくしてくれたのはウズメであった。


 そして、そこから先のことは、私もあまり多くは語りたくはない。まさに、人間としての尊厳なんて、すべて奪われたような状態といってもいいだろう。おそらく堕魔の能力と思われる、蜘蛛の巣のようなねばねばした糸に身体を絡めとられ、衣服も身につけないままあられもない姿で動かなくなっていたウズメの身体。鋭い刃物でつけられた無数の傷が、痛々しく、体表に残っている…… こんな…… こんな残酷な……


 私だって、動物とはいえ、何度も最期に立ち会ったことはある。それでも…… この凄惨な有様は、死が比較的近くにあった私でさえ、身が毛がよだつような、そんな光景だった。


 こみあげてくる吐き気を何とか抑え、私はウズメの元へと近づいた。あの時サギリが言っていた私一人で見てほしいという言葉も、十分に納得できる。もし、私がウズメの立場であっても…… 仮に死んでいたとしても…… せめてそのくらいの尊厳くらいは保たせてほしい。


「今日、ウズメは…… 天使商会の方の調査に赴く予定でした。それでも、予定の時間を過ぎても帰ってくる様子がなく…… こんな姿で……」


 ウズメが、私達と別れた後、天使商会の調査に向かうという話は、私達も直接ウズメの口から耳にしていた。そうなれば、ウズメを襲った犯人は、間違いなく天使商会の関係者ということになるだろう。スクナが、天使商会が堕魔とつながっていると疑っていたことにもつながる。だが……


「天使商会の調査に行ったタイミングで、ウズメを襲ったとして、グレーが確信に変わるだけ、天使商会側にとっては何のメリットもないはず…… どうして……」


 堕魔とつながっているという証拠、ごまかしきれないようなそんな証拠をウズメが手に入れたから、殺されたというのだろうか? だったら、わざわざこんな煌夜会の本部の裏手、巫女の森に、衣服を脱がせて体中を切り刻んで、私達に見せびらかすように亡骸をさらす必要なんてない。じゃあ、煌夜会側に対する威圧だろうか? いや、もうすでに煌夜会が私達零番隊と手を組んでしまっている以上、今更圧力をかけたところで遅いのである。


「……どちらにしても、天使商会がウズメの件にかかわっていることは間違いない。私達だって、大切な仲間がこんな…… こんな所業を見せられて、黙っているわけにもいかない。私は、天使商会に向かいます!」


 そう口にしたのは、煌夜会のトップに立つスクナ。スクナとしても、部下であるウズメが、ここまで好き勝手やられて、そのまま放置しておくわけにはいかないのだろう。だが、巫人であるスクナとて、ウズメをここまで一方的に痛ぶれる相手ともなれば、一人では危険だろう。


「わかった、私とルートも行く。堕魔がかかわっている可能性が高いなら、この案件は私たちの領域でしょ?」


………………………………………


 同時刻。


 豪華な椅子に腰かけていた、いかつい男。天使商会の会長であるその男。まるで、マフィアのボスといったような風貌のその男は、目の前に立っていた細身の男に向かって声を荒げる。


「てめえ、どうして煌夜会に手を出しやがった!? 俺たちがてめえら堕魔どもをかくまってきた恩義を忘れたのか!?」


 会長の声に従い、部下の男達が一斉に細身の男を取り囲む。普通に考えれば、絶体絶命の状況。だが、そんなすっかり取り囲まれた状況でも、細身の男はただただ悪魔のように笑っていた。


「……こんなにさ、美しい女性がたくさんいるのに…… 僕はもう耐えきれなかったんだ…… ああ、やっぱり…… 人を殺すのって気持ちがいい…… ねえ知ってる? 最期のさ……」


「気持ちいい!? ふざけんじゃねえ! いいか! てめえが手を出したのはな! 煌夜会だぞ! 奴ら零番隊ともつながっていやがるというのに……!」


「……ああ! やっぱりお前らはわかっていない。わかっていない。わからない。ああ…… わからない!」


 細身の男の表情は一変し、何度も、何度も、何度も、自らを傷つけるように、髪をかきむしっていた。男のあまりの異常さに、さすがの天使商会の連中も、恐れをなしたのか、一歩、また一歩と男から距離をとっていく。


「もういいや」


 そう、男が呟いた直後、部屋の中にいた男たちはいっせいに血しぶきに包まれた。次々と力なく倒れていく男達。そんな地獄のような光景を見ながら、細身の男は再び笑みを浮かべた。


「次は零番隊かあ…… 炎の魔女…… 一体どんな美しい死にざまを見れるのかなあ……」


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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